MUVEILの果物カゴと「紙の動物園」

 「キャシー塚本」を見ると母親を思い出す。料理中に「ドーン!」と奇声をあげて全食材を投げ棄てるわけではないにせよ、ときに見せる素っ頓狂な行動にはヒヤヒヤさせられる。「おかんとマー君」を見ると身につまされる。たまに帰省すると母にこまごま世話を焼かれ、かえって邪険に扱ってしまう。
 もう自分も四十代半ばだというのに、母子関係が90年代にダウンタウンの名作コントで戯画化されたものから更新されないのはどうしたものか。発売中のSPUR7月号では、世界のファッションデザイナーたちにルポ取材し、彼らのミューズでもある母親への思いを綴った “デザイナーたちの「お母さん、ありがとう!」”なる特集を組んでいたりするのに、この体たらく。

 せめてもの罪滅ぼしに、先月は母の日のギフトを買いに出かけた。目当ては本誌読者イベントでも紹介したMUVEIL×新宿高野のコラボによる「果実ピュアゼリー in MUVEIL Bag」。フルーツモチーフ付きのカゴとゼリーのセットなら母親も喜ぶんじゃ?と思ったものの、限定5セットという非常に競争率の高い商品であり、とっくに売り切れ。仕方なくカゴ無しの通常のゼリーを箱で買って帰る。

 珍しくやる気を出したものの、母の日の段取りは思いどおりには進まない。打開策として専門家への相談を思いつく。その相手とは…

 野球部のちょっと面倒な先輩とかではない。彼こそは中国系SF作家ケン・リュウ! アメリカになじめない中国人移民の母を疎ましく思いながら成長する息子、そして母の不思議な術により命を吹き込まれた折り紙細工……  ケン・リュウの短編「紙の動物園」を二年前に読んで両の目から涙を搾り取られ、当時も「もっと母親に優しくせねば」と深く反省したのであった。相談相手は彼しかいない。

新刊「母の記憶に」と「紙の動物園」。ケン・リュウ短編傑作集として、「紙の動物園」と「もののあはれ」が文庫としても発売中。(いずれも早川書房)

 新刊「母の記憶に」発売に合わせて来日した氏のインタビューにちゃっかり同行。取材終わりの束の間、ケン・リュウに小声で話しかけてみた。

あのー、あなたのお母さんは現在もお元気で……?

「ええ、元気ですよ。最近の母は自宅でテレビばっかり見てますけどね」

お母さんとは仲良しなんですよね? 「紙の動物園」で書かれたような関係ではなく。

「もちろん! 小説とは違いますから。僕と母の間には何の問題もありません」

そりゃそうですよね。でも自分は「紙の動物園」を読んで、日頃の母親への接し方をちょっと反省しまして…
「そうでしたか。でもね、あの本を読んだ人からは似たような感想を聞くんです。“母親に電話しなきゃと思った”とか。誰だってみんな同じなんですよ」

そう言って笑いながらケン・リュウは著書にサインとメッセージをくれた。

  “Thank you and I hope you have a great time with your mother.”

 結局、今年の母の日には新宿高野のゼリーと「紙の動物園」文庫本をセットにして実家に送りつけたわけだが、いまだに気恥ずかしく、母親に本の感想を聞けずじまいになっている。

ケン・リュウ氏のインタビューは6月23日発売のSPUR8月号に掲載。物語を創るようになったきかっけについて、意外な過去のエピソードも語られます。こうご期待!

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takayuki yamasaki

服は迷ったら買う派。そして色違いで揃える派。車はFR派。ジョジョは四部派。夜は糖質オフでハイボール派。圧倒的イヌ派。

 

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