ガイア・レポシとレム・コールハースはいかにしてパリのハイジュエリーの中心地にモダニズムの粋を集めた「ジュエリーの殿堂」を作り上げたのか――。
「ミクロの建築」。ガイア・レポシは自身がデザインするファインジュエリーをこう表現する。彼女のクリエーションは何カラットも宝石を使った これみよがしの装飾品でも、多くのハイエンド・ジュエラーが世に送り出してきたラグジュアリーな夢の世界でもない。人を飾るために作られた建 築作品そのものだ。何連かに分割したリングの指に沿ったシンプルなラインは建築家ル・コルビュジエのブルータリズムを彷彿とさせ、電波のスペ クトルを連想させるくねくねとループを描く繊細なラインには、彫刻家アレクサンダー・カルダーの影響が感じられる。
真面目な少女のような雰囲気を漂わせているガイア PHOTOGRAPH BY THIBAULT MONTAMAT
30歳のガイアは真面目な少女のような雰囲気を漂わせている。ロンドンのチルターン・ファイアーハウス(消防署を改築したホテル、ロンドンで 今一番ホットなスポット)で会った彼女は内気で控えめな印象で、周囲の派手で安っぽい雰囲気とは対照的だ。シンプルで落ち着いたミニマルな服 装で現れたガイアは、かろうじて聞き取れる小さな声で話す。モナコやイタリア、フランスで教育を受けた彼女の英語にはわずかに外国語のアクセ ントが感じられる。ガイアが時折耳たぶに手をやると、リングとイヤリングがきらきら光る。まるで小さなジュエリーがこっそりと星の輝きを捉えているようだ。
PHOTOGRAPHS BY THIBAULT
2007年に家業であるメゾン「レポシ」を引き継いだガイアは旧態依然としたジュエリー界に「静かな革命」を巻き起こしてきた。彼女は分析的視 点からクリエーションに取り組んだ。それは素材となる宝石からスタートするのではなく、無限に近い組み合わせや繰り返しが可能な "システムと モジュール" を確立することだった。
ガイアは正式なジュエリー教育を受けていないことについて、こう言っている。「私はテーラーの家系で育ったテーラーのようなもの。宝石のよしあしの見分け方が自然に身についているの。父親以上によい教師がいるかしら」。レポシはガイアの曾祖父が1920年代に創業した老舗ジュエラーだが、父のアルベルトが「ある種のエレガンスを大切にし、女性のネックラインをいかに美しく長く見せるか」にこだわったのに対して、ガイアの関心は「コンセプトやボリューム感に合ったシェイプ」にある。素材はそのあとだという。
イタリアの工房では職人が100年近く前から受け継がれている技術を用いて作品を作り続けている一方で、今はスタッフにパリ本社で3Dプリンターを使った建築の研修を受けさせている。貴金属の酸化の問題にも積極的に取り組んでいるらしい。 また、ネガティブスペース(空間)や人間工学などの目に見えない要素もデザインに取り入れていくようだ。(続きを読む)
SOURCE:「Breaking the Mold」By T JAPAN New York Times Style Magazine
BY KIN WOO, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO
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