PARIS / イヴ・サンローランのオークション秘話

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1 語り合うドミニクとオリヴィエ

Dominique Deroche × Olivier Châtenet
(右)ドミニク・ドロッシュ
1966年以降、イヴ・サンローラン・リヴ・ゴーシュのディレクター、メゾンのPR、YSL財団のPRを務める。

(左)オリヴィエ・シャトネ
デザイナーでヴィンテージ・コレクター。最近は娘が始めたIGヴィンテージショップ(@insitu.paris)を手伝う。

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2 オークションでは、プロのリサーチに基づいた詳細を掲載したカタログが制作される。写真はカトリーヌ・ドヌーヴのワードローブとジジ・ジャンメールの衣装を扱ったオークションのカタログ 3 2019年、クリスティーズで開催されたイヴ・サンローラン×カトリーヌ・ドヌーヴのオークションの展示風景を捉えた一枚

ヴィンテージ・ラバーに最も人気が高いのが、1960〜70年代のイヴ・サンローラン。だから“サンローランの生き字引き”みたいな二人の語りを聞くと、ヴィンテージの全体像が見えてくる。秘話を披露してくれたのは、40年近くもサンローラン氏に寄り添ったドミニクと、サンローランをコレクションし、YSL財団での展覧会にも協力してきたオリヴィエだ。

ドミニク(以下D) 1970年以前は、おしゃれで古い服を着るなんていう概念はありませんでした。そんななか、ヴィンテージ・ファッションの火つけ役となったのは、プレタポルテのイヴ・サンローラン・リヴ・ゴーシュでしたね。周りの女性たちからインスピレーションを受けていた氏は、1940年代のかっちりしたスーツを着こなすパロマ・ピカソや1930年代の緩やかなドレスを纏うルル・ド・ラ・ファレーズのルックに惹かれて、リヴ・ゴーシュの1971年春夏コレクションに取り入れたのです。
オリヴィエ(以下O) しかし、このコレクション、“スキャンダル”と呼ばれるほど、メディア評は悪かったですよね。ところが実際に店頭に出ると……。
D 大成功! 誰もがこのコレクションの服を欲しがったんです。
――つまり温故知新のよさを、女性たちはこのコレクションを通じて発見した、というわけですね。ところで当時のアイテムは、どんなルートをたどってヴィンテージ市場に出るんでしょうか?
D リヴ・ゴーシュの顧客は経済的に余裕がある女性たちでしたから、後にワードローブを処理するとしても私物を売りさばくことはなく、ミュゼに寄付したり家族や知人に譲るのが通常でしたが……。
O 個人的なネットワークもありますが、近親者の間に受け継がれたピースがどこでどう市場に出てタイミングよく見つけられるかは、オークションやネット販売をまめにチェックして、偶然に任せるしかない。だから、いいものが見つかると、病みつきになります。
D ヴィンテージ購入は出合いの問題ですからね! ところでオークションで最も記念すべきは、2019年に開催されたサンローラン氏によるカトリーヌ・ドヌーヴのオートクチュールのワードローブの販売。オリヴィエと二人で、2カ月もかけて鑑定したんですよ。
――サンローランに限らず、一般的なプレタポルテでも通はショップよりオークションを狙いますよね。展示日には実物を見て試着できるのも便利だし。
O ここ15〜20年くらいは、まとまったコレクションがオークション・ハウスに提案されるケースが増えてきました。亡くなった方の充実したクローゼットが、遺族の持ち込みでオークションに出るケースも多々あります。
D 行き場のない服を現金化する、という意味合いではなく、遺族の方は故人が愛したピースを今欲する人に着てほしい、という意味合いもあるでしょう。
O こうして古きよきものが受け継がれるのは、物質的な意味でのサステイナブルよりさらに価値が高いと思います。ビバ・ヴィンテージ!



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