2019.12.09

世紀を超えたインスピレーション

今季目立ったのが、100年以上前の時代に創造の翼を広げたメゾンの数々。過去を振り返りながら、未来を見据えるまなざしに注目。

「ジェンダーレス」の次の選択肢としての装飾主義

中野香織(服飾史家)

長らく「ジェンダーレス」というキーワードがモードファッション業界で取り沙汰されてきましたが、今、人々の気分は次のフェーズに移行しているのではないかと思います。バーバリーやアナスイがキーワードに掲げた「ヴィクトリアン」(1837年~1901年)の時代は、ファッションにおいてもっとも性差がくっきりしている時代。絞ったウエストラインに代表される女らしさの追求、たっぷりと生地を使ったドレス、職人技が光るレース使いなど。先日対談した10代のある男性が「ウェディングドレスを着てみたい」と言っていたのですが、何を着てもいいこの時代だからこそ、多様性のなかの選択肢としてデコラティブなこのトレンドが浮上してきたのではないでしょうか。ちなみに、この装飾主義のトレンドにおいて試されるのが、美しい服を作るという意味においてのブランドの技術力だと思います。

ルイ・ヴィトンが提唱した「ベル・エポック」は「優雅な時代」の意。19世紀末から第一次世界大戦勃発までを指します。ここから不穏なときに入っていくというひとさじの不安も、もしかしたら現代と通じるところがあるのかもしれません。

Profile
中野香織/なかの かおり服飾史家として執筆、講演を行うほか、企業の顧問を務める。昭和女子大学客員教授。著書に『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』(吉川弘文館)、『モードとエロスと資本』(集英社新書)など多数。

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1 ベルサイユ宮殿の優雅なひととき
ランウェイがひととき、ベルサイユのプチ・トリアノンに。トロンプルイユの手法でクラシックなドレスを構築した

2 バージニア・ウルフの『オーランドー』
『オーランドー』を着想源に掲げる流れはメンズから引き続き。ウィーンの国立歌劇場で上演される同名の舞台の衣装を担当

3 モーツァルトに思いをはせて
「ロック・ミー・アマデウス」をキーワードに挙げた。フィナーレにはパラソルを携えたドレスのベラが登場

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4 「ベル・エポック」よもう一度
「ベル・エポック」をベースに。当時を代表する舞台女優、サラ・ベルナールもインスピレーション源のひとつ

5 19世紀からの歴史を持つ劇場でショーを1875年にオープンした劇場が会場でテーマはアイルランドのレン・ボーイズ。藁をまとい訪ねる家々や情景から着想を得た

6 ブランド創始時代を再び振り返るヴィクトリア朝時代に会社を設立したトーマス・バーバリー。家紋に選んだ聖獣にちなみ、「I AM A UNICORN」という文言を胸元に

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7 ヴィクトリアンを甘くアップデート
イタリアの衣装デザイナー、リラ・デ・ノビリやパステルカラーのお菓子などをヒントにヴィクトリア朝時代のデザインをドリーミーに甘くアップデート

8 アールヌーボーに触発される1920年代のウィーンにおけるアールヌーボーに触発され、刺しゅうで女性の裸体と白鳥を描きフェミニニティを表現

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9 女性を解放する20年代スタイル
現代の複雑さに対する解毒剤として「スタイル」を追求したプラダ。各年代を融合しながら、根底に流れるのは服で女性が解放された1920年代のシルエット

10 メキシコで芸術と政治に身を捧げた女性を着想源にハリウッドの無声映画で女優として活躍し写真家となったティナ・モドッティ。彼女が行き着いたメキシコの色彩と得意とするヴィクトリアンスタイルを融合させて

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