柚木麻子・特別書き下ろし小説『ステファニー』Part1

カシミヤのセーターと中に着たシャツは、バックがカットアウトされ、肌が露出するデザイン。正面はおとなしく品行方正だけれど、後ろに回れば驚きと裏切りが待っている。そんな二面性のある女性像を描き出す服。ハリのあるシルクサテンのスカートで艶やかさを加えた。

シャツ¥120,000・ニット¥135,000・スカート¥175,000(すべて予定価格)/プラダ クライアントサービス(プラダ) メガネ¥47,000/SOLAKZADE

 

特別書き下ろし小説 ステファニー

文・柚木麻子

 ある朝、目を覚ますと、私はステファニーのベッドに横たわっていた。
 真っ先に飛び込んできた、鮮やかな黄色に花や果物が散ったシチリア風の壁紙は、取引先から頂いたパネットーネの包み紙で、私が給湯室からこっそりくすねてきたものだ。それでようやく、何が起きているかを理解した。マッチ箱を重ねて作ったタンス、誰も触れたことのなさそうなピカピカのキッチンにはピンク色のオーブン、山食パンみたいに丸みを帯びた冷蔵庫、猫足バスタブ。オープンクローゼットにずらりと並ぶ最新モードは、すべて私が端切れを縫い合わせて作ったものだ。プリンカップを伏せた花形の透明テーブルの上に、メッセージが書かれた横断幕みたいなものを発見した。先端の裏側だけがベタベタしているので、ポストイットだとわかった。
「ハーイ、裕子。私、しばらく世界を旅してくるから、うちを空けるわ。その間は、部屋も服も、全部自由に使っていいよ。 ステファニー」
 二十年近い付き合いの中で、初めて見るステファニーの字はすごい筆圧で、周囲が鉛筆の粉で汚れている。寝る前に必ず窓際のコンセントで充電しておくスマホを見つけ、手のひらに載せたら、ようやく自分が縮んだわけではない、とわかってホッとした。同僚の橋本さんからもらったハンカチで作った、イチジク柄のカーテンを開けると、いつもと同じように、一階がファミリーマートのビルと電線、真上のベランダからちょっとだけ、こちらの陣地に垂れ下がっている布団が見えた。私はしばらくの間、ドールハウス内を見回した。正確には、私の住む1LDKのアパートに、ステファニーの住んでいた見開きのドールハウスの内装と家具が巨大化し、被さった格好になる空間だ。
 ステファニーは私が小学三年生の頃、ロンドン出張帰りの父親が、蚤の市でお土産として買ってきてくれた、ソフトビニール素材で身長30センチのお人形だ。当時の彼女はボロ布を裸体に貼り付け、傷んだブロンドがタワシみたいに頭を覆っていた。それでも私は一目で彼女に夢中になって、その日からずっと親友だ。
 緑色のアーモンドアイになめらかな肌、つんと上を向いた鼻、めくれ気味の分厚い唇、腰のくびれと形の良い小さな胸、まっすぐな長い手足は9歳の私の理想形で、それは今も変わらない。私は彼女をステファニーと名付け、毎晩のように髪をブラッシングして、しっとり豊かなロングヘアを取り戻した。バービーやリカちゃん対応商品で彼女にサイズが合いそうな家具を探しては親にねだり、お裁縫ができるようになってからはお小遣いを貯めてせっせと彼女のために服を作った。社会人になって一人暮らしが始まると、自分のためには買わないモード誌を眺めながら、色鮮やかなドレスを参考にして、縫うようになった。
 私は無難なものを好んで身につけているけれど、ステファニーのために作る服はそれとは真逆だ。力強くて、主張があって、一度見たら忘れられない、着る人を選ぶ最新のデザイン。だって、ステファニーは美しいだけじゃない。女優でモデルでデザイナーだけど、登山家でシェフで、調香師と医師と弁護士の資格も持っている。毎晩のパーティにも、ボランティア活動にも同じくらい力を入れている。世界中どんな街を訪れても泊めてくれる友達を持つ、ジェットセッターだ。

 

肌の上をとろけるように滑るシルクのパジャマ風セットアップは、極上の着心地。ガウンのウエストをリボンで結べば、スタイルアップもかなう。ポルカドットに合わせたモノトーンのスニーカーでエフォートレスに着こなした。

ガウン¥208,000・パンツ¥149,000/ドルチェ&ガッバーナ ジャパン(ドルチェ&ガッバーナ) メガネ¥47,000/SOLAKZADE スニーカー¥5,800/コンバース インフォメーションセンター(コンバース)

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