パオラ(以下P) ヴィンテージのバイイングには、目利きであることはもちろんのこと、直観や幸運が必要。マジカルな瞬間に遭遇することも多いですよね。 アレッサンドロ(以下A) 運命を感じることがありますね。普段は個人の方からの買いつけが主なのですが、以前、たまたま教会のバザーに行ったんです。展示品は家具ばかりで「今日は収穫なしか」と思って帰りかけたとき、古いクローゼットの中に、ブルーのチュールのドレスがぽつんと1点だけかかっているのを見つけました。「さっき見知らぬ老婦人が寄付していったんですよ」とのことで、多少の献金をして、いただいて帰りました。家に戻って、古紙に無造作に包まれたドレスを取り出してみてびっくり! “ランバン1938年”というタグがついていたんです。 P 最近、私はeBayなどのネットオークションで買いつけることがほとんどなのですが、「ひと山いくら」というふうに、無造作に売られているものの中に、キラリと光る掘り出し物を見つける幸運も。たとえば、物資不足の戦時下に米国で考案された、電話の受話器のコードを使った「テレフォンコード・パース」は、まだその価値が知られていなかった20年前に20ユーロで落札。でも、今では10倍以上の値段に。以前から、その商品誕生に関する史料を集めていたことで、潜在的価値を見いだせました。背景にあるストーリーを掘り下げていくのもこの仕事の醍醐味です。まあ愛着が強すぎて、売りたくなくなるのがこの商売のつらさなのですが。 A そうそう。手放すときは涙ながらということも。遺品整理や引っ越しの機会に、見積もって引き取ってほしいというケースも多いですが、そういう方々も、愛着のあるものはお孫さんに受け継がれたりしていますよね。 P イタリア人は家族愛が強いからか、代々受け継ぐのは普通ですよね。それでも、90年代に、それまでの「ユーズド」という観念が、「ヴィンテージ」というポジティブなイメージに変化したことで、ヴィンテージのバイイングも少し変わりました。かつては、上流階級の人は、着なくなった服はお手伝いさんに譲っていたし、店に電話して買い取ってもらうというのは恥ずかしいとされていたことも。今はそれがおしゃれなことになっています。信頼できるバイヤーを口コミで紹介し合ったりして。 A 以前、そんなご紹介で、あるお宅まで買い取りに出向いたのですが、行ってみてびっくり! 1970年代のヴァレンティノのオートクチュールがクローゼットに詰まっていたのです。ドレスではなくて、日常着ばかりというのも珍しかったです。それらは後に、ブランドがアーカイブに所蔵するため、すべて買い取っていきました。 P あと、ミラノにはブランドのアトリエが多いので、デザイナーがヴィンテージを買って、リサーチすることも多いですよね。 A 豊かなファッションに恵まれたイタリアで仕事ができて、僕らは幸せですね。 P そこで大好きな仕事ができているということもね!