今季目立ったのが、100年以上前の時代に創造の翼を広げたメゾンの数々。過去を振り返りながら、未来を見据えるまなざしに注目。
「ジェンダーレス」の次の選択肢としての装飾主義
中野香織(服飾史家)
長らく「ジェンダーレス」というキーワードがモードファッション業界で取り沙汰されてきましたが、今、人々の気分は次のフェーズに移行しているのではないかと思います。バーバリーやアナスイがキーワードに掲げた「ヴィクトリアン」(1837年~1901年)の時代は、ファッションにおいてもっとも性差がくっきりしている時代。絞ったウエストラインに代表される女らしさの追求、たっぷりと生地を使ったドレス、職人技が光るレース使いなど。先日対談した10代のある男性が「ウェディングドレスを着てみたい」と言っていたのですが、何を着てもいいこの時代だからこそ、多様性のなかの選択肢としてデコラティブなこのトレンドが浮上してきたのではないでしょうか。ちなみに、この装飾主義のトレンドにおいて試されるのが、美しい服を作るという意味においてのブランドの技術力だと思います。
ルイ・ヴィトンが提唱した「ベル・エポック」は「優雅な時代」の意。19世紀末から第一次世界大戦勃発までを指します。ここから不穏なときに入っていくというひとさじの不安も、もしかしたら現代と通じるところがあるのかもしれません。
Profile
中野香織/なかの かおり服飾史家として執筆、講演を行うほか、企業の顧問を務める。昭和女子大学客員教授。著書に『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』(吉川弘文館)、『モードとエロスと資本』(集英社新書)など多数。



