Topic_1 "サイケ"がリバイバル

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トップス¥46,200・パンツ¥75,900/アデライデ(ラフ シモンズ) ボディスーツ¥24,200/フィルグ ショールーム(シモーネ ワイルド) 帽子¥31,900/ショールーム リンクス(シノナグモ) イヤリング¥13,200/ライラ トウキョウ(モニエ) パンプス¥124,300/トッズ・ジャパン(トッズ)

今季ラフ シモンズに出現したのは、70年代を彷彿とさせるサイケデリック・パターン。セカンド・スキン的なボディスーツにオプティミスティックな表情を加えた。タイトなボディスーツを重ね大胆に。

 

サイケデリック誕生当時と今の社会情勢は、よく似ている
by Tiffany Godoy(ファッションジャーナリスト)

ウィメンズを初めて発表したラフ シモンズ2021年春夏ではマーブル模様が大々的に用いられていた。彼はなぜサイケデリックに目を向けたのだろうか?
「1960年代後半から70年代にかけてドラッグが引き起こす幻覚症状によってサイケデリック文化が生まれましたが(1)、若者たちがベトナム戦争や大量消費社会に反抗した当時と今の状況は似ていると思います。保守主義の台頭やテクノロジーの急速な発展、加えてコロナ禍によるステイホームで、皆、脆弱な社会への反抗心や現実逃避への渇望が強くなっているはず。微量の幻覚剤を摂取して自らの眠れる力を呼び起こそうという"マイクロドージング"も4、5年前から一部では広がっているようです。つねにユースカルチャーに注目しているラフ シモンズはそういう動きを見て取ったのでしょう」

ラフ シモンズだけではなく、近年ファッションの世界では若手を中心にサイケデリックなムードが漂っている。新デザインチームとなったエミリオ・プッチはブランドの象徴であるマーブルプリントをアップデートし(2)、シャーロット ノウルズは2021年春夏コレクションで60年代末から70年代始めに広まった「フラワーパワー」(花によって武装解除させようというスローガン)を参照して明るく生き抜こうとし(3)、ラフ シモンズでインターン経験があるマリー=イヴ・ルカヴァリエが手がけるルカヴァリエはデビューコレクションでサイケデリックを取り上げ、今も当時の文化から着想を得ている(4)。しかし、デザイナーたちは必ずしもただノスタルジーに浸っているというわけではなさそうだ。

「人種問題などをテーマとするNYのアーティスト、Cheyenne Julienの作品をプリントしたオットリンガー(5)、幻想的なビジュアルでアーカイブの素材やヴィンテージを使用したルックを発表したコリーナ ストラーダ(6)などは現代版サイケデリックと言えます。彼らのコレクションにはデジタル色が強いですが、今はいろいろな世界に"トリップ"できるPCがドラッグの役割を果たしているのかも。デジタル空間でのコミュニティづくりもかつてのヒッピーの集団行動と似ていますよね。自分と直接関係がない問題でもサポートをしたいという姿勢、既存品のリメイクブームや、マメ クロゴウチのマーブルプリント(7)のように手作業を駆使するところも当時を彷彿とさせます。グロテスクな"イリュージョンメイク"(8)も、美の判断基準を揺るがし新しいスタンダードを追求するという点でヒッピーと同じです」

社会情勢が似ていると、当時と同じような表現や考え方に惹かれるのかもしれない。それでは今後は?
「第一次世界大戦後、世界恐慌を迎えるまでの1920年代と同様の状況になるのでは。大変な時期の反動で、当時のようなゴージャスなスタイルが増えていきそうです」

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1 1968年、パリのクラブに訪れた女性たち。マーブル模様のキャットスーツを着用している
2 サイケデリックプリントがアイコンのひとつであるエミリオ・プッチ。最新コレクションではアーカイブや象徴的なプリントの彩度を上げ、パステルカラーで楽しいムードを表現
3 シャーロット ノウルズ(2021年秋冬よりKNWLSに改名)は、2021年春夏、2000年代初頭のカルチャーと「フラワーパワー」をミックス。シグニチャーの下着やコルセットを思わせるアイテムがマーブル模様に

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4 ルカヴァリエの2021年秋冬は1973年のSFアニメーション映画『ファンタスティック・プラネット』から着想を得ている
5 メッセージ性のあるアート作品をプリントにしたオットリンガー
6 コリーナ ストラーダはルックを着たモデルたちが動物へと変化する幻想的なビジュアルを公開
7 マメ クロゴウチは窓辺の風景を表現するべくマーブルプリントに。日本の職人技を駆使している
8 LA拠点のビジュアルアーティスト、Jessie Edelsteinのアーティなメイク Instagram: @jessi3.mp3

Profile
ティファニー・ゴドイ●世界各国の媒体で活躍し、SPUR本誌では「ティファニー・ゴドイの考服論」を連載。動画メディア「The Reality Show」も主宰している。東京も拠点としていたが、コロナ禍で現在はパリに滞在中。

photography: Kae Homma, Getty Images styling: Natsumi Ogasawara hair & make-up: Momiji Saito 〈eek〉 model: Masha text: Itoi Kuriyama

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