eスポーツ選手が語る「ゲームに人生かけてます」

「eスポーツ」ってどんなもの? プロとしての苦労、喜びとは? 日本で活躍するふたりのプロゲーマーがたっぷり語ってくれた。

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INTERVIEW with...

Temaさん
ハードウェアを製造販売する「ネットギア」とスポンサー契約を結んでいるプロゲーマー。eスポーツ団体「JeSU」公認プロライセンス保持者。専門はセガのゲーム「ぷよぷよ」。

たぬかなさん
eスポーツチーム「CYCLOPS athlete gaming」所属、レッドブル・アスリートでもあるプロゲーマー。バンダイナムコエンターテインメントの格闘ゲーム「鉄拳」が専門。

コンピューターゲームでの対戦をスポーツ競技としてとらえた「eスポーツ」。2022年のアジア競技大会では正式種目に採用、2024年のパリ五輪では追加種目に入る可能性も噂されるなど、盛り上がりを見せている。ジャンルは格闘やパズルなど主に7種類。プロ・アマ問わず参加でき、海外の大きな大会になると、賞金総額が30億円を超えることも。ゲームで億万長者になるのも夢ではない時代がやって来ているのだ。今回、日本でプロゲーマーとして活躍するふたりに、eスポーツの魅力について聞いた。

年齢・性別関係なくできる夢が広がる「スポーツ」

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「ぷよぷよeスポーツ」のプレイ画面。消し技「大連鎖」など見どころたくさん。将棋やチェス、ボードゲーム好きに向いているという。©SEGA

「eスポーツは年齢・性別関係なくできるので、夢があるんです」と話すのは、セガのパズルゲーム「ぷよぷよ」の世界大会で優勝した経験を持つプロゲーマーのTemaさん。ゲーム好きだった母の影響で幼い頃からゲームに親しんでいたが、なかでもぷよぷよはやりやすく、相手の思考を読んで先回りする駆け引きが面白くてハマっていった。たとえば消し技「連鎖」。相手が2連鎖持っているなら3連鎖以上を作る、ほかの方法を考える、というようにだんだん相手のフィールドを見ながら戦えるようになる。

「強さへの近道は、自主的に楽しんでやること。練習は同レベルのライバルと、自分よりうまい先生をつけるのが一番いい。この人を倒したいという目標ができると意欲もアップするし、自分より強い人によって技術の伝承も行われる。私は最初の5秒の手順が悪いらしいので、動画を見直して、1年かけて調整しました。大会前は1日4時間以上練習して、当日は普段どおりのプレイを心がけています」

特に印象に残っているのは、2016年に東京で開催された「『ぷよぷよ』最強プレイヤー決定戦」で3位になったこと。「その実績でeスポーツ団体『JeSU』の公認プロライセンスがもらえたので思い出深い」と振り返る。

実はTemaさん、「ぷよぷよ戦術技術開発研究所」という早稲田大学公認サークルに他大学から参加していたが、通いやすさを求めて大学院は早稲田を選んだほど。その後公務員として働き始めゲームをやめていたが、eスポーツ黎明期のタイミングもありゲーマー1本の道へ。正直不安はあったが、母親も「ぷよぷよのために受験した人が、ぷよぷよのために仕事をやめても驚かない」と背中を押した。「どんな趣味でも、10年以上続けたら立派なコンテンツになる」と言い切る。

プロゲーマーの収入は、大きく分けて4つ。大会賞金、イベント出演料、スポンサー収入、YouTubeなどの動画配信。ぷよぷよのプロゲーマーは30人ほどで、うち女性はふたり。競技人口の比率もあってゲームの世界はいまだ男性社会。心ないことを言われることもあるが、女性ゲーマーが珍しいゆえの恩恵も多いと語る。今後の理想を聞いた。

「ぷよぷよは日本が主流になっているので、世界のコミュニティがもっと広がって、海外のイベントにゲストとして呼ばれたらうれしいです」

脳と手先の動かし方だけでできるバリアフリーな競技としても注目

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「鉄拳7」トレーニングモード中のプレイ画面。女性キャラ「シャオユウ」が「鳳凰の構え」をしているところ。 TEKKEN™7 & ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

eスポーツチーム「CYCLOPS athlete gaming」に所属し、レッドブル・アスリートでもあるたぬかなさんは、バンダイナムコエンターテインメントの格闘ゲーム「鉄拳」を専門とするプロゲーマーだ。高校の建築科が男子ばかりだったため、彼らと遊んでいたゲーセンで鉄拳をやり始めたことがきっかけ。知らない人と対戦するのが新鮮で、部活のようにのめり込んだ。当時は女子高校生3人組が格闘ゲームをしているというので、地元・徳島の界隈ではちょっとした有名人に。そんな彼女の頑張る姿を見て「先輩ゲーマーがあえて負けてくれたおかげで、挫折せず楽しく続けられた」と懐かしむ。

