誰もが通ってきた子ども時代。当たり前のように続く生活を丁寧に描く“日常系マンガ”の傑作『よつばと!』が、読み手の幼い頃の記憶を呼び起こす。 そこにドラマがあってもなくても丁寧に描けば日常はこんなに輝く! 『よつばと!』 あずまきよひこ 著 KADOKAWA 電撃コミックス 既刊16巻・825円〜 カレンダーに発売日を書き入れるほど林士平さんが愛読し「日常系マンガのトップオブトップ!」と絶賛する『よつばと!』。2025年2月に4年ぶりの新刊となる16巻が発売された。物語は夏のある日、郊外の町に5歳の少女・よつばと父が引っ越してくるところから始まる。 ⒸKIYOHIKO AZUMA / YOTUBA SUTAZIO 髪から長く垂らしたひもにリボンを結び、ビニール袋で作ったドレスをまとってプリンセスに扮したよつば。(14巻p.72より) 「自転車やぬいぐるみを買ってもらったり、動物園に行ったり、花火をしたり、町のお祭りに参加したり。キャンプや山登りなどのアウトドア体験もあり、小さな子どもにとっての“初めて”と“特別な日常”が丁寧に繊細に描かれています。体験を共有しながら、幼いよつばの喜怒哀楽を引き出したり、別の視点を提示する周囲のキャラクター配置も天才的! 第1話から、よつば親子と父の親友ジャンボ、隣家に住む恵那と風香とあさぎの3姉妹など、主要キャラのほとんどが登場。ゆるやかでありながら高密度なマンガの技術が炸裂しています」 ⒸKIYOHIKO AZUMA / YOTUBA SUTAZIO ばーちゃんの突然の訪問、数日の滞在、そして別れ。タクシーが道を折れるまで見送ったあとの、この表情とセリフがすごい!(13巻p.202〜p.203より) 遠出や季節のイベントだけでなく、平和な日常が活写される16巻。連載開始から22年がたつが、作中の時間は、よつばの体験や感情を丹念に追いかけながらゆっくりと進んでいく。 「7巻に『よつばと牧場』という回があるのですが、1話前は『よつばとしゅっぱつ』、さらに数話さかのぼると『よつばとねつ』。牧場を楽しみにしすぎたよつばが当日の朝に熱を出してしまいます。子どもにはよくあるエピソードですが、これをマンガにするのか! と驚く小さな出来事もたくさん描かれます。お出かけ、延期、そこに日常が挟み込まれるという、子どもが体感しているであろう濃度で時間が流れていく作りにも感嘆。誰もが通ってきた子ども時代をたどるように読むうちに、昔懐かしい記憶のスイッチが押され、ノスタルジーを感じる。よつばに自己投影する一方で、よつばを見つめる周りの大人に共感し、目線がフィットすると感じることもある。かと思えば、時にはよつばと目が合い『きょうはなにしてあそぶ?』とか『ちょっといしをひろいに!』なんて話しかけられることもあって、コマやページを超えて読み手も同じ場所にいるんだと感じられます」 ⒸKIYOHIKO AZUMA / YOTUBA SUTAZIO 大好きなテディベアを抱えてお出かけ。小学生の恵那とその友人、父も石拾いを堪能する。(15巻p.53より) 日常を読む喜びは、どのようにして生成されているのだろう? 「リアルの生活では目に見えないのと同様に、この作品はモノローグを使っていません。キャラの表情、振る舞いを通して読者に気持ちを伝えるのはやっぱり技術なんですよね。作画、特に背景へのこだわりも恐ろしいほどです。取材し、大量の写真を撮り、それをトレースではなくアナログの絵に落とし込んでいく。写実的という言葉では表しきれないほどの絵作りに鳥肌がたちます。よつばの成長につれ認知がアップすることで背景はより緻密に、語彙もどんどん豊かになっていく……と読めるのも楽しい。顔のアップが時々挟まれるんですが、巻を追うごとに表情のバリエーションも増加します。13巻に収録された、遊びに来たばーちゃんが家に帰るのをなんとか引き止めようとする話、特に最後の数カットが大好きです。同画角の3カット! そこからのよつばのアップ! しびれるコマが連続するのでぜひ探して読んでみてください。花屋に行ってありえないほど大量の花をもらって帰るシーンが1巻にあるんですが、こうした、現実感とファンタジーのブレンドもとてつもなく巧みです。リアルがきっちり描かれているからこそ、こういう場面が成立するんですよね」 マンガ編集者林士平 マンガ編集者。「少年ジャンプ+」の人気作品『ダンダダン』のほか、『こころの一番暗い部屋』『セイレーンは君に歌わない』などの新連載や読切も多数担当。「子育てをしながら読む『よつばと!』も最高です!」 マンガに関する記事はこちら! 『よつばと!』そこにドラマがあってもなくても、丁寧に描けば日常はこんなに輝く!【マンガ編集者のおすすめ】 『昭和元禄落語心中』プロットにも絵にも演技にも感嘆する一作【マンガ編集者のおすすめ】 『寄生獣』不変的なテーマと高密度の物語に震える、ド級の名作 【マンガ編集者のおすすめ】 【コーラル&タスク】と漫画『きょうの猫村さん』とのコラボレーションコレクション第5弾が猫の日に合わせて登場! 【おすすめマンガ3選】食べて、作って、また食べる。グルメマンガの現在を読む【林士平の推しマンガ道】 【林士平の推しマンガ道】2025年、"ロマンタジー"旋風が日本にも到来!?