Reseeで、2024年春夏パリ・ファッションウィークを解剖!Part1
ファッションウィークでの復習の機会、Reseeとは?
ファッション誌編集者やスタイリストにとってはもう当たり前の、Resee(リシー)。一般読者の皆さんには聞きなれない言葉かも知れませんが、ファッションウィークにおいて文字通り“再び見る”とは、ランウェイで発表されたコレクションを改めて、しかも手に取って見ることを意味します。ブランドによって様々な形があり、シンプルにラックに服がかかっていてプレスの方がコレクションのテーマを説明して下さる場合もあれば、演出に趣向が凝らされていてイマーシブな体験ができることも。たいていはメゾンのショールームを会場に、ショーの翌日か数日後に開かれます。
アライア、ボムシェル・シルエットの秘密
春夏・秋冬ではなく冬春・夏秋、と独自のシーズン・サイクルを取っているアライアでは、Reseeの時期も自社流です。7月のクチュールウィークに発表されたコレクションが再度見られたのは、今回のプレタポルテのファッショウウィーク時、9月末。8区のブティック上階に位置するショールームにずらりと並んだマネキンを見ると、セーヌ川にかかるレオポール・セダール・サンゴール橋を会場としたショーでの感動が蘇りました。メゾン創始者、故アズディン・アライアがまっとうした構築的な服づくりを刷新すべく、ピーター・ミュリエによるルックはいずれも、まるでスカルプチャー。ボムシェル・シルエットの秘密は、お尻のボリュームにありました。
ウエストをキュッと絞り、ヒップラインの丸みをエレガントに見せる彼のスカートでは、デザインの一部としてのヒップパッドを、あらわに。作るのにも着るのにも時間がかかる服という、彼の叙述的ではないパーソナルな取り組みが理解できたReseeでした。2019年に出版された本 Taking Time (Rizzoli 刊)で、アズディン・アライアがなにごとにも時間をかけることの大切さを語っていたのをピーターも読んだのかしらと思い、書架に眠っていたこの本を読み始めてみました。
ヴィンテージ家具で世界観をより深く表現する、ザ ロウ
まるでギャラリーのような演出が毎回楽しみなのは、最近のトレンド“クワイエット・ラグジュアリー”の筆頭株、ザ ロウのResee。ヴァンドーム広場近く、歴史的な邸宅を改装したショールームでは、各コレクションのムードに合わせてメアリー=ケイト・オルセンとアシュリー・オルセンが選んだ、ヴィンテージの家具が配されます。いずれも、シャルロット・ペリアン、ジャン・ロワイエールなど、モダニスト・デザイン通を唸らせるチョイス。自宅からウェルネスに、というコンセプトでリラックスとスポーティをミックスしつつ、素材と仕上げ、微妙なカッティングで贅を極めたコレクションに、今回のインスタレーションも見事に呼応していました。
Reseeの場所も初の披露、新生カルヴェン
場所の特別感というと、今シーズンの一番の発見はカルヴェン。しばらくアーティスティック・ディレクター不在だったカルヴェンに、ジョゼフやラコステのアーティスティック・ディレクターを務めたルイーズ・トロッターが迎えられてはじめてのコレクションは、私にとって今シーズンのベストの一つでした。ミニマルでスポーティなルックの一連は、肩を強調しつつ気張ったパワーウーマンとは違い、シアーな素材を取り入れても媚びたセクシーではなく、新しい女性らしさを提案していたからです。Reseeの会場は、シャンゼリゼ通り麓のラウンドアバウトに位置する、カルヴェンの歴史的ブティック上階の邸宅内に。これから改装に入るそうで、現状がわかる写真はお見せできないのですが、モダンながら歴史が息づく新しい本社オフィス&ショールームでは、カルヴェンの明るい未来が感じ取れました。
未来のドーバーストリートマーケットで見た、ゾマーの初コレクション
もうひとつ、これから改装に入る特別な場所が、35-37(マレ地区のフラン・ブルジョア通り35-37番地)。コロナ禍のオープン以来、マレ地区の歴史的建造物はこれまで地上階では若手のみのセレクトを扱うDover Street Little Marketを、そして地下や上階では期間限定ストアやアート展、ランウェイショーやショールームを迎えるイベントスペースを擁してきました。今シーズンもDSMで扱う若手ブランドのショールームを開いていたので、ゾマー(zomer)のデビュー・コレクションを目指して、ここへ。ゾマーはアムステルダムのイムル・アシャ(Imruh Asha)と、ダニアル・アイトゥガノフ(Danial Aitouganov)のデュオが立ち上げたブランドです。イムルとは昨年カプリ島でのプッチのリローンチで面識があり、今をときめくスタイリストとの評判を聞いていたのでショーを見たかったのですが、前のショーの遅れと交通渋滞のため、叶わず。
ブースにはデザイナーのダニアルがいて、インスタグラムでのローンチやランウェイのセットに関する逸話を披露してくれました。例えば、遊園地の遊具か現代アートかと見まごうオブジェは、ロケハンで見つけた廃材をカットして色付けしたものだとか。話しているうちに、彼は2017年のイエール国際モードフェスティバルを取材した際私が一番好きだったデザイナーだったことを発見! こんな再会も、Reseeならでは。ちなみに35-37は来春、ギンザやロンドン、ニューヨークのDSMと並ぶコンセプトストア、Dover Street Market Parisとしてオープンする予定だとか。
ロエベのReseeで見た、ハイウエストパンツの内側
強調されたシルエットの秘密を見られたのは、ロエベのReseeにて。6月のメンズ・コレクションで発表されて以来話題になっていた超超ハイウエストのパンツは、今回ウィメンズにも登場しました。ベルトでぎゅっと締めなくても、なぜこのシルエットが保たれているのか気になっていたところ、内側を見て目からウロコ! なんとコルセット内蔵という仕掛けがあったのです。ジョナサン・アンダーソンはメゾンのルーツ、スペインへのオマージュを民族調に転ぶことなく取り入れるのが得意ですが、ここでの着眼点は、コルセットで締める闘牛士のパンツだったとか。また、シンプルなレザーのトップの袖口と裾の、まるでちぎられたたような仕上げも、近くで手に取ってこそわかったディテールです。
エルメスでは素材を触って、軽やかさを実感
エルメスではディテールに加え、素材がシルエットの決め手となることを確認できました。エルメスのアイコニック・カラー、ルージュH(アッシュ)と呼ばれるバーガンディ系赤から始まり、グレージュやオフホワイト、果てはオペラレッドまで。メゾンのレザーグッズに使われる色をパレットとしつつ、何よりも軽やかさが謳われたコレクション。レザーやシルクと併用されて夏らしさ、軽やかさを演出したのは、張りがあってやや透ける薄手のコットンです。またReseeでも再現された、草原をイメージしたセットを見て思い出したのは、ギリシャ・シテール島の叢を着想源としたメゾンの最新フレグランス「シテールの庭」のローンチで春にアテネに行った時の光と香りでした。
Reseeの記事は、Part2へと続きます!
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/