ジャン=ポール・ゴルチエのアーカイブに魅せられて以来15年。情熱を注ぐコレクターは「90年代半ばの作品は今の時代に最もふさわしいもの」と潔く言いきる。その心をインタビュー
1 1992年春夏のフェイス柄のスーツ。「ジャケットとパンツがともに長い年月を経て米英から揃って、ラッキーでした」
今も歴史が息づく90年代のゴルチエ
interview with Lordwarg(「House W NYC」ファウンダー)
ヴィンテージコレクターや、アーカイブとしてのデザインの収集家は多く存在し、市場としても盛り上がりを見せている。しかし、ここまで情熱的なコレクターはなかなかいない。ジャン=ポール・ゴルチエを集める、ロードワーグだ。カンヌで生まれ、現在ニューヨーク在住の彼は、約1000点ものアーカイブピースを所有している。子どもの頃から、フランスのテレビでファッションショーを毎シーズン欠かさず見て育つ。当時、ゴルチエは常に大々的に取り上げられていた。
「そのときは若かったし、彼の服が買えるほどのお金はなかったんです。ただ、普通の服よりも考えさせるようなひねりがあるデザインで、印象的でした」
数年後、オークションサイトのeBayでゴルチエのヴィンテージに再び出合う。
「私が着たいと思っていたものがそこにすべて揃っていたんです。特に1990年代半ばのアイテムは、政治的かつ凝ったスタイルで、当時の流行を美しく表現しており、今の時代にも最もふさわしいものだと思います。セーフセックスを謳い、ファッション業界におけるダイバーシティの欠如に対する批判があり、そして女性の権利を訴える、強いメッセージが伝わってきた。彼はただ服を作るだけでなく、キャットウォークでメッセージを主張していたんです」
ゴルチエの服に魅了されたロードワーグさんは約15年間を費やし、アーカイブを収集。ヴィンテージストアやオンラインなど、あらゆる手段を駆使して世界中を探し回った。ゴルチエはフランスと日本用にだけ、ジュエリーを含む多くのスペシャルエディションをデザインしたため、その2国のオンラインには"お宝アイテム"が存在するという。苦労して集めたエクスクルーシブなアーカイブは倉庫やボックスに保管するのではなく、すべて自宅に置いて、実際に着用している。
「私にとって服は、美術館に並ぶアートのようなもの。何十年も昔のものを着るときのフィーリングは素晴らしいですね。もしかしたらこの服はランウェイに登場したり、雑誌の撮影に使われたりしたかもしれない。そうやって思いを馳せています」
なぜ今人々の関心がヴィンテージピースやデザイナーの過去作に向かうのか。
「ファッションは常に社会と結びついていますが、1950年代から1990年代にかけて、世界は歴史上最も大きな変化を体験しました。当時の社会にもたらされた影響を色濃く反映した過去のアイテムには、より個性があり、歴史的なムードが息づいている。これが人々を魅了するのではないでしょうか」
2 ゴルチエのクラシックなルック。2000年代のセーラートップスは日本のオンラインショップから購入した。「ゴルチエはメンズウェアのルールを楽しいものに変えたんです!」
3 サイバートップスは1995年の秋冬コレクションのもの。ヴィクトル・ヴァザルリのアートにインスパイアされた非常に稀有な一品。ゴルチエのパーソナルアシスタントから入手した
4 1993年の春夏コレクションの6つのピースを重ねて。「ティーンの頃からタトゥーをしているように見える、このシリーズが大好き。ここまで揃えられたときは夢のように感じましたね」
Profile
ロードワーグ●フランス・カンヌ出身。本名はスティーブ・カラス。いつもドレスアップしていた母の影響でおしゃれに目覚める。’20年にヴィンテージのオンラインストア「House W NYC」をローンチ。エルメスやシュプリームなどの貴重なアイテムが揃う。www.housewnyc.com
photography: Skye Tan styling: Steve Karas assistant: Israel Andrade make-up: Tomoyo Shionome clothing: House W NYC text: Azumi Hasegawa