Topic_6 少女マンガなロイヤル・バイブス

どこか"乙女"なロイヤル的世界観がモードを席巻!? それらは70年代の少女マンガを彷彿とさせる。親和性の高い作品とともに、比較対照してみたい

70、80年代の少女マンガ的視線が再び
by 小田真琴(女子マンガ研究家)

今年に入って、モード界にロイヤルな雰囲気が漂っている。ディオールの2021年秋冬コレクション(1)はおとぎ話を追求し、幼い頃に誰もが憧れたプリンセスのようなルックも登場。18世紀フランスを舞台とした『美女と野獣』(2)が着想源のひとつとなった。セリーヌ オム2021年秋冬のムービーのロケ地は16世紀に建てられたフランスのお城(3)。国王フランソワ1世(4)が主導したフランス・ルネサンスを再解釈したコレクションを発表している(5)。キム・ジョーンズが初めて手がけたフェンディ2021年春夏クチュール(6)は1928年のヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』(7)などをイメージ。主人公オーランドーは16世紀エリザベス1世に寵愛を受ける貴族の美少年だった。

これらを見ていると思わずふわふわ、ひらひらした「少女マンガ」の世界観を連想してしまう。具体的にどんな作品とリンクするのだろう。女子マンガ研究家の小田さんに聞いた。
「思い浮かぶのは、萩尾望都先生の『ポーの一族』(’72・8)や『トーマの心臓』(’74・9)、池田理代子先生の『ベルサイユのばら』(’72・10)など。萩尾先生が描く美しい少年たちやトリップ感がある世界観、池田先生のゴージャスなスタイルを彷彿とさせます。少女マンガは欲望が投影されるメディア。フランスを筆頭に、ヨーロッパの王族、貴族文化への憧れが多く描かれたのはこうした70年代の作品でした。簡単に取材旅行ができる時代ではないので、当初は想像で描いていた作家も少なくなかった。80年代半ばは憧れの対象がアメリカへと移り、90〜2000年代に海外旅行が当たり前となると舞台は日本へと回帰していきます。おしゃれなものは東京にいっぱいあるので遠くに行く必要はなくなった。最近では経済的な情勢も影響しているのか身近な話が増えています」

ではなぜ今、私たちはヨーロッパブランドに見られる16〜18世紀の文化回帰と日本の70年代の少女マンガ的世界観を紐づけてしまうのだろうか。
「コロナ禍もあって社会の分断が急速に進む息苦しい世界の中で、今の価値観とは真逆のところに行きたい、夢を見たいという共通の願望があるのでは。70、80年代の日本の少女マンガ家たちが海外を想像していたのともはや同等の距離感なのかもしれませんね」

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1 2021年秋冬コレクションでディオールはヴェルサイユ宮殿「鏡の間」を舞台に
2 アーティスティック ディレクター、マリア・グラツィア・キウリはジャン・コクトーが監督した映画『美女と野獣』(’46)がお気に入り
3 2021-’22年秋冬セリーヌ オムのムービーのロケ地、ロワール地方にあるシャンボール城
4 イタリア文化に憧れたフランソワ1世

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5 90年代のカルチャーなども融合
6 フェンディはクチュールで初の春夏を発表
7 サリー・ポッター監督、ティルダ・スウィントン主演の映画『オルランド』(’92)

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8 ヨーロッパを舞台に吸血鬼一族を題材とした萩尾望都著『ポーの一族』
9 『トーマの心臓』はドイツの寄宿舎つきの学校「ギムナジウム」で物語が進んでいく。萩尾作品には美しい少年や青年が多く登場し、のちのBLにつながる世界観を先取りしているともいえる
10 ドラマティックな歴史物を得意とする池田理代子が手がける『ベルサイユのばら』。革命期フランスの王妃マリー・アントワネットと架空の男装の麗人、オスカルがメインキャスト。日本で入手可能な資料をできる限り集めて描かれた。作者は連載終了後に初めて渡仏したという

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Profile
おだ まこと●少女マンガを社会情勢ともリンクさせて分析し、各媒体で活躍。1970〜80年代に比べて情報過多となった現在の少女マンガの想像力の欠如を危惧。SFやファンタジー、ホラー系のカムバックを期待している。

photography: Kae Homma, Getty Images, Aflo styling: Natsumi Ogasawara hair & make-up: Momiji Saito〈eek〉 model: Masha text: Itoi Kuriyama

FEATURE
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