2018年にスタートした、ステファン・クックのウールニットを主役に。肩や袖口に切り込みを施し、モードに昇華した。ベルトアクセサリーの赤もきかせたい。ニット¥105,000(ステファン・クック)、中に着たトップス¥47,000(アンドレ・ジャペイ・リー)、ベルト¥22,000(サミュエル・グイ・ヤン)、パンツ¥75,000(ミュグレー)・ネックレス¥44,000(スウィートライムジュース)/GR8
今、GR8が面白い。2019年に拡張された店舗面積は、ラフォーレ原宿2.5階の全フロアにあたる約130坪。2005年のオープン以降、増え続けている取り扱いブランド数はなんと200以上。メンズウェアのみならず、SPUR読者にもファンの多いコリーナ ストラーダやステファン・クックなどの新進気鋭のブランドがラインナップされ、ウィメンズも今後さらに強化していくという。コロナ禍でも2020年下半期の売り上げ前年比は20%増しという快挙も達成した。変化を恐れず、進化を続ける。オーナーバイヤー、久保光博氏は、すべてが“人”から始まると語る。彼のあふれ出す情熱はどこから湧き、どこへ注がれるのか? ファッションとGR8への愛、そして彼が見据える未来について話を聞いた。
人の魅力がストーリーを生み、店の変化が活気につながる
「GR8のVMDは毎日変わります。売り場を変化させ続けることは、お客さまのためでもあり、スタッフのためでもある。ディスプレイを変えることで気持ちにもメリハリが生まれ、モチベーションがお客さまにも伝わるんです。お客さまとスタッフ、そしてVMDは三位一体。近年は余計なギミックをきかせるのではなく、服の本質がまっすぐに伝わるような空間づくりを心がけています。あと、僕はとにかく掃除にうるさい(笑)。手入れが行き届いた売り場でないと、服を美しく見せることはできません。毎日磨かなければならない鏡面の什器は意識的に置いています。左右にあるアクセサリーカウンターは商品ごとに区分けされてるんですが、実は毎週そのブロックをひとつ横にずらしているんですよ。商品に触れることは物とコミュニケーションをとること。動かすことで新たな息を吹き込むっていう感覚ですね。あと、僕は連鎖するものがすごく好きなんです。左右の壁を埋め尽くす123台のモニターや天井に設置した15台のドイツ製の扇風機がまさにそれ。同じ物の集積にはパワーを感じるし、店のトレードマークにもつながると思っています」
若手ブランドと関係を築きラインナップは日々増殖中
「GR8にとって若手ブランドは“栄養素”。コレクションブランドだけではなく、未知なるブランドをいち早く買いつけることで、ショップとしての存在感がぐっと上がる。常に新しい才能へのアンテナを張り巡らし、情報を集めることが大切なんです。最近はGR8のスタッフのリサーチ力も頼りになりますね。初期から買いつけていたNASIR MAZHARやASTRID ANDERSENとは今でも交流があります。長く店をやっていると、若手が中堅に、そして大御所になっていく様子を母親のような気持ちで見守れることも、セレクトショップの醍醐味かもしれませんね」 若手ブランドとともにGR8も成長する。時間をかけてブランドからの信頼を得て、リレーションシップを築くのも久保氏のこだわりだ。 「年々ブランド数が増えていって、気づけば200以上になってしまいました(笑)。今後はウィメンズにも力を入れていきたい。昨年企画した気鋭のブランド、パウラ・カノヴァス・デル・ヴァスのポップアップには女性のお客さまも多く来てくれました。ウィメンズの服があるとお店が一気に華やぐんですよね。素材やプリント、カッティングと、表現の幅も広いですし、着こなし次第で表情が変わる。GR8の男性スタッフはウィメンズも臆せずスタイリングに取り入れます。普通の大学生だった子も、GR8に入社した途端ヒールブーツを履きだすんですよ(笑)」
自身の装いへの情熱と「服と人間力は比例する」
