国立環境研究所 江守正多さんに聞く「今、地球のためにできること」

PROFILE
えもり せいた●専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。2018年より国立環境研究所・地球環境研究センター副センター長を務める。著書に『異常気象と人類の選択』など。

地球温暖化を止めるには30年でCO2排出をゼロに

「令和2年7月豪雨」などで私たちも異常気象を目の当たりにするようになっている昨今。実際のところ、地球はどんな状況にあるのだろうか?
「発電や乗り物のエネルギーなどのために石油、石炭、天然ガスといった化石燃料を使用することが原因で、大気中にCO2(二酸化炭素)が排出され(参照:下グラフ)、その濃度が年々増えています。結果、赤外線が地球から宇宙に出にくくなり、地球の温度が平均的にだんだん上がっていっているんです。南極やグリーンランドの氷が溶けて海面が上昇したり、大気中の水蒸気が増えて記録的な大雨が起こりやすくなったり、生態系が影響を受けたり、熱中症といった健康被害が出たりしています」

 そこで国連では2015年、産業革命前に比べて約1℃上昇している世界の平均気温を、2℃より十分低く保つとともに1.5℃に抑える努力を追求する「パリ協定」を採択した。
「この目標を達成するためには、世界のCO2排出量をあと30年で実質ゼロにしなければならない。そうしないと何の落ち度もない途上国や貧困に喘ぐ人々、将来世代に深刻な悪影響を与えてしまうんです。各企業は原料の仕入れから製品の廃棄までに排出されるCO2を全部ゼロにする必要があります。中途半端な試みでは、環境保護に熱心なふりをしてイメージアップを図る“グリーンウォッシュ”と見なされてしまうことも」

 今年は新型コロナウイルス感染拡大により世界的に経済活動がストップし、CO2排出量が減ったといわれている。地球を守るためには、引き続きそうした“我慢”が必要なのだろうか?
「原理的に言うと、このまま生活の仕方や便利さを変えなくても、発電所が太陽光、風力に、自動車がすべて電動になれば大体CO2の排出量はゼロになります。文明を否定して江戸時代の生活に戻らなきゃいけないと言っているわけではなく、新しい社会に向かって、化石燃料文明を卒業していきましょう、という話なんです。コロナ禍によって今まで当たり前だったことは未来永劫そうではない、ということを学びましたよね。たとえばテレワークが浸透し、移動に要するエネルギー消費が減りました。CO2排出ゼロというのは今の常識で考えるから大変そうだ、と感じてしまうのではないでしょうか」

2018年の世界の化石燃料によるCO2排出量は36.6±2GtCO2。これは、1990年に比べると61%増加している。2019年の推定量は36.8±2GtCO2で、2018年より0.6%高く、パリ協定が結ばれた2015年と比べると4%以上増加している。近年、排出量の増加は鈍ってきているものの、以前と比べると確実に増加していることがわかる出典)CDIAC, Friedlingstein et al 2019, Global Carbon Budget 2019をもとに作成

ひとりの力を大きな運動に

 では、「新しい社会」に向かって、私たちは具体的に何をすればよいのだろうか。
「エアコンの設定温度を控えめにしたり、水を出しっ放しにしないようにしたり、なるべく車に乗らないで自転車や徒歩にするといった努力は、言ってしまえば焼け石に水です。環境問題を考える入り口としてはいいですが、それで満足をしていてはまったく意味がない。まずは気候変動の現状を知る、ということが大切です。そんなに深刻だったのか、と驚くところから始めてもらいたい」

 気候変動のニュースは日本の主要メディアでは見かけることが少ない。しかし、世界では毎日のように話題に上っているという。
「ニュースアプリで気候変動というテーマを見られるように設定しておくのがおすすめです。そしてそこで得た情報を人に話したり、SNSで発信してみてほしい」

 環境問題に積極的に取り組む企業や政治家を応援するという方法もある。
「消費はひとつの投票行動であるとも言えます。環境問題にちゃんと取り組んでいるブランドのものを買うようにすれば、その企業は成長し、徹底していないところは消費者に見放されていくのではないでしょうか。政治においては、日本で気候変動は選挙の争点にはなかなかならない。温暖化対策で候補者を選ぶというのは難しいですよね。そこで、次の選挙では、選挙活動をしている候補者に“あなたの気候変動政策を教えてください”と質問をしてみるのもいい。そうすれば候補者も何か考えなくちゃいけないんだ、何か答えられないと恥ずかしいんだな、と思うでしょうから」

 気候変動の現状を知り、周囲に共有し、CO2排出ゼロのためにシステムを変革しようとする企業や政治家を後押しする。私たちはこの問題をそうした大きなスケールで考える必要がある。
「人知れずエコな生活を送ってもひとり分のCO2しか減りません。そうではなく、レジ袋を断るのも、“私は使い捨て文化が好きではありません”というメッセージを発して周囲の人を動かすつもりでやってほしい。気候変動対策には、皆で重いものを押しているようなイメージがあります。あるところまでいくと、たとえば再生可能エネルギーが安価になったり技術が進んだりしてCO2を排出しないことが当たり前となり、あとは下り坂になって自然と落ちていってくれるはず。そこまで押していく人が多いほど加速しますし、なるべく化石燃料使用をやめたくない人たちによる逆方向の力にも打ち勝っていかなくてはいけない。興味を持った人はどんどん参加してほしいです」

 ファッションには、メッセージを発信したり、コミュニティを築いてムーブメントを起こす力がある。消費の仕方を再考しながら、“重いもの”を少しでも前に進める一助となれるよう、私たちも早速行動を起こしてみよう。

photography: UPI/AFLO2016年、NYの国連本部で開かれたパリ協定の署名式で壇上に立ったレオナルド・ディカプリオ。「日本でも、影響力のある著名人にもっと環境問題に関心を持ってもらいたい」(江守さん)

photography: AFP/AFLOグレタ・トゥーンベリをはじめ、若い世代は地球環境に大きな危機感を持つ。彼女が始めた学校ストライキ「Fridays For Future」を受け、日本でも「気候マーチ」などが行われている

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