Topic_5 循環するホームドレス

家でも外でも着られる心地よい素材ながら、高揚感が得られる"ホームドレス"。コロナ禍によってトレンドとしても隆盛する今、ヴィンテージからルーツを掘り、現行のブランドと点を結んでみたい

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1 デザイナー自身が着用。シグネチャーのスモックドレスは胸元のパールボタンが可憐なポイント
2 バットシェバのプレイフルな装いは見るもののおしゃれ心をくすぐる。「時にへんてこなものも試したり。明るい花柄が特に好きで、大きなフリルがついたドレスにラフなスニーカーを合わせるのが今の気分」

 

バットシェバのレトロドレスが気分
interview with Batsheva Hay

ホームドレス、といえば頭に浮かぶのがバットシェバの存在。色とりどりのヴィンテージファブリックに、体のラインを強調しないシルエット、パフスリーブやフリルの心躍るディテールは、まさに今着たいもの。最近ではZ世代のエラ・エムホフが大統領就任式で着用していたことでも話題に。そんなバットシェバ・ヘイの服作りは、子育て中に愛用していたローラ アシュレイのスモックドレスをリメイクしたことから始まった。
「スクエアネックでコーデュロイ生地の花柄。ローラ アシュレイは簡単に着られて美しい究極のドレスでした。便利なポケットつきであることは、私の服作りにおいても大切にしていることなんです」

自分のために作った機能的なリメイクドレスが話題を呼び、またたく間に人気ブランドに。
「コレクションしているヴィンテージのベストな要素をピックアップして、自分自身が着たいドレスを作っています。バットシェバのコレクションは、ヴィンテージのドリームバージョンなんです」

代表作はハイネックのスモックドレスやさまざまなプリントを組み合わせたハウスドレス。「ファブリックの物語がひとつになる瞬間が楽しい!」と語る彼女をインスパイアするのは、どんなものなのか。
「ファッションデザイナーでいうと、アナ・スイやベッツィ・ジョンソン(3)、ヴィヴィアン・ウエストウッドに川久保玲。あと、シンディ・シャーマンもキーパーソン。女性が演じてきた役割について表現した『The Complete Untitled Film Stills』(7)は一番好きな写真集。あふれ出る感情と瞳に映る反抗心に感銘を受けました。デザインをする、服を着こなす過程で、ドラマティックな感覚をいつも探し求めています」

柄と柄を組み合わせるように、好きなピースをつなげ、バットシェバの世界観が生まれる。また、自身がユダヤ教徒であることも服作りの軸のひとつ。
「ユダヤ教のコミュニティでは、肌の露出を避け、控えめであることが必要。私はこの文化に魅了されているし、肌の露出をせずとも、服が美しく輝くように、アイデアを練って試してみるのが好きなんです」

規律と遊び心、その絶妙なバランス感も彼女らしさ。そして、どこかレトロでフレッシュ、対極にある要素が出合い、バットシェバというひとつの形に。
「懐かしいスタイルに、新しいエネルギーを吹き込む発想が好き。歴史を感じさせると同時にモダン。女性が自分自身を美しいと思える服を作っていきたい」

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3 ベッツィ・ジョンソンも尊敬するデザイナーのひとり。「ランウェイで側転する彼女は、本当にかっこよかったんです!」
4・5 夫のアレクセイ・ヘイが撮り下ろした2021年秋冬のビジュアル。「一般の女性をモデルに、自宅のキッチンで一番好きな料理を作っている姿を撮影しました」

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6 写真家ニコラス・ニクソンが彼の妻とその姉妹を40年間撮影した『The Brown Sisters: Forty Years』もバットシェバのインスピレーション源のひとつ 
7 『The Complete Untitled Film Stills』の中で特に好きなカット

Profile
バットシェバ・ヘイ●スタンフォードとジョージタウン両大学の法学部を卒業。弁護士として活躍した後、2016年よりブランドをスタート。MatchesfashionやFarfetchをはじめ、日本国内のセレクトショップでも人気。ファッションフォトグラファーの夫、アレクセイ・ヘイ、ふたりの子どもと一緒に、マンハッタンに暮らす。

 

ホームドレスの名手、クレア・マッカーデルとは?
by 矢田明美子(ライター・編集者)

扱いが楽で、パッと着られて、素敵に見えるホームドレス。そんなアイデアの服を生み出し、女性の生活を後押しした人が過去にいる。クレア・マッカーデルは、1930~50年代に活躍したファッションデザイナー。彼女の著書『わたしの服の見つけかた』(アダチプレス)を翻訳した矢田さんはこう語る。

