【林士平の推しマンガ道】幕末から平成まで。近現代史はマンガで読むから面白い!

林士平の推しマンガ道

今回のテーマは日本の歴史! 近現代史にフォーカスした作品を紹介します。

『フイチン再見!』村上もとか著

『フイチン再見!』村上もとか著
小学館ビッグコミックス/ 全10巻・各715円

一人の女性マンガ家の、闊達でドラマにあふれた90年間の生涯を描く。同時に、大正、昭和、平成へと進む社会の形の変遷や女性の社会進出、少女マンガを中心にしたマンガ史に迫る。

『フイチン再見!』は、『フイチンさん』という作品で、女性で初めて小学館漫画賞を受賞した上田としこ先生の伝記もの。僕自身の仕事の起点と歴史に触れるような思いで読みました。1917年生まれの上田先生は、女性マンガ家のはしりとして長谷川町子先生とライバル関係にあり、手塚治虫先生の先輩でもある。赤塚不二夫先生、ちばてつや先生、水野英子先生などレジェンドもたくさん登場します。大正から平成に至る90年間の人生をここまで詳細にたどって読ませるって、村上もとか先生だからこそ成しえた偉業だと思います。歴史の転換も、個人の感情が動くさまも、夢の話までリアルに描写されているから驚きます。個人的には戦後、満州からの引き揚げのエピソードに泣きました。このままNHKの朝ドラになってほしいくらい!

『アサギロ〜浅葱狼〜』ヒラマツ・ミノル著

『アサギロ〜浅葱狼〜』ヒラマツ・ミノル著
小学館ゲッサン少年サンデーコミックス/既刊28巻・482円〜

浅葱色の揃いの羽織で京の都を闊歩した新選組。江戸末期に最強の剣士として名を鳴らした沖田総司、新選組を率いた近藤勇、その右腕となった土方歳三などを中心に新選組を描く長編。

新選組を題材にとったヒラマツ・ミノル先生の『アサギロ〜浅葱狼〜』は2009年から長期連載中。沖田総司の幼少期から物語が始まります。近藤勇との義兄弟のような関係もかっこよくて、漢気あふれる作品だと読み進めていくと、キャラクターたちの表情と言動がどんどん変わって不穏になっていく。ヒロイックに美化されることの多い題材を、史実に基づいて容赦なく描いていくのがすごい! 数十ではきかない人物の表情や造形の描き分けにも驚愕。佐久間象山の最期の顔が忘れられません。

『だんドーン』泰 三子著

『だんドーン』泰 三子著
講談社モーニングKC/既刊3巻・各759円

薩摩藩に仕えた武士にして、後に日本警察の父と呼ばれることになる川路利良の物語。広く知られた史実に、新たな発見や最新の研究も交えながら繰り広げられる幕末史コメディ。

同じく幕末を舞台にした『だんドーン』。ご自身も警察官だった泰三子先生が『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』に続いて選んだ主人公は、日本警察の父と呼ばれる川路利良(正之進)です。傍には西郷隆盛や島津斉彬など薩摩の有名人たちもいます。単行本に「今まで知られていなかった川路大警視のこと、幕末・薩摩のこと、西南戦争のことが次々と判明」という一文があり、一体なんなんだ! 早く知りたい!と心を鷲づかみにされています。テーマはずっしり重厚ですが、独特のテンポで繰り広げられるコメディベースの物語。油断していると泣きをぶっこまれます。歴史とはつまるところ解釈だと思っているので、作者の解釈と認識が魅力的であれば、いやが応でも物語に惹きつけられる。試験勉強ではなかなか出合えない、その時代の空気に触れることができる3作です。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」連載中の担当作に『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『HEART GEAR』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』。4月スタートの『ケントゥリア』『おぼろとまち』『さらしもの』「少年ジャンプ+」アプリで初回全話無料です!

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