展覧会から芝居仕立てのショーまで、話題満載の2022年秋冬オートクチュール週間!

2022年秋冬オートクチュール週間は、オフィシャル・カレンダーに先駆けて7月3日夜、アライアのショーで幕を開けました。前日に届いたのは、背中に“2023年冬春”の文字が印刷された、お針子さんの作業着を思わせる白衣のインビテーション。そう、アズディン・アライア健在の頃から、同メゾンでは春夏・秋冬ではなく夏秋/冬春なるシーズン表記をしているのです。会場はまだ工事が続行中で、近々オープン予定のアライアのブティック。昨年12月にアーティスティック・ディレクターのピーター・ミュリエをインタビューした際、メゾンに迎えられる前から個人的にアズディンの作品を蒐集していて、1983から'96年、特に'84年のコレクションが好きだ、と語ってくれたのを覚えています。彼がブラッシュアップしてこのコレクションに取り入れた、女性のボディを象ったヒールのパンプスも、オリジナルは'91年。ピーターによる3度目のコレクションとなる今回、アズディンのヘリテージを再解釈した彼のクリエーションは、より深みを増したようです。

翌日、オフィシャル週間のキックオフは、スキャパレリのショー。待ち時間の間、パリ装飾芸術美術館内の会場には鐘が鳴り響き、一瞬ライトが消えて暗闇になると、階段上には黒とオフホワイトのファースト・ルックが現れました。本誌10月号(8月23日発売)にて予定しているスキャパレリの特集でアーティスティック・ディレクターのダニエル・ローズベリーをインタビューした際、彼が語ってくれた逸話を披露しましょう。「コレクション準備中、久々に休みを取ったある日曜日、自宅近くの公園にいたら教会の鐘が鳴り始めた。とても大きな音で、イヤホンで聞いていた音楽も聞こえなくなったほど。その時どんな風にショーを展開すべきか、ビジョンが見えたんだ」。この劇的な演出は、ダニエルがこのコレクションで意図した“ロマンティシズム”にぴったりです(詳しくは本誌掲載のインタビューをお楽しみに!)。折しもショーのすぐ後には、ダニエルの代表作を何点も交えたエルザ・スキャパレリの回顧展の内覧会とオープニング・カクテルが開かれ、この日はまさに“スキャパレリ・デー”となりました。

感動も収まりきらないうちに、今度はシャネルへと向かいます。パリの西の外れ、ブローニュの森に近いエトリエ馬術センターに設えられた会場は、現代アートの作家、グザヴィエ・ヴェイヤンによるモノクロームのグラフィックな演出。ルックは鮮やかなグリーンのスーツに始まり、メゾンのサヴォワフェールを象徴するツイードが様々な表情を見せました。後半は黒&シルバーを中心にピンクも加え、特殊加工レースやスパンコールの刺繍を添えて華やかに展開。カール・ラガーフェルドが好んだ構築的な構成主義も思わせつつ、シルエットの中心は細身で長い1930年代風です。その背後には、マドモアゼル シャネルが発表した初のハイジュエリー・コレクション「ダイヤモンド ジュエリー」が今年90周年を迎えたことも関連しているかもしれません(ハイジュエリーの新作については、次回お届けします)。いずれも動いてこそ美しいので、ランウェイ動画とともに、グザヴィエ・ヴェイヤンによるティザー・ビデオも必見。メゾンのアンバサダー、シャルロット・カシラギとともにフィーチャーされているのはモデルのヴィヴィアン・ローナー、バックに聞こえるのは、セバスチャン・テリエが作曲したオリジナルソング「マドモアゼル」です。

またメゾン マルジェラの「アーティザナル」コレクションでは、シャイヨー宮内の劇場にて、メゾンのクリエイティブ・ディレクター、ジョン・ガリアーノによる新しい形態のプレゼンテーションが繰り広げられました。彼は昨年夏、フランス人の映画監督オリヴィエ・ダアンを起用しての1時間あまりに渡る壮大な映画「 A Folk Horror Tale 」を発表し、映像によるストーリーテリングの才能を発揮しています。イギリスの演劇カンパニー、Imitating the Dogとのコラボレーションによる今回の作品は、芝居と映画を一体化させたCinema Inferno。衣装としての最新コレクションで、ドレスはチュールを惜しみなく使い、50年代風レトロなシルエットだったり、彫刻のごとく立体的だったり。他にはマント風テーラードコート、しつけ糸があらわなデニムの解体・再構築ジャケット、トラペーズラインのコートドレスなど、究極のガリアーノ節が続きます。アリゾナを舞台としたロードムービー仕立てのシナリオは、運命に呪われた若い恋人たちが逃避行の上に命を落とすという、ラース・フォン・トリアー風の救いようのない悲劇。一方コスチューム、ヘアメイク、ライティング、映像とすべては美しく、ロマンティックです。ちなみに来年には、彼自身を追ったドキュメンタリー映画が公開予定だとか。

最終日は、バレンシアガのショー。昨年復活した年に1度のオートクチュール・コレクションは、メゾンにとっては51回目、デムナのディレクション下では2度目です。前回は彼のアイコニックなスタイルを取り入れつつ、クリストバル・バレンシアガのレガシーへの敬意が顕著でした。それに比べ今回は伝統的なクチュールのノウハウに最新テクノロジーを取り入れ、デムナ独自の未来的なアプローチ。黒のネオプレン、アルミニウム加工の形状記憶生地などが象徴的です。後半では、セレブたちがクチュールの域を極めたドレスを披露。またこの機に、バレンシアガはサロンの階下に「クチュール・ストア」をオープンしました。ここでローンチされたオブジェのうち特筆したいのが、フレグランス・キャンドル。昨年のクチュールのショーの際、会場となった本社サロンに漂った香りです。香りのコンセプトは科学者でアーチストのシセル・トラース(Sissel Tolaas) 。現本社のあるアヴェニュー・ジョルジュVに1937年から68年に実在したサロンの壁とクリストバルの私物(お香、タバコ、古い紙、革、ウール、シルク、ファー、オーク材、油を差したミシンのメタル・パーツなど)から抽出した匂いの分子から成っています。スピーカー・バッグやフェイスシールドも置かれたこのブティックは、クチュールとストリートを融合させる、デムナの斬新なアイデアが具現化した場所。クチュールのあり方自体が、今変わろうとしているのかもしれません。

 Text: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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