Chapter.1 スタイリストって何をしているの?

漠然としたイメージはあっても、具体的な仕事内容は意外に知られていない。毎日に密着し解き明かす!

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モデル撮影
朝の印象的な光を狙って、九十九里の浜辺でロケを敢行。シャッターを切る前に、ボウタイやジャケットの襟など細部まで丹念に着せつける

服のリースにプレスルームへ ▶▶

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1 この日はChapter.2の「飯島朋子の考える、『今のベーシック』」に使用するアイテムをリースするためショールーム セッションへ
2 テーマごとに架空の人物像を作り、その人が好きか、着るかを想像しながらスタイリングを考えていくのが飯島流。プレスルームにあるアイテムを全体的にチェックしながら、何をリースするか厳選していく
3 プレスの最勝久美子さんとは気心が知れた仲。アイテムの提案をしてもらいながら、何げない雑談も楽しむ。「飯島さんにはブランドのシーズンビジュアルやルックブックのスタイリングをよくお願いしています。ブランドの意向を汲み取り、フォトグラファーやヘアメイクさんにしっかり伝えて、ビジュアルの落としどころを探ってくれるので安心。クライアントとクリエイターの橋渡しが抜群にうまいんです」(最勝さん)。リースする服を決めたら書類にサインをして、打ち合わせへ

スタッフと打ち合わせ ▶▶

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4 フォトグラファーの松原博子さん、編集者、ライターと撮影の打ち合わせ。主にロケーションやモデルの相談をして、どんな絵をどう作っていくかを話し合う。飯島さんがビジュアルを制作するうえで心がけているのは、ポジティブな世界観にすること
5 10年以上のつき合いだという飯島さんと松原さん。「イージー(飯島さんの愛称)がすごいのは、好きなものをどんどん吸収していくところ。それを自信にして、迷わない強さへと日々変えていっていると思います」(松原さん)
6 過去に手がけた作品などを見せながら、ムードやライティング、マインドなどのイメージをスタッフ全員で共有。着想源は、写真集、映画、MVなど、純粋に好きなものから。「まったく知らないことがテーマの仕事でも、徹底的にリサーチをして臨めばいいだけ。専門外だと思う内容はないです。勉強はいくらでもできます」(飯島さん)

コーディネートを組む ▶▶

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7 イエナの2022年春夏コレクションのイメージビジュアル撮影のために、コーディネートを6ルック組むところ。プレスルームのラックには、ブランドが打ち出したいアイテムの数々。見せ方などクライアントのリクエストを聞きながらスタイリングを考えていく
8 今回はウェブでの掲載になるため、さらっと流されないような見ごたえを重視。バッグやシューズを実際に並べながら、物撮りもプラスしてはどうかと提案する
9 早いときは30分程度でスタイリングを完成させてしまう。誌面になったときを想像するため、あえて組んだルックを平置きにしてクライアントに見せる。「『ボーダートップスを入れたほうがイエナらしいかな?』と提案するなど、ブランドイメージを考えて取り組んでくださる。通常のスタイリストの仕事以上の配慮やアドバイスもしてもらえて、安心感があります」とイエナ ディレクターの高橋綾子さん

カフェでアイデアをまとめる ▶▶ アイテム撮影

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10 リースとリースの合間など、空き時間はカフェへ。タブレットの画面上で借りているアイテムの写真を使ってスタイリングを組んだり、ムードボードを作って撮影イメージをまとめたり。多くの案件が同時進行しているため、頭の中を整理する
11 この日はSPUR6月号のウェディング企画「誓いのリング、最高の選択」の撮影。サムシングブルーがテーマなため、プロップには青い花を用意した。フレッシュさを演出するため、根っこに土をつけるアイデアをその場で発案。細部にも入魂する
12 フォトグラファーや編集者と撮れた写真をパソコンのディスプレイでチェック。よりよいビジュアルになるよう、リングの写り方や、植物の葉の角度などを微調整していく。いろいろ試した結果、ファーストカットがやっぱり一番よかったねとなるのもよくある話。「構図の正解はないため、とにかくやってみることが大切」