「販売員として働き始めた18歳のとき、一枚の服で人生は変えられると信じていました。昔から、ファッションは自分の心の中を表現できるひとつの手段なんです。新型コロナウイルス流行以前、ファッションウィークではとにかく人に見られるし、ストリートフォトグラファーがカメラを向けてくれる。サービス精神旺盛な僕の奇抜なファッションがトレードマークになって、“GR8のKUBO”と名前と顔を覚えてもらえるようになりました。海外だとその格好をよし悪しで判断するのではなく、ひとつのヴァイブスとして評価してもらえる。外見と中身がイコールであり、服装がその人を表すっていう考え方が強く根づいているんですよね。たとえばWalter Van Beirendonckの服を見て、デザイナーはどんな人だろうって想像すると、魅力的な人に決まっているでしょ? 服と人間の魅力って絶対に比例すると思うんです。僕は素晴らしい服を生み出すデザイナーを心からリスペクトしています。感動をお客さまに伝え、服を販売する。僕らの仕事ってある種の伝道師なのかもしれません」
よりオープンマインドに人との新しい出会いを糧にする
「僕たちは実店舗に対する愛着がものすごくあるので、コロナ禍以前は店舗が8割、オンラインが2割の売り上げだったんです。昨年4月、5月と店を閉めることになって、名刺代わりのお店が機能しなくなってしまった。デジタルでの発信力を高めようと試行錯誤していた最中に、ロンドン・ファッションウィークからムービー製作の依頼がきたんです。日本から選ばれたのは光栄にもGR8だけ! 途端に奮い立ち、GR8スタッフをフィーチャーしたムービーと、ラッパーのTOHJIくんのドキュメンタリー、そして日本画家の東園基昭さんのインタビュー映像を製作しました。東園さんはCharles Jeffreyの大ファンで以前から交流があり、明治記念館を特別にお借りして撮影できました。ムービーの発表のかいもあり、オンラインの売り上げがどんどん伸び始めました」 逆境を好転させるシフトチェンジも、久保氏だからこそなせる業。コロナ以降、異業種とのコラボレーションも積極的に行い、より多くの人がGR8の魅力に惹きつけられている。 「いろいろなことが遮断されてしまったコロナ禍で、僕の気持ちの中でも少し変化があったのかもしれません。今はひとつのカテゴリーに偏らず、いろいろなことを試してみたい。次にこんなことに挑戦したら、どんなハレーションが起きるかなと思い描きながら、最近ではBISHやG-DRAGONとも新しい取り組みができました。狙ったわけではなく、いろいろな方とのご縁が数珠のようにつながり、新しいプロジェクトが生まれていく。GR8の“8”は人との無限のつながりや可能性という意味が込められているんです。初心に戻り、新しい出会いを楽しみたいと思っています」 ファッションはパーソナリティを映し出すもの。変化、人間力、そして縁。久保氏から発せられる一つひとつの言葉は、人間味あふれるポジティブなエネルギーに満ちている。人が起点となり、服愛が生まれる。当たり前のようであり、いちばん大切なことをGR8が教えてくれるはずだ。
GR8 tells Rising Brands
SAMUEL GUI YANG 中国人デザイナー、ヤン・グイドンとスウェーデン人のクリエイティブディレクター、Erik Litzenが手がけ、東洋と西洋の衣服文化をミックス。「現代的にアップデートされたチャイナドレスはモードの新ジャンルです」(GR8)
Coperni クレージュの元アーティスティックディレクター、セバスチャン・メイヤーとアルノー・ヴァイヤンが2019年に活動再開。「アイコニックな『SWIPE BAG』はパリ&ミラノ・ファッションウィークでも何度も目撃しました!」(GR8)
Charlotte Knowles コルセットやブラジャーなど、アンダーウェアの要素を落とし込み、コレクションを展開。「シャツやTシャツの上にコルセットをつけるだけで、いつもと違った気分になれるはず」(GR8)