ポジティブな精神を伝えるアノニマスなデニムブランド

69(sixty nine)

肌の露出を控えるモデストスタイルに日よけとプライバシーを兼備したハット($250)を被ったデザイナー

「匿名であることで、作品自体にフォーカスできる。大切なのは、誰が作ったかではなく、何なのか」

 69はLAを拠点にするライフスタイル・デニムブランド。ノンデモグラフィックをコンセプトに、年齢や人種、性別にとらわれないユニークなアイテムを展開し、カルト的人気を集めている。「雑誌『DIS Magazine』に掲載された企画がきっかけ。家具、建物、人々、世界のすべてがデニムで作られていたらというテーマのストーリーで、初めはアートプロジェクトでした」。思い描いた架空の世界を現実にするべく、2011年にブランドを創設した。「人間や動物、オブジェクトをキャンバスに、69はデニムをペイントしています。作家の存在は、時に色眼鏡として先入観を与える。特に潜在意識では、作家への感情を切り離して、その作品を見ることは難しい。匿名性は作品からアーティストを切り離して、単純に鑑賞者との結びつきに委ねることができると思う」

 唯一無二のオリジナリティあふれる世界観で、気がつけばLAを代表するブランドのひとつに成長していた。2018年には、ロサンゼルス現代美術館、MOCAでブランド初のアーカイブ展『69:Déjà Vu』を開催。「完成まではリミットへの挑戦。今までの人生で一番の達成感と喜びを感じました」と語る。

 ナチュラルで実用的、耐久性があることを理由に選んだというデニム。ブランドの要となる素材だ。衣服はもちろん、抱き枕やドッグウェアなど、制限のない遊び心あるアイテムは、常に予想できないサプライズを与えてくれる。ただし、デザインする上で最も重要視しているのが、「何のためか?」。そんな69のあり方を最も象徴するアイテムのひとつがマスクだ。「LAのロックダウンが決定した段階で製作を始めました。マスクを手に入れるのが非常に難しかったから。供給が追いついてきた時点で、デザインを追加し、売り上げを寄付することにしました」。黒人、有色人種の地位向上のため活動する「NAACP」、LGBTQの囚人の人権保護を目的とした「Black and Pink」、新型コロナウイルス感染が拡大する米先住民ナバホ族への医療援助など、「困難な状況を改善しようとアクションを起こしている団体の活動を知るきっかけになれば」と、アイテムごとや日替わりで支援先を変えている。「69はエゴではなく、ポジティブなエトス(精神)。心地よく喜びに満ちた包括のシンボルであり、平等のサイン。思いやりをもって人々がともに暮らす、サステイナブルなコミュニティをデザインしていきたいです」

(上)覆面フルマスク($80)も、もちろんデニム仕様に
(中)「構想5年をかけ、ついに完成した」という69初のシューズ($225)。ウッドソール、レザーのクッションインソールで、クリアのほか、4種類のデニム素材でも展開
(下)アイテムはすべてユニセックス。ポケットパンツ($275)はブランド定番アイテムのひとつ

(右)マスクは10種類以上を展開。ブレマスク($20)の売り上げは、警察射殺事件被害者ブレオナ・テイラーの遺族に寄付される
(左)ドギートレンチコートを着用した69の看板犬Abigail。限定生産でリリースされるドッグウェアやグッズにも注目

profile
2011年にブランド創設。名前は蟹座のシンボルマークに由来。アイテムの中心は、拠点とするLAダウンタウンから6 マイル圏内で生産している。’18年にはLA現代美術館、MOCAでアーカイブ展も開催。日本の’80sファッションにも影響を受けている。9月にはコロナをテーマにした最新コレクションをリリース予定。Instagram: @69us

edit: Mari Fukuda

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