高校卒業後は設計事務所に就職するも、忙しすぎてゲームができず。設計事務所が倒産して転職したアパレル会社では休みが多く、大会に参加するなど徐々に活動を再開できるように。そんな折、サイクロプスで月給制のプロゲーマー募集の知らせを見つけ、専業の道へ。親は反対したが、「半年は応援してほしい」と説得し、徳島から大阪に拠点を移した。

それから3年。プロになってから1年ほどは思うような成績が出せず、「女ってだけで注目されているけど、本当は弱い」と揶揄され、やめたいと思っていた。ブレイクスルーは2017年、アメリカで行われた大会「Combo Breaker」で3位になったこと。「落ち込んでいたために諦めを通り越してリラックスしていて。楽しんでやったのがよかった」と勝因を分析。ネットニュースや地元のテレビで取り上げられ、そこからフォロワー数も急増。「そこで認められたのかな。つらかった気分も軽くなりました」

女性キャラ「シャオユウ」使いで有名なたぬかなさん。選んだ理由は? 「彼女はトリッキーでテクニカルだけど、低く屈み込む『鳳凰の構え』ってポーズがあるんです。鉄拳には、1秒(60フレーム)のうち12フレームほどのすごい速さでつかまれてダメージを取られる『投げ』のシステムがあるんですけど、低い姿勢ならつかまりにくいんです」。強さの秘訣は、勉強+練習+反射神経+読み合い。30を超えるキャラにそれぞれ百以上の技があるため、その組み合わせを体にしみ込ませて、瞬時に的確に反応できるのが理想だ。格闘ゲームは間合いも重要になってくるが、「私は建築設計で働いていたので、空間認識能力は高いのかな」と笑う。

eスポーツの先進国である韓国、中国、アメリカでは、eスポーツ選手はすでにプロゴルファー並みのステイタス。日本はいまだ「ゲームは悪」の風潮が根強いが、「なんでも突き詰めれば仕事になる。ゲームが上手な人は変なプライドを持たずにいろんなことを吸収して、柔軟な発想や対応力で自分を見られる人。ゲームができる人は、仕事もできると思っています」と熱を込める。今まで女に負けるのが嫌だからプレイしないと言われたり、女だからと八百長を疑われたり、理不尽さを感じる場面が多々あったのも事実。だからこそ同じ土俵で「男性プレイヤーを倒すのが醍醐味」と話す。

eスポーツは脳と手先の動かし方で戦えるので、障がい者や高齢者も楽しめると注目されている。「私の地元に、鉄拳が大好きな足の不自由な子がいて。ゲーセンや職場でいじめてくる人たちを見返すためにもゲームを続けていたんですけど、この前『ePARA』という大会で優勝したら、プロへのオファーがあったそうなんです。鉄拳を通して自分を対等な人間として見てくれて、すごくうれしかったと。だから同じように悩んでいる障がい者の方に、君も大丈夫だよと伝えるために、僕は頑張りたいですって連絡が来ていて。すごく感動しました」

現在は東京に引っ越し、PS4が4台、パソコンが3台とゲーセンのような自宅で、仲間と日々練習に励んでいるたぬかなさん。オンライントレーニングではだめなのだろうか? 「オンラインだとどうしてもタイムラグが発生してしまうんです。大会を再現するには隣り合わせの対戦が必要。どれだけデジタルが発達しても、そこはアナログなんです(笑)」

今後の夢を聞くと「私はゲーセンに救われました。同じように世界が広がるような、ゲーセンの新しい形がつくれたら」

男女は分けなくていい。狙いは新しいゲーム

eスポーツを男女別にする案もあるが、ふたりとも分けなくていいと考えている。従来のスポーツと違って、肉体的な差異はないからだ。プロゲーマーになるための近道を尋ねると、「狙うならまだ研究されていない発売したばかりの新しいゲームを選ぶといい」と口を揃える。そしてとにかく大会に出てみる。そこで一回でも勝てれば、モチベーションにつながっていく。これを機に、プレイヤーとして、観客として、eスポーツの世界に飛び込んでみてはどうだろう。



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