ユーモラスな動きを繰り出す、 覆面のスタイルアイコン

Checking Invoices

アテネにて撮影。気分はモードなタクシードライバー

身をアニマルプリントやメタリックのタイツに包んだ謎のスタイルアイコン、Checking Invoices。ハイブランドで装いショーのフロントローにいたかと思えば、スーパーマーケットの野菜売場に。時にはミラノの公園で体操の選手かと見紛うブリッジをキメながらおなかの上にバッグをのせていたり、水着をまとってビーチに寝転んでいたり。もはや存在自体がハプニング。出現するすべての場所をシュールな時空間へと変貌させてしまう、強烈なパーソナリティだ。

 この決して顔を晒すことのないChecking Invoicesの正体は、ミラノをベースに活躍するスタイリストとセットデザイナーのギリシャ人女性二人組とされている。本名はシークレットだ。「スタイリストという職業柄、家のワードローブにもハイブランドのアイテムがあふれています。それを二人でコーディネートしながら写真を撮って遊んでいたのですが、私たちのうちの一人が写真嫌いで、いつも顔をいろいろなもので覆って隠してしまうんです。でもその結果、面白いポーズのファッションフォトがたくさん撮れて。そんなわけで自然発生したプロジェクトです。Instagramもそれらを友人に見せるために始めたもので、インフルエンサーになろうと思っていたわけではありません。Checking Invoicesと名付けたのは、ファッション撮影のために貸し出してもらったアイテムがすべて揃っているかどうか、いつもインボイス(納品書)をチェックしているから(笑)」

 その後、全身タイツに進化した姿でパワーアップ。CheckingInvoicesという架空の人格が確立されていく。フェンディとのコラボレーションでは、公園に置かれた大きなピンクの箱を突き破り転びながら登場したり、キッチンで怪しいポーズで料理してみたりする映像が楽しい。「いつも自分たちのルックと撮影ロケーションとの意外性あるコントラストで、シュールな世界観を表現するようにしています。“ウィットにあふれて楽しい” ことが最終目標。コラボレーションでは、ブランド側が私たちの自由な創造性を尊重してくれて、楽しく実験的な空間を作り出すことができました。社会的責任を持つべき側面ももちろんありますが、『ファッションを楽しんで、シリアスになりすぎない』ということをファッション業界の人には覚えていてほしいですね。ファッションとは単に衣服のことではありません。贅沢であり、娯楽を楽しむ姿勢が欠かせないんです。とにかく、コロナ禍で毎日繰り広げる“救命”というタイトルがつくようなドラマもある一方で、私たちはただ“喜び” を取り戻したいだけなんです」
「匿名」にこだわり続ける理由について聞いてみた。「メリットはたくさんあります。押しつけられた文脈での評価や先入観、性的アイデンティティ。あらゆる障壁がありません。だからこそ、自由な表現ができるんです」。Checking Invoicesは、匿名であることでさまざまな外的制約から解き放たれる存在であると同時に、元の二人から独立した新たな存在でもある。グッチも2018年秋冬コレクションのテーマとした米国の学者ダナ・ハラウェイの1985年の論文「サイボーグ宣言」。そこで提唱された「人間と動物、男性と女性という西欧主義的な二分法や全体性の枠組みを超越する新たな存在。絶えず変化する複合的なアイデンティティで、規範を軽々と超える存在」は、まさにChecking Invoicesへとつながっている。

(右)活動の本拠地としているミラノの街角で。レオパードと赤い車が強いインパクト。右手に掲げたのはBOYYのバッグ
(左)今夏、アテネの丘の上にてレインボーメタリックを全身にまとい登場。第二の皮膚であるタイツをバカンスにも連れていくのはさすが!? コミカルで演劇的なポージングのセンスも抜群

イビサのビーチにある岩の上で、悠々と佇む「ファッションの妖精」のムード。Instagramでは水着姿のショットも披露

アテネのストリートにて、ミニマルでシアーなAcne Studiosのシャツをなびかせた

profile
2017年から活動スタート。全身タイツのインパクトある姿で、ウィットに富んだポージングをする神出鬼没の謎の「生物」。フェンディ、グッチなどのハイブランドともコラボレーションを展開。Instagram(@checking_invoices)のフォロワー数は約73000人(8月3日現在)。

photography: checking Invoices edit: Megumi Takahashi

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