柚木麻子・特別書き下ろし小説『ステファニー』Part2

宇宙服を思わせる未来的なデザインのスリーブは、ジャージ素材にひし形パターン「マルタージュ」が施されたアイコニックなピース。赤いメッシュ部分は、特殊な手法で生み出されている。生地を伸ばした状態でシークインスを刺しゅうし、生地を縮ませる。するとシークインスがぎゅっと詰まり、独特の風合いに。フリンジが躍るサイハイブーツを合わせ、「私はどんなカテゴリーにも属さない」そんな意志あるスタイルを実現。

ドレス¥1,465,000/ルイ・ヴィトン クライアントサービス(ルイ・ヴィトン) ソックス¥1,500/ぽこ・あ・ぽこ(MUSIC LEGS) ブーツ¥240,000(参考価格)/セルジオ ロッシ カスタマーサービス(セルジオ ロッシ) ヘアピン/ヘアアーティスト私物

 

部屋中くまなく探したけれど、こちらの私物は最低限の日用品と冷蔵庫の食材を残して消えていた。
 ステファニーが帰ってくるまで、どうやら私はド派手なドレスで出社するしかないみたい。ため息が出た。彼女こんな風にいつも周囲を振り回すけれど、悪気がなくチャーミングなので、憎めない。
 仕方なくつま先を入れた白いブーツは、何故だか誂えたようにピタリと私の身体にフィットした。服に合わせて自然とメイクも濃くするしかなくなる。慣れないキッチンは火力が弱いような気がしたし、ツルツル滑って使いにくかったが、いつものように、卵焼きや金ぴらごぼうやしゃけ、全てのおかずを具にした特大おむすび一つを作ると、ステファニー用のバッグにゴロンと転がして、外に出た。
 駅までの道のりで何人もが私を振り返った。通勤電車の中でも、こちらをじっと見ている人がいる。駆け足でオフィスに向かっていたら、エントランスで橋本さんに声をかけられた。
「どうしたの、裕子さん。今日、すごく素敵だね」
 からかわれたのだと思った。橋本さんはいつもさりげなくお洒落で、海外の情報に詳しく、ちょっとしたプレゼントがとても上手だ。
「すごく似合うよ! センスいい」
「そうかな、どうもありがとう」
 もごもごとつぶやいていると、橋本さんはエレベーターの中でスマホを差し出した。
「ねえ、話題なんだけど、知ってる?」
 橋本さんが昔からファンだというハリウッド俳優のインスタグラムで、彼はとびきりの美女と頰を寄せ合っている。なんと等身大になったステファニーである。
「彼女、どこの誰なんだろう。お似合いすぎて、妬む気にもなれないよねえ」
 デスクでパソコンを立ち上げ、あちこち検索して私は低く呻いた。我が家を離れてからわずか一晩のうちに、ステファニーはアメリカ西海岸に渡り、謎の美女として話題を振りまいていた。セレブと知り合い、チャリティフェスに参加し、ビーガンレストランでメニューを考案したらしい。

 

ハリのあるシルクタフタのドレスは、大胆に膨らむパフスリーブと、体にきゅっとフィットする身頃の対比で体を美しく見せる。ウエストから裾まではフレアシルエットで広がり、着る人をエレガンスの極致に導きながら、同時にありのままの自分でいられる解放感を与えてくれる。

ドレス¥596,000/ヴァレンティノ インフォメーションデスク(ヴァレンティノ) サングラス¥38,000/ブリンク ベース(サンローラン) ブーツ¥138,000/ヴィア バス ストップ ミュージアム(ジル サンダー)

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