ATON エイトン 「0から100まで自分たちが見える範囲でモノづくりをしていきたい」

ATON エイトン

Director: 久﨑康晴

0から100まで自分たちが見える範囲でモノづくりをしていきたい

自分がするデザインには意味のあることしかしない

 ブランドコンセプトは『ここにしかないもの』。ATONの服は、一見スタンダードに見えながら手に取れば生地の風合いが格段に柔らかで、着ると美しいシルエットがすぐさま形づくられるのが特徴。2016年秋冬デビューながらその実力が折り紙つきと謳われるのは、デザイナーの久﨑康晴さんが長年培ったモノづくりの姿勢と探究心ゆえである。
 「ブランドアイコンのジャージのアイテムは、プロトタイプを自分が半年から一年ぐらい実際に着て、試したものでないと世に出しません。ジャージは洗うと形が崩れていくものなので、そこも計算しつつよかったものだけを製品にしています。実は5年前から試していてまだ出せないものもあるんです。ファッションブランドというよりも研究所ですね(笑)」


復刻生地をモダナイズしたトレンチコート ¥125,000〈2017年2月展開予定〉/ヴァリアス ショールーム(エイトン)


袖をくしゅっとまくったときの表情まで計算されている


(右)通常の倍以上の高密度で編まれたフーディ ¥24,000/ヴァリアス ショールーム(エイトン)
(左上)フードの先端を直角にしたディテールは、昔の大量生産の頃の技法をリファインしたもの
(左下)袖と袖口のリブの3つの縫い目が合わさるところは、実は最も弱い部分。そこをV字のデザイン線で負担を分散させるアイデアは、久㟢さん自身が何年も同じスウェットを着て研究し、編み出した

 そんな久﨑さんがマスターピースとして選んだのはジャージアイテム三点とトレンチコート。表がパリッとした質感でありながら裏はふんわりと柔らかなフーディは、通常の倍の太さの糸を普通の設定のまま編み上げることで、ぎゅうぎゅうの満員電車のような密度ある表面感に仕上げたもの。その設定が可能なのは日本で一カ所、しかもそこの工場の大ベテランの技術者のみというのだから驚きだ。同じように、ポロシャツの素材でおなじみの鹿の子を用いたロングスカートも、熟練のオートクチュール職人とパターンを研究し、繊細な縫製のテクニックでレストランにも着ていけるエレガントなルックスに仕上げたもの。さらに自らがブランドの基本と語る白Tシャツにおいては、なめらかな質感はもちろん、0から10までのサイズ展開で、女性が大きめを、男性が小さめを着るなど、サイジングのバリエーションを楽しめる工夫がされている。


クチュール感覚の鹿の子のロングスカート ¥43,000〈2017年4月展開予定〉/ヴァリアス ショールーム(エイトン)

ウエストからなめらかなドレープが出るように、布地のはぎ合わせにもクチュールの技法をベースにした特別なテクニックが用いられている

「Tシャツとロングスカートに使用しているのはインド産の手摘みの超長綿を使用した日本製の生地。しっとりとハリのある表面感になるので動いたときに上品に見えるのがポイントです。そこにクチュールの技術を入れたり、独自の編み地にこだわったりするのは、『デザインにはすべて意味のあることをしよう』というのがブランドの哲学だから。アイテムがベーシックなので、意味のないことをするのは僕が目指すところではないんです」


ブランドアイコンの白Tシャツ ¥9,900 〈2017年3月展開予定〉/ヴァリアス ショールーム(エイトン)

 そして、最も熱く語ってくれたのが、第二次世界大戦直後に生産されていた布地を、自身が15年前に復刻した生地で作った限定のトレンチコート。今となっては機械がなく作ることができなくなった生地の残反を集めて作ったコートは、肩を落として着やすくし、軍服に採用される前のシンプルなデザインをピックアップすることで、ソフトな印象が際立つモダンな一着に仕上がっている。
「ATONのブランド名の由来のひとつは五十音の『あ』から『ん』。つまり、すべてを自分たちで判断し選択するということ。見える範囲できっちりモノづくりをしたいという気持ちを込めています」

Yasuharu Kuzaki

数々のブランドのディレクターを経て、2016年秋冬シーズンにデビュー。 上質なベーシックにこだわりのテクニックをふんだんに盛り込んだモノづくりで、早くも人気急上昇中。
www.aton-tokyo.com

SOURCE:SPUR 2017年2月号「デザイナー自身が語る“マスターピース”の魅力」
photography:Takashi Ehara(item), Mizuho Takamura(detail, portrait), styling:Itsumi Takashina text:Satoko Hatakeyama

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着たい服はどこにある?
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