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シャネルのメイクアップを刷新するのは、3人の若手メイクアップ・アーティスト。

シャネルが「コメット コレクティヴ」として、エイミー ドラマヴァレンティナ リーセシル パラヴィナの名前を発表したのは、昨年の秋のことでした。3人の若手メイクアップ・アーティストから成る“グローバル クリエイティブ メークアップ パートナー”チームの役割は、メイクアップ部門のコンセプトの掘り下げとプロダクツ作り。6月初旬には南仏でのイベントで、彼女たちが実際にプレス陣に紹介されました。

「コメット コレクティヴ」の3人。右からセシル パラヴィナ、ヴァレンティナ リー、エイミー ドラマ。

アート・コレクターのヴィラを借り切って開かれたイベントのエントランスでは、カラフルなパネルを壁に配して、ゲストたちのフォトコール。”色は概念“なる言葉を読み取って、頭の中で色への意識を高めていきます。イベントのテーマ「カラー アニマ」は来春に発表される「コメット コレクティヴ」初コレクションにリンクするのか、好奇心が掻き立てられます。

 

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プレゼンテーションの会場にて。エントランスにはカラフルなバックドロップが。

ベージュ、黒、赤、白、ゴールド。シャネルの5つの基本色。

イベントはまず、トークセッションから始まりました。第一部ではエディターのフンミ フェットを司会に、作家、カシア サントクレアと舞台監督のマリー シュレーフが、色について討議。カシアはThe Secret Lives of Colour と題した著者で色の意味や逸話について綴っていますから、またとない適役です。

とは言え、いちばん面白かったのは、横から参加したシャネル メークアップ クリエイティブ ストゥディオ ディレクターのマリー ラスネの話。ガブリエル シャネルのエッセンシャル・カラーへの言及では、筆頭は黒。子供時代を過ごした修道院のユニフォームと言う暗い思い出に繋がる黒を、彼女が1910年にはリトルブラック ドレスでエレガントな色に消化させたこと。白はカメリアの花やフレグランスのパッケージに象徴的に使われていること。そしてベージュは元々メンズの特権だった生地、ジャージィ素材から取って、自由を象徴したこと。ゴールドは教会に顕著な色で、シャネルのバロック・ジュエリーへの傾倒につながったこと。そして赤は自身のために作った初のリップスティックの色であり、バッグのライニングにも使われていること。またガブリエル シャネルは迷信深さから、願をかけたい時には足首に赤のリボンを巻いたそうです。

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カシア サントクレアによる本、The Secret Lives of Colour (Penguin Books)

 

それぞれのコメット、各々のスタイル

トークセッション第2部のゲストは、「コメット コレクティヴ」の3人。自己紹介も兼ねて、ヴィラ内のプールサイドでショーケースに並んでいる各々のインスピレーションについても語ってくれました。

ガンビアにルーツを持ち、バルセロナで育ったエイミーは、10歳と言う若さで友人の手ほどきで知ったメイクアップ・アーティスト、ケヴィン オークインの作品集を展示。19980―2000年の幾つかのビデオクリップの抜粋も並列させました。学生の頃、クリップを見ながら友人たちと集まって踊りの練習に励んだ際、メイクアップを担当したと言う逸話に、納得。

一方中国広西チワン族自治区の森に囲まれた村で育ったと言うヴァレンティナは、南中国の部族に伝わる民族衣装をもとに彼女の母が仕立てたと言う刺繍生地と、尊敬する衣装デザイナー石岡瑛子の本、そして色彩豊かなピグメントをふりかけた白いカメリア、未来的な自作のオブジェ。自らのスタイルを“フューチャリスティック・エレガンス”と呼ぶ彼女の、とてもパーソナルなチョイスです。

フランス北東部出身で、ベルギー・アントワープの王立芸術学院でファッションを学んだセシルの選択は、友人のアーティストによる絵。デジタルフォトのプリントを水で洗い、太陽の光やドライヤーで乾かす実験的な作品では、最終的に色がどんな風に出るかわからないのが面白いとか。また、学生の頃アルバイトでちょっとしたお金が入るとすぐに本につぎ込んだと言う彼女は、パーソナル・コレクションからヴィンテージの配色本も披露してくれました。

 

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トークセッションの第二部では、コメットたちが登場。右からエイミー、ヴァレンティナ、セシル。Photo: ©CHANEL

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コメットたちのインスピレーションの展示。Photo: ©Chanel

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エイミーのインスピレーションの一つは、ケヴィン・オークインの作品集。Photo: Minako Norimatsu

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ヴァレンティナの インスピレーションの一つは、日本が誇る衣装デザイナー、石岡瑛子。Photo: Minako Norimatsu

 

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ヴァレンティナのもう一つの展示は、自作のオブジェ。Photo: Minako Norimatsu

 

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セシルのインスピレーションの一つは、着物の限りない配色を見せるヴィンテージの本。Photo: Minako Norimatsu

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セシルのインスピレーションのもう一つは、Jean-Vincent Simonetによる実験的な写真。Photo: Minako Norimatsu

3人は肌の色、バックグラウンドから性格、仕事のスタイルまで異なります。好きな色も赤だとエイミーは青みがかった赤、セシルは黄色系の赤、そしてヴァレンティナは「ロマンスと同時にパッションを象徴する真紅」と、微妙に好みを違えます。一方共通点は、既成概念にとらわれない創造性。そして、シャネルのメイクアップ製品を知り尽くしていること。お気に入りのプロダクツは?ときくと、ヴァレンティナの1,2,3のかけ声に合わせて全員が口を揃えて「ボーム エサンシエル!」と叫びました。光を捉えて輝き、顔に自然と立体感を与える、マルチユースのスティックです。

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コメットの3人全員のお気に入りプロダクツは、「ボーム エサンシエル」。5色あるうち、写真はリラ。Photo: Minako Norimatsu

トークの後はランチを挟み、まずはシャネルのメイクアップ スタジオ風に設えたスペースにて、紙上、またはiPadを使ってメイクのお絵描き。そしていよいよ、イマージブ体験へ。中庭には、先にナタリーが挙げたシャネルのエッセンシャル・カラー、白、黒、赤、ゴールド、ベージュのオブジェが設置されています。この後ろのドアから入ると、それぞれの色の部屋が異なる仕掛けで訪れる人を包み込みます。こうして色を”体験”したところで、イベントは幕を閉じました。

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イベントの最後のステップは、イマージブなインスタレーション。エントランスにはシャネルのメイクアップのエッセンシャル・カラーオブジェが展示された。Photo: ©Chanel

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イマージブ・インスタレーションの最初の部屋は、さまざまなテクスチャーが提案された、赤。Photo: ©Chanel

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次は、黒の部屋。床、壁、天井とも黒の部屋に白地で投影されたのは、色の名前や色から換気される感情。Photo: ©Chanel

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ベージュの部屋は、小さな個室。壁一面に投影されたのは、麦畑の映像。Photo: ©Chanel

 

ちなみに「コメット コレクティヴ」の3人はシャネル専属ではなく、月に一度1週間のペースでパリのシャネルのメイクアップ スタジオで共同作業に集中しますが、フリーでの仕事も続けているそう。メゾンのDNAの一つに“自由”があるだけに、シャネルの取ったまったく新しいコラボレーションの形は、クリエイターの才能を伸ばすに違いありません。

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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