ミュウミュウ「女性たちの物語」最新作は、トランスウーマンの自作自演

ミュウミュウ独自のプロジェクト「Miu Miu Women's Tales(女性たちの物語)」では年2回、女性の映画監督がそれぞれの視点から社会問題や女性としての立ち位置に着眼して作ったショートフォルム制作をサポートし、ブランドのウェブサイトで公開しています。2011年のゾエ・カサヴェテスによる「The Powder Room」に始まり、10周年を迎えたこの活動の第21弾「Shangri-la」が、今週公開されました。


今回はフィリピン出身でニューヨーク在住、トランスジェンダー女優&映画監督のイザベル・サンドバルによる、10分に渡る作品です。舞台は1930年代、大恐慌下のカリフォルニア。アメリカが労働力としての移民を多く受けいれつつも、実際は有色人種と白人の交わりは結婚はおろか、恋愛もままならなかった時代です。「シャングリラ」ではフィリピン移民の農夫として、アメリカ人男性との禁じられた愛を赤裸々と語る女性が主人公。イザベル自身が演じるこの女性の独白と交錯するのは、暗闇の中で彼女が恋人に心身ともに融合する、空想とも現実ともつかないシーンや大地、夜の空の一連。カトリックの教会で信者が神父に打ち明ける“罪の告白”とも取れますが、苦悩に満ちたヘビーな打ち開け話と言うより、夢の回想のようなシュールで詩的な映像が、視聴者をグイグイと引きつけます。また「女性たちの物語」では、ミュウミュウのタイムリーなコレクションからの抜粋が、フィルムの衣装に使われるのが、恒例。イザベルは「Shangri-la」で、ミュウミュウ’21年春夏コレクションから、スポーツウエアと艶やかなラインストーン刺繍がミスマッチなルックを選びました。その不協和音はまるで、シナリオに顕著なこの時代の矛盾に、呼応するかのようです。

 

思えば、肌の色やLGTB(性的マイノリティ)にまつわる社会問題が、アートやファッションのテーマとしても考察されるようになってきたのは、ここ最近のこと。ハイエンドのブランドが、背景が多様なスポークスマンをフィーチャーし、モデルやインフルエンサーとしてもブラック・パワー、アジアン・パワーやトランス・ジェンダーの発言力が高まるようになりました。でも広義に見ると、差別や偏見はいまだに無視できないレベルです。しかし、どうしたらいいかわからない人も多いかもしれません。だからなおさら、ミュウミュウのようなブランドが問題意識を提議するのは、とても意義深いことだと思います。トランスウーマンを含めすべての女性たちと一丸となっての、静かな戦い。社会への“攻撃”ではなく、むしろ女性らしさへの賛歌を表現すること。ミュウミュウ「女性たちの物語」は、そんな優しい視点で見て欲しいフィルムの一連です。

 Text: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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