【おすすめマンガ3選】食べて、作って、また食べる。グルメマンガの現在を読む【林士平の推しマンガ道】

日々生まれ続けるあまたの作品のなかでも定番人気を誇るグルメマンガ。ジャンルの幅を押し広げるほどのオリジナリティと、作家の美学を味わえる3作品

日々生まれ続けるあまたの作品のなかでも定番人気を誇るグルメマンガ。ジャンルの幅を押し広げるほどのオリジナリティと、作家の美学を味わえる3作品

林士平の推しマンガ道

もはや定番となったグルメマンガ。表現の方向性もそれぞれの個性的な作品が増えています。

『じゃあ、あんたが 作ってみろよ』 谷口菜津子著

『じゃあ、あんたが 作ってみろよ』 谷口菜津子著
ぶんか社 ぶんか社コミックス/ 既刊2巻・各880円

昭和の価値観をまとった九州男児の勝男と、モテに全振りして自分を偽ってきた料理上手の鮎美の破局から始まる物語。家庭の料理をとおして、苦悩し、変化し、成長する人間を描く。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、食を軸にした物語を描き続ける谷口菜津子先生による注目作。「筑前煮をおいしく作れるような子がタイプ」と発言してしまうほどの古風な考え方の主人公が、プロポーズ失敗を機に料理に挑戦するように。彼のもとを去った元恋人の鮎美も新しい人間関係をとおして価値観をアップデートしていきます。料理を作りたい人、食べたい人、作る人に感謝する人しない人、正誤や一般論では語りきれないさまざまな価値観と関係性が真摯に描かれ、家族や同僚とのやりとりも丁寧に描写されて物語に奥行きを与えています。

『鍋に弾丸を受けながら』青木潤太朗原作・森山 慎作画

『鍋に弾丸を受けながら』青木潤太朗原作・森山 慎作画
KADOKAWA 角川コミックス /既刊5巻・924円〜

料理の味と治安の悪さは正比例する? 5万点のグルメと最高の思い出を求め、釣り竿を持って世界を巡るマンガ原作者によるノンフィクショングルメリポート。美味もカオスも満載!

「危ないと言われる場所にほどおいしい食べ物がある」と考えるマンガ原作者・青木潤太朗先生の食と旅を描く『鍋に弾丸を受けながら』。ジュンタロー先生は二次元の過剰摂取によって美少女しかいない世界に生きているので、森山慎先生が描き出す世界も美少女だらけです。第1話「マフィアの拷問焼き」で心をつかまれたら、あとはひたすら世界を巡って釣りをして、人と語らい、おいしいものを食べる喜びを享受すべし。店で出されるものも友人知人が作ってくれるものも、調理法や食べ方をじっくり観察、取材されていて、1話ごとにレシピがついているので再現も可能。おいしくなかった料理の思い出もまた、旅の楽しみとして愛情深く紹介されているのがいいんですよね。読むほどに旅欲もかき立てられます。

『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』まるよのかもめ著

『ドカ食いダイスキ!  もちづきさん』まるよのかもめ著
白泉社 ヤングアニマルコミックス /既刊1巻・759円

21歳のもちづきさんは日々の"ドカ食い"により生きる喜びを感じている。昼に1775kcal、深夜に2760kcal。カロリーの過剰摂取で酩酊する様を味わう禁断のグルメマンガ。

SNSでたびたびバズっている、まるよのかもめ先生の『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』。強烈なストレスを食い物で打ち消す、現代の病の一種ともいえる状況と、食べることの純粋な快楽が描写されます。空腹は不幸! 満腹は幸せ! そんなふうにシンプルならばいいのですが、そんなに食べたら不健康だし寿命が縮むよ、という価値観が読み手にインストールされていることによって独特の意味が立ち上がる。ここまで食への執着と情念で突っ走る作品は珍しいですよね。料理の絵の解像度の高さ、タイトルのカタカナ使いも狂気のイメージを後押ししているようで面白い。もちづきさんのためにも、食による脳内快楽物質が出る仕組みがそろそろ変わらないものだろうか、とつい考えてしまいます。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」の人気作品のほか、『セイレーンは君に歌わない』『ぐびちび』『良太は弟を殺した』などの新連載も担当。「人生で一番はまったグルメマンガは『バンビ〜ノ!』です!」

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