2021.07.25

Topic_8 中国モードもネオ・ノスタルジー

急速な発展を遂げ、注目ブランドが乱立する中国。ここでも"過去に回帰"な流れが起こっている。自らの歴史や文化を、時に懐古的な目線を通してリクリエイト

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1・2 母との共同作業で作るガラスビーズのアクセサリーがシグネチャー。ドリーミーな世界観が人気なスーザン・ファン
3 2021年秋冬シーズンでは「過去の生活」をテーマにしたサミュエル・グイ・ヤンは「"Made in China"が創造性、高品質、芸術性、サステイナブルの代名詞にもなる未来をつくりたい」と話す 
4 映画『龍の娘』(’31)をテーマにしたエンジェル・チェンの2021年秋冬ランウェイ。伝統的なモチーフをパワフルに昇華

 

伝統をアップデートする、中国ファッション
by Yoshiko Kurata(ライター)

若手デザイナーが牽引する中国のファッションシーン。彼らの近年のクリエーションからは、幼少期の家族との記憶や、故郷の田園風景など自国へのノスタルジーが色濃く感じられる。彼らがつくり出す"懐かしく、新しい"世界観はどのようにして生まれているのか? 上海ファッションウィークにも足を運ぶライターの倉田佳子さんはこう話す。
「若者文化の中心となる上海は驚くほどのスピード感で変化を遂げ、ファッションキッズが集まるALL CLUBをはじめ、クラブカルチャーも他国と交換イベントを行うほど盛んになっています。第1世代と言われるエンジェル・チェン(4)、スーザン・ファン(1・2)、サミュエル・グイ・ヤン(3)、シュシュ/トングは、欧米からの評価も高く、彼らに続けと新しい才能が次々と生まれているのです」

その立役者とも言えるのが、インディペンデントなデザイナーを発掘し、ファッションショーやイベントを開催する「LABELHOOD」。前身の「棟梁一日」を経て、2016年よりプラットフォームとして、若手ブランドを国内外へ輩出。
「1990年代生まれの中国人デザイナーたちは、ヨーロッパの服飾大学で学び、自分らしさを問われる中、必然的に自国文化に目を向けていきました。そして帰国し、母国でコレクションを発表する。ヨーロッパにとどまらないその新しい流れも、若手の受け皿となるLABELHOODのサポートがあるからこそ」

LABELHOODのファウンダー&ディレクターのリュウ・ターシャもこう語る。
「この5年間のコレクションを振り返ると、中国にルーツを持つノスタルジックな美意識が、はっきりとした輪郭を帯びてきたように感じます。インターナショナルな雰囲気のシュシュ/トングやイランティエンが人気を得る一方で、オリエンタルなブランドが存在感を示してきました。H&Mとのコラボレーションも記憶に新しいエンジェル・チェンも中国のモチーフをうまくミックスしていますね」

伝統と未来、ふたつの言語をミックスしつつ急速な発展を遂げてきた中国。歴史を振り返り、自国を鑑みることができるほど、シーンが成熟してきたとも分析できる。
「『"エキゾチック"という枠を超えて、中国の歴史や文化をコレクションに反映していきたい』と語るデザイナー、サミュエル・グイ・ヤンを筆頭に、自国の伝統に回帰することで、アイデンティティをより強固にしているのでしょう」

そして今話題をさらっているブランドは、2019年にデビューしたユキィ・キィ(6)。
「『彼女の最大の強みはクラフツマンシップ』とターシャが評するように、刺しゅうやビーズなど繊細な手仕事がコレクションの随所にちりばめられています」

続く最注目のブランドとして、ルイ・シェンタオ・チェン(8)を挙げたい。そして"レトロ回帰"な美意識は、中国のクリエーション全体に拡大している。ノスタルジーをモダンに表現するフォトグラファー、レスリー・チャン(7)は、ファッション・フォトグラフィーの分野でも、まさにこの流れを体現する存在だ。そんな独自のミックス感は、上海の街角からも見てとれる。
「急速なスピード感で発展する都市風景だけかと思いきや、公園では青空床屋が開かれていたりするんです。未来的なだけでなく、昔から変わらないのどかな風景が混在しているのが面白いですよね。そして若者たちは過去の歴史をアップデートし、未来をつくることに熱心。ショーに集まる若者のファッションもエネルギーにあふれています」

ターシャも「ブランドが打ち出す女性像の広がりに伴い、オーディエンスもよりダイバーシティに変化してきた」と話すように、デザイナーたちがおのおののスタイルで伝統を解釈することで、中国文化と若者の距離が縮まってきた。レトロイズムは、オーディエンスが抱くエモーショナルな記憶と共鳴しているのだ。

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5・6 ブランドデビューと時期を同じくして、ロンドンから広州に帰国したユキィ・キィ。「幼い頃は故郷の素晴らしさに鈍感だったけど、帰国してからその魅力について深く考えるようになりました」

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7 レスリー・チャンが撮り下ろしたLABELHOODの春夏キャンペーンビジュアルは「家族」がテーマ
8 ターシャが注目するルイ・シェンタオ・チェン。デザイナーはグッチのランウェイを歩くなど、モデルとしても活躍する
9 伝統をグラマラスに表現した2021年秋冬

Profile
くらた よしこ●1991年生まれ。ライターとして媒体への寄稿やインタビューで活躍。2019年3月刊行の書籍『"複雑なタイトルをここに"』(アダチプレス)では共同翻訳・編集を行う。CALM&PUNK GALLERYのキュレーションにも携わる。Instagram: @yoshiko_kurata

photography: Getty Images text: Sakiko Fukuhara

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