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【ドリス・ヴァン・ノッテン】【ロエベ】【ディオール】2025SSメンズのベスト3

"時”への考察を服で表現した、ドリス・ヴァン・ノッテンのラスト・ショー

今回紹介するのは、2025春夏メンズコレクションのベスト3(前回の投稿でのルイ・ヴィトンは別として)。単に時代がジェンダーレスだから、メンズのランウェイにも着たいアイテムが見つかるから、という視点で選んだわけではありません。彼らのアプローチがファッションの次元を超えているからです。

まずは、38年間続けた自身のブランドのファッションデザイナーとしてのポジションから今季のコレクションを最後に退いた、ドリス・ヴァン・ノッテン。完璧な、かつひと捻りしたテーラリング、日本の伝統的な技法である墨流しの柄、それとは対照的にコンテンポラリーなポリアミドの軽やかなアウター……。ショーのトラックリストの最初、デヴィッド・ボウイの“Time…one of the most complex expressions…”に読み取れる“時”の意味深さについての考察が、クラシックと新しさへの探求を交錯させたコレクションに表現されました。詳しくは、発売になったばかりの本誌9月号掲載の特集で! ショーの一部始終のリポートに続き、インタビュー記事でドリスが語っているのは、150回目にして最後となったこのコレクションへの思い、この機に悟った服のパワー、退任発表後の気持ちの変化、彼独特の色彩感覚のルーツ、そして今後の活動と自身の名を冠したブランドの未来まで。あわせて、ファッションストーリー、ドリスの名言集など見どころ満載の20ページです。

デヴィッド・ボウイが詩を朗読するTime, …one of the most complex expressions… に始まり、彼のヒット曲Sound and Visionで幕を閉じた、ラストショー

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ジョン・アームストロングは、ドリスが“家族”と呼ぶおなじみのモデルの一人。古くはパレロワイヤルの庭園で開かれた1995年の春夏メンズコレクション(1994年6月)で、自転車に乗ってのショーに起用された

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ソフトテーラードなメンズルックを着こなしたのは、ドリスと同じくアントワープ出身のベテラン・モデル、クリスティーナ・デコニーク。©GORUNWAY 

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ハネ・ギャビーが纏ったのは、ガラスのような透明感がある、ポリアミドのジャケット。ルックの色彩は、ドリスが影響を受けたというフランシス・ベーコンによる絵画を思わせる。© GORUNWAY 

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ショーの前、カクテル・ディナー会場での動画スクリーンの前で

アート・インスピレーションを掘り下げた、ロエベ

ジョナサン・アンダーソンは、このコレクションを「ラディカルな節度」と呼んでいます。聞いただけでは意味が理解しにくいですが、ランウェイに配されたアート作品の数々を見ると、彼の真意が見えてきます。パーソナルな視点で選んだアーティストたちは、20世紀のリベラルなアートムーブメントを牽引した5人。建築家、チャールズ・レニー・マッキントッシュによるコートラックと椅子は、私たちにも馴染みが深いところでです。またカルロ・スカルパによるイーゼルには、ピーター・ヒュージャーによるパンプスの写真を飾り、ヒュージャーの恋人だった造詣アーティスト、ポール・テックの作品からはコマとミニチュアオブジェの一連が。また数カ所に置かれた本「反解釈」は人権アクティビストで作家だったスーザン・ソンタグのエッセイですが、実はヒュージャーが1976年に出した作品集『Portraits in Life and Death』に序文を寄せたのは、他でもない彼女。こんな風に一見すると相互関係がなさそうでいて深くつながりのある要素をミックスし、間接的なインスピレーションとして自分の世界に取り入れたことで、コレクションには深みが生まれています。2017年にヨークシャーのザ・ヘップワース・ウェイクフィールド(彫刻家、Barbara Hepworthのミュージアム)での展覧会、ジョナサンのキュレーションによる「Disobedient bodies」(従順でない身体)で見た、彼のアートへの造詣の深さを思い出しました。

アート作品を配したランウェイと、セッティングに余念がないジョナサン

 

微妙なボリューム感とテーラードの技術をフィーチャーしたコレクションでは、スリムな身頃に袖の長さやボリュームで遊んだジャケット、襟なしやAラインシルエットで進化させたライダーズが際立ちました。マザーオブパールや羽など趣向を凝らした素材で仕立てたシンプルなシルエットまたはロゴのタグを巨大化して構築的なシェイプに仕上げたトップスもジョナサンのアート魂を具現化するキーアイテムです。

パリ4区、共和国衛兵隊庁舎でショーを開催した、ロエベの2025年春夏コレクション

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時計の金属ベルトを繋げたようなトップス。Photo: Minako Norimatsu

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巧妙にドレープを寄せ、タグを前に付けたパンツ。Photo: Minako Norimatsu

 

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千鳥格子を羽根で。究極のラグジュアリー、最高峰のクラフツマンシップ。Photo: Minako Norimatsu

ディオールでは、アーティストの手仕事とメゾンのアーカイブスが共存

アーティストとのコラボレーションはもはや一般化していますが、どう解釈するかがデザイナーの腕の見せ所です。ディオールの2025年サマー メンズコレクションで、メンズ クリエイティブ ディレクターのキム・ジョーンズが組んだのは南アフリカの陶芸作家、ヒルトン・ネル。ナイーブアートやシャーマニズムをも思わせる彼の素朴な陶芸は、モチーフそのものだけではなく構築的なフォルムやマットまたは艶やかな質感で、テーラードピースやワークウェアに落とし込まれました。

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グラフィカルなフィナーレ。Photo: Courtesy of Dior

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ネルソン・ヒルの巨大な猫の陶器スカルプチャー5点が設置されたランウェイ。Photo: Courtesy of Dior

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陶器の柄をビーズ刺しゅうで。手仕事による製作には、600時間もの時が費やされた。Photo: Minako Norimatsu

また陶器と対比・共存させた着想源は、メゾンのオートクチュールのアーカイブスに埋もれていた要素。急逝したクリスチャン・ディオールの跡を継いだイヴ・サンローランが1958年秋冬オートクチュールコレクションのために描きつつ、実現化されることのなかったコートです。キム・ジョーンズが見つけたこのスケッチを元に実際に仕上げてみると、究極のミニマルデザインだったことが分かります。フロント部分は肩の継ぎ目がなく、両側に袖のための切り込みを入れただけの一枚の布からできているため、まったくシワがよらない優れものでした。本コレクションでこのコートに施したのは、「プティ・テアトル」と題されたラフィアとガラスビーズの刺しゅう。マルク・ボアン(サンローラン退任後、1958年から1989年までクリスチャン・ディオールのデザイナー)のデザインに基づき、袖、裾、襟それぞれの端から始まり、服の中央に向かってフェイドアウトしていきます。

1958年のコートのメイクオーバーを紐解く。ビデオ© MELINDA TRIANA

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1958年のコートの再解釈。陶器パーツがフリンジのように揺れるクロシェハットはスティーヴン・ジョーンズがデザイン、南アフリカの職人が制作した。Photo: Courtesy of Dior

まったく新しいテクニックで開発されたスカーフ襟の工程を、職人が説明する。ビデオ:© Melinda Triana

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コットンポプリンに特殊加工で陶器の質感を出した、スカーフ風つけえり。Photo: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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