「機能的なアメリカン・ファッションのパイオニア的存在。パリを中心とした上流者階級向けのクチュールとは着眼点がまったく異なり、仕事に家事に奔走する一般的なアメリカ人女性のための服作りをしました。マッカーデルが作る服の最大の魅力は、自分の好みや体型に合わせて着こなしを変えられること。胴回りを自在にシェーピングできる筒型やAラインの『モナスティックドレス』(1938年)、着回しを考慮して発案された5点揃いの『ピースワードローブ』(1934年)、ワンピースとしても羽織りとしても使える『ポップオーバー』(1942年)が代表作で、ラップドレスやバックファスナーを使わないなど、脱ぎ着が楽なデザインが特徴です。お手伝いさんの手を借りずとも、自分ひとりで着脱できることを前提にした服作りは、女性の自立に大きく貢献したといえるでしょう。私が思うに、マッカーデルのモットーは『服は、楽しく!』。着る人への愛にあふれたものづくりを感じます」。その精神は、今のファッションのあるべき姿を教えてくれる。

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8 代表作「モナスティックドレス」のように、ウエストをマークすることで自由自在にシェーピング。合わせるベルトやアクセサリー次第で表情を変えられるのも魅力だ
9 組み合わせ次第で着回せる、旅先で便利な「ピースワードローブ」。上下揃っているだけで、きちんとした雰囲気を醸し出せる

クレア・マッカーデルのDNAを引き継ぐ"ホームドレス"はここに

ROSETTA GETTY
「仕事に家庭に旅行に、と多忙な日々をスムースに過ごせる服がコンセプト。どんなシーンでも女性を美しく見せてくれるエプロンラップドレスがロゼッタ ゲッティの定番。アートコレクター、ポール・ゲッティのひ孫の奥さんで、女性アーティストからインスパイアされたコレクションを頻繁に発表しています」(矢田さん)。
rosettagetty.com

NATSUMI ZAMA
「左右が半分に分かれる、前後が同じに見える、背中に一枚の四角い布を合わせドレープのシルエットを生むなど、ちょっとしたアイデアで美しい服を作り出す人。ロンドンでさまざまなコレクションブランドのサンプル縫製を経験してきたからこその技を感じます」(矢田さん)。
natsumizama.com

 

"コテージコア"なローラ アシュレイ
by 小薮奈央(スタイリスト・curiosオーナー)

バットシェバの服作りのきっかけともなったローラ アシュレイについて、ヴィンテージショップ、curiosのオーナー、小薮さんが解説。
「1970年代のローラ アシュレイは、19世紀のヴィクトリア朝時代のドレスから着想を得ているものが多く、ハイネックにパフスリーブ、ウエストがきゅっと締まったデザインが特徴的。エプロンを巻いてそのまま農作業もできるように、くるぶしが隠れるくらいのロング丈が基本です。ドラマ『大草原の小さな家』に出てきそうなスタイルが多く、2020年以降のトレンドとして注目されている"コテージコア"と通じる部分があるように感じます。柄でいうと、ウェールズの田園風景からインスパイアされたボタニカルをはじめ、ディア柄などの動物モチーフも多く見受けられます。curiosでも、ローラ アシュレイのヴィンテージドレスを販売し、30代のお客さまから好評でした。今、ロンドンのマーケットでも稀少価値が上がっていて、タグに『Made in Wales』と記されている自社生産時代のアイテムは特に貴重です」

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10 左に写るのは創設者ローラ・アシュレイ。ヴィクトリア朝時代を思い起こさせるエッセンスが存分に
11 (左)「Made in Wales」と記された1960年代後期のドレス¥85,800(右)プチフラワー柄が全面に広がる1970年代初期のナイトガウン¥44,000/キュリオズ(ローラ アシュレイ)

 

Nowなブランドもマーク
by 吹上 恵(GIGINA オーナー)

ヴィンテージを遡ってきたが、気鋭のブランドにも目を向けよう。ロマンティックなドレスの需要が常に高いセレクトショップ、GIGINAのオーナー、吹上さんはこう話す。

「私自身がセパレートされた服をあまり着ないこともあり、一年中たくさんのホームドレスを取り扱っています。一枚の面積が大きいので、アクセサリーや靴を合わせるときに差し引きしやすいのも便利なポイント。とにかく楽な服を優先する波も一段落し、今は一枚で存在感があり、モチベーションを高めてくれる服が求められているように思います。今季特におすすめしたいのは、シベリア出身のデザイナーが手がけるナヤ レア(12)。スカラップ・ディテールなど、布端の処理が凝っていて、劇的に可愛いんです。レイヤードしたときにも存在感を発揮するジュエリー的要素が、このブランドの強みだと思います。ホームウェアブランドとしてスタートしたティエリー コルソン(13)はずっと継続して扱っているブランド。GIGINAでは日本人の体型に合わせて、20㎝ほど丈を短くしています。思いっきり気分を上げたいときはイタリア発のカラーリエティピコ(14)のハンドダイ・ドレスがおすすめですよ」

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12 淡いミモザのプリントに心が癒やされるミニドレス。¥59,400(ナヤ レア)
13 大きく膨らむパフスリーブがロマンティック¥68,200(ティエリー コルソン)
14 レインボーカラーと袖のビッグリボンに心が躍る。¥73,700(カラーリエティピコ)/GIGINA

photography: Kae Homma (11), Kenichi Yoshida (12〜14),Getty Images styling: Natsumi Ogasawara (11) text: Sakiko Fukuhara interview translation: Azumi Hasegawa

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