元コレットのアーティスティック・ディレクター、サラ・アンデルマン。2017年末のコレット閉店後は、コンサルティング会社Just an ideaを設立し 、多くのコラボレーションを手がけています。コレットでは書籍コーナーに力を入れ、出版には以前から興味があったという彼女が半年程前から取り組んでいたプロジェクトが、この4月に形になりました。「Just an Idea Books」と題したアート本のシリーズです。ローンチに当たって選んだのは、インスタグラムで見つけた異なるジャンルの5人のアーティストたち。「彼らの作品が大好きだから、バーチャルだけでなく現実的な形で評価されるべきだと思ったの」と、サラは語ります。「出版の仕事での楽しみは、コレットのギャラリーでもそうしていたように、アーティストたちとやりとりすること。ビジュアルのセレクションやレイアウトもね」。このデジタル時代において、本はとても大事だとサラは断言します。「本から得られる、記憶と感覚。オブジェとしての本に触り、ページをめくることは何事にも変えられない経験じゃない?」
今回彼女が選んだ5人のうち特筆すべきは、パリ・北マレ地区にフローリストを構えるルイ・ジェロー・カストー。
なぜサラは彼を“花店”の枠を超えたアーティストと見なすのでしょうか?サラ曰く「花瓶との組み合わせによるクリエイティブな花束、彼自身が撮る写真からは、従来の花店とは違った新しい視点、自由な発想を感じ取れるから」。また彼とコレット、そして本の世界には、実は特別な繋がりがあったのです。
6年近く前、当時は20世紀初頭の装飾美術のエキスパートとしてギャラリーやオークション会場でのディスプレイを手がけ、本を執筆したこともあるカストー氏は、コレットである本を購入しました。Dr. リサ・クーパー(オーストラリアのフローリスト、アーティスト、哲学の教授)による「The Flowers」 です。サラがこっそり教えてくれた逸話によれば、カストー氏の転機は、この本がきっかけだとか。フロリストになろうと決心した彼は花の専門学校で技術的なことを学び、本購入の1年半後には、カストー・フルリストをオープン。ここで提案されるのは、複数の花の意外性のあるミックス、またはミニマリストなチョイスで、まるで彫刻のように創り上げた花束です。特別な色と質を探し求めて、珍しい花の数々をイタリアや南仏の小規模な農家から取り寄せることもあるとか。花の持つ力は、装飾的要素よりもずっと深いと考える彼は、「花を新しい視点で見つめたい」と語ります。また装飾美術への情熱と知識をいかして、陶芸作家のリサーチに余念がない彼のもっぱらのコラボレーターは、ブルターニュ地方にアトリエを構えるマチルド・マルタン。今後は、Tマガジンで現代のベスト・セラミストと謳われたシドニーのアラナ・ウィルソンや、モデル業と並行して陶芸家としての才能も見せるラケル・ジマーマンによる花瓶も加わる予定だとか。
「Just an Idea Books」の本の一連はYorgo Tloupaによる統一したレイアウト、フォーマットでいずれも96p、205 x 260mm、300部限定で50ユーロ。日本ではボンジュール・レコーズにて。
text: Minako Norimatsu
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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