大正時代のモガをイメージした和食レストランも。ドバイの最新食事情

やっと日本入国時のコロナ規制が緩くなり、長い間お預けだった海外旅行も現実的になってきました。とはいえ、ロシア上空を飛行できないため便数が減り、フライト時間も通常より長くなっているヨーロッパへは、まだちょっと足が遠いかもしれません。そこで直行便もあり今バカンスにお勧めなのが、アラブ首長国連邦のドバイ。典型的な眺めは人工ビーチに高層ビル、巨大なショッピングモール内には一年中人工雪のあるスキー場も、と街全体がちょっとキッチュなイメージですが、実はグルメ指数の高さも魅力。今回は、料理だけでなく雰囲気や客層もおもしろい、ドバイのホットスポットをご紹介しましょう。

ドバイのフーディング・シーンに君臨するのが、ピエール・ピラジャン、エレナ・パラボスキ、リスワン・カシムのフランス人トリオ。彼らが、パリ・フォーブール・サン=トノレのトレンディ・スポットとして10年間あまり親しまれていたラ・カンティーン・ド・フォーブールをドバイに移したのは、7年前。単に新しいことを求める冒険心からの方向転換だったそうです。それ以来、彼らはドバイに数件のレストランをオープン。フランス人の星付きシェフ、ジル・ブスケを食のスーパーバイザーにたて、インテリアも同じデザイナーに依頼することで、料理もコンセプトも異なる数件には統一感がもたらされました。

そのうち3件を擁するのが、ドバイのランドマークの一つ、エミレーツ・タワー。まずは、ピープル・ウォッチングも楽しめるインターナショナルな社交の場、昨年秋に改装されたラ・カンティーン・ド・フォーブール(La Cantine du Faubourg)へ。テラスからは高層ビルの一群を臨み、まるで西新宿ですが、パームツリーも連なって、南国の雰囲気。500席もある室内はレトロとコンテンポラリーが入り混じった、ポップなインテリアです。肝心のメニューからは、長ネギ&トリュフのリゾットと、グレープフルーツ&ざくろのハニー・ショートリブ、そしてわさびドレッシングの水菜&ベビースピナッチ・サラダを。日本食はここでも人気で、ラ・カンティーン内の秘密のドアからのみアクセスできる新しいスペース、ゴハン(Gohan)が謳うのは“エレガントな日本のストリートフード”。とは言えメニューに刺身、タタキ、寿司から天ぷら、串焼き、そしてお好み焼きなどが並ぶのを見ると、“ストリートフード”の解釈にちょっと疑問が。でもユズドレッシングでいただくチキンとフォワグラの餃子、スパイシーかに味噌汁、ベーコン入り醤油ドレッシングがかかったアボカドフライなどは意外と美味で、こってり創作料理だ、と納得しました。しそ、ライムジュース、ゆず、ソーダのモクテルなど、カクテルの種類も豊富!

同じくエミレーツ・タワー内でエキゾチックな雰囲気を味わえるのは、城壁に囲まれたメソポタミア文明の古都(現イラク)を店名とする、ニニーヴ(Ninive)。イランからイラク、レバノン、シリア、トルコ、サウジアラビアと言ったアラブ諸国から、果ては北アフリカのモロッコやチュニジアまでのベストをモダンにアレンジした料理です。レバノンのファタイエ (ミートタルト)、イラクのタシュリーブ(レモンでマリネしたラムのスパイシー・ソテー)、モロッコのタクトカ(ピーマングリル)などちょっと珍しいディッシュは、ルーツや材料をよく読んで食すると、楽しさもひとしお。

一方昨年秋のオープン以来話題なのが、パーク・ハイアット・ホテル内、100mのプールもあるプライベート・ビーチに併設のトゥウィギー・バイ・ラ・カンティーン(Twiggy by La Cantine)です。白木や籐の調度品で洗練されたインテリアのここは、いわばアラブのサントロペ。ビーチらしくシーフードの盛り合わせはもちろん、イタリアンと寿司が混在、と不思議なインターナショナル・メニューですが、とにかくどれも美味しいので違和感は何処へ。また中心地の喧騒をちょっと外れた住宅街には、ポルトガル料理のラナ・ルーザ(Lana Lusa)が。哀愁漂うファドを耳にしつつ、素朴な陶器でサーブされる家庭料理を味わうと、気分はリスボンのバイロ アルト。

最後に特筆したいのは、ユニークなアートディレクションによる高級和食店、ミミカクシ(Mimi kakushi)です。この店名はアール・デコ全盛の1920年代、つまり大正時代に流行った、断髪やシニヨンを基本にウェーブで耳を覆ったヘアスタイルのこと。日本滞在歴が長かったジル・ブスケが、文明開化の頃の日本のモガ(モダンガール)にインスパイアされたそうです。ここでは寿司はもちろん、看板料理はアンガス牛のしそマヨネーズソース、味噌と柑橘類でグリルしたブラックコッドなど。日本の食材を使った味付けは今では世界的に珍しくないですが、味噌にはマスタードやピスタチオ、ポン酢にはチリやトリュフ、梅干しはバターで、白だしはエスプーマ(泡のトッピング)に、と冒険心のある組み合わせはまさに新しい味。海外の日本“風”レストランには点数が厳しくなりがちですが、ミミカクシは店名から内装、料理までコンセプトが一貫しているところを評価。ドバイでの、マスト・アドレスです。

 Text: Minako Norimatsu

 

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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