 

撮影は全員で短距離走のゴールテープを切るイメージ

スタイリストをしていて一番楽しい瞬間は?という質問に「撮影現場」と即答した飯島朋子さん。「フォトグラファーがシャッターを切る瞬間がとにかく好き。スタッフ全員がその一瞬のために時間と労力をかけて準備し、短距離走のゴールテープを切る瞬間くらい集中している。みんなで必死に、作りたい絵を目指すのが最高に楽しい」 

そのときを迎えるために、飯島さん自身はどのような作業と準備を行うのだろう。「ブランドの背景やアイテムのインスピレーション源を理解するのが第一段階。そこからキーワードを抜き出して、自分なりに解釈するのが第二段階です。SPURの仕事だったら、まずどういう人物像を作るのかを詰めていきます。撮り方などはフォトグラファー、編集者、クライアントなどの意見を取り入れ多角的な視点からビジュアルを構築していきます」

仕事をする上で大切にしているのは、人に喜んでもらうこと。「そこは常に忘れずにやってます。昔ある雑誌で、自我を押し通してスタイリングをしてしまったことがあるんです。そのとき、当時の編集長に『これはウチの雑誌のムードじゃなくない?』と怒られてしまって。それ以来自分だけが好きであればいいのではなく、周りのスタッフや読者の方など、みんなに喜ばれる仕事をしようと思うようになりました。だから『飯島さんの作るページが好き』より『飯島さんの作るSPURの世界観が好き』と言ってもらえるほうが私はうれしい。とはいえイエスマンではいられないから、そのバランスが難しいんですけどね」

そんなスタイリストという仕事の魅力は何か。「何でもできるところ。だって日常の中で宇宙人を作れたりするんですよ(笑)。しかも短期間であらゆるテーマのビジュアルを制作するので、毎回違う職業を経験している気持ちになるんです。その感覚を通して『こういうことあるよね』とか『こんなふうにもなれるんだ』って、見る人に感動を与えられて、納得もしてもらえるページにできたら」

 

どんな内容でも、「自分の仕事」と胸を張れるように

若手のクリエイターは、自分がやりたい企画や絵作りができないことも多い。実際飯島さんも葛藤していた時期がある。「独立直後はなかなか仕事がもらえなかったり、私らしいテーマじゃないなぁと散々悩みました。それでも『やってよかったな』って思えるように仕事をすれば、どんな企画も楽しくなるんです。たとえば黄色いニットが並ぶカタログページだったとして、その色のものをただ集めるだけなら誰にでもできる。でも『昼の日の光のようなこの黄色がいいんです。夕日はもっと黄みと赤みを帯びるから、この濃い黄色もリースしてきました』というように、自分が誰かに説明するときのストーリーまで考えて用意すれば、より説得力が生まれるし、自分が集めてきた意味が出る。自分なりの視点でフィルターを作るということです。だからページの大小は関係なくて、テーマとの向き合い方で変わってくると思います」

地道に目の前の仕事に取り組んだ結果、33歳頃を境に自分のやりたい仕事ができるようになったという。でも一生スタイリストを続けるつもりはない。「具体的に決めてはいないけど、居住地を変えてみたいんです。リモートでできる仕事か、あるいは意外と農業に挑戦するかも。今の世の中、誰もが不安定だから、発想の転換が重要になってくると思います。仕事で失敗したのなら、なぜそうなったかを考えて、その理由に対処する新しいやり方を編み出す。全部ポジティブにはいかないけど、全部ネガティブに捉える必要もない。ヒントはどこにでも転がっています」

最後に、スタイリストを目指す人へのメッセージを聞いた。「10人いたら10人違うやり方があるので、私のことは参考にしなくて大丈夫。『誰かみたいになりたい』は、すでにほかの誰かがいるということ。自分なら何ができるかを考えることが大切だと思います。ただ一つ伝えたいのは、スタイリストという仕事は、本当に楽しいよ!ってことです」

飯島朋子さんの密着動画はこちら↓