Spur.jpで先週公開された「PLAY」東京公演の紹介記事は、多くの人々の好奇心を掻き立てているはず。文字通り“遊ぶ”ことを自由に表現した振付家は、Alexander Ekman(アレクサンダー・エクマン)だ。舞台演出も手がけた彼の略歴や、東京公演の概要・インフォメーションは同記事か「PLAY」東京公演公式サイトに譲るとして、ここではその奇想天外な演目について、一部始終を紹介する。
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東京公演が決まった「PLAY」を、パリから徹底解説!
Spur.jpで先週公開された「PLAY」東京公演の紹介記事は、多くの人々の好奇心を掻き立てているはず。文字通り“遊ぶ”ことを自由に表現した振付家は、Alexander Ekman(アレクサンダー・エクマン)だ。舞台演出も手がけた彼の略歴や、東京公演の概要・インフォメーションは同記事か「PLAY」東京公演公式サイトに譲るとして、ここではその奇想天外な演目について、一部始終を紹介する。
3年前に「PLAY」をはじめて見た時の興奮を新たに
まずは個人的なエピソードから。オペラ座の定期会員として、私は毎年春に向こう1年間のプログラムとチケット先行販売のリンクを受け取り、複数の演目を選んで購入する。もちろん1年先の予定は未定だが、とにかく忙しそう、または旅に出そうな時期を避けて設定。演目のセレクト(どちらかというとコンテンポラリーダンス中心)にあたってはタイトル、振り付け家、衣装デザイナーのリストを参考にするが、知らない名前はいちいちネットでチェック。また、年に一度のガラ公演にラッキーにも招待されて振り付け家を知ることもある。パリ・オペラ座バレエ団のために創作された「PLAY」の初演は2017年だったときくが、当時はなぜかエクマンのことは私のレーダーから漏れていた。とは言えちょうど4年前、“子供向けみたいだけど何だかおもしろそう”と選んでおいたのがこの「PLAY」。2021年秋、公演の日が近づくと、緑のボールと白の風船の画像をSNSで頻繁に目にした。ソールドアウトになった「PLAY」のチケット入手ルートを懸命に探している人の例も、幾つか耳にした。こんな経緯を経て“私の選択は正しかったらしい”、と言う自己満足はあったが、演目のことはあまり知らずに私は公演の夜オペラ座に出向いた。
ところがその夜、漠然とした満足感は興奮と熱狂に変わった。それまでウィリアム・フォーサイスやベンジャミン・ミルピエはもちろん、シディ・ラルビ・シェルカウイやクリスタル・パイト、ウェイン・マクレガーなどの公演を定期的に見て、コンテンポラリーダンスには明るいと自負していた。でもこんなに楽しく、文字通りイマーシブでワクワクさせてくれるパフォーマンスはこれまで一度も見たことがなかったのだ。だから昨夏にパリ・パラリンピック開会式ではエクマンが演出・振付監督を務めるときいた時、会場(コンコルド広場)は我が家からすぐ近くなのにセレモニーのインビテーションを入手しなかったことを悔い、当日の夜はテレビに食いついた。フィリップ・ドゥクフレとジャン=ポール・グードによるフランス革命200周年記念パレードをテレビで見た時の気分の高揚を思い出した。
![東京公演が決まった「PLAY」を、パリかの画像_1](https://img-spur.hpplus.jp/article/parts/image/5e/5ebf99df-ce2a-4fed-85a3-bfe8460b6b3e-1334x2000.jpg)
アレクサンダー・エクマン Photo: ©️ Alexandre TABASTE
子供たちの遊びを象徴する「PLAY」第一部
それから3か月後、昨年12月の「PLAY」再公演がなんと待ち遠しかったことか!記憶を改め、その一部始終を振り返ってみよう。いそいそとオペラ座に出向き、早めに席に座ると緞帳の前ではグリーンのトップに白いパンツの男性ダンサーが一人で体をくねらせている。聞こえてくるのは、サクソフォンの音色。通常カーテンが開く前の音は(生演奏の場合に限り)オーケストラの音合わせのみだが。こんな“ティザー”的な展開は、一瞬一瞬を観客とシェアしようと言うエクマンのオープンな姿勢を示唆しているだろう。しばらくするとカーテンが開き、まずは舞台の設定に思わず驚きの声をあげる。ミュージシャン席はオーケストラボックスではなく、壇上、しかも一番高い位置にあったのだ。
子供たちの“遊び”を象徴する第一部の第一幕が始まると、ステージには大きな白の箱が。沈黙の中、箱の上でトウシューズを履いた女性ダンサーがポワントでステップを踏む。わざと大きな音を立てながら。もう一つの箱では、男性ダンサーがマイクをキューブの表面に叩きつけてモールス信号のような音を出している。二つの箱の間で音とステップが呼応を繰り返すうちに、照明はフェイドアウトした。
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第一部の第一幕。女性ダンサーのステップと男性がたてる音が呼応する。©️ Benoîte Fanton/OnP
そして第二幕。ドリーミーな曲が始まり、カップルが踊り出す。一方、それとは無関係に誇張されたボリュームのスカートをまとった男は、ゆっくりと前進。また、まるでヘルメット姿のダフトパンクのメンバーのように緑のボールを頭に被った男性は、四つん這いで床を這っている。そして”宇宙飛行士”は、無重力下のような動き。それぞれが、まるで他の登場人物の存在に気づいていないかのように個別に動いている風景が、なんともシュールだ。天井からは、無数のキューブが吊り下がっていた。
第三幕目では鹿の角のヘッドピースをつけた一人の女性ダンサーが踊り出す。続いて、ヌードカラーのブラトップにパンティと言う同じ衣装の女性ダンサーたちがポワントで行進。彼女たちの動きはどこか機械的で、音はパーカッションのみ。何やら儀式の様な演出には、かつてニジンスキーが率いたロシアバレエ団のアヴァンギャルドさが感じられた。
沈黙を挟んで四幕目では、バロック音楽に根ざした実験音楽とも言おうか、Mikael Karlsson(ミカエル・カールソン)によるピアノ曲が軽快な音を刻み出した。傘をさした女性の上に緑のボールの雨が降り始める。背後、まるで海水浴場の更衣室のごとく設置された複数のドアから出てきた男女のダンサーたちも舞台に参加、その一部はグループを成して練り歩く。また多数のボールに覆われた着ぐるみを纏って奇妙な動きをするダンサーがいるかと思えば、数人は波長を合わせつつモップでボールの津波を前方におし出す。やがてオーケストラボックスは緑で埋まり、ボールの海で溺れそうになりながら泳ぐダンサーたちの顔が見え隠れする。頭上からは箱の一連がゆっくりと降下し、箱がステージを埋めると閉幕した。
![東京公演が決まった「PLAY」を、パリかの画像_3](https://img-spur.hpplus.jp/article/parts/image/be/be4763f2-0d04-4a0b-a7e7-2141c440bf14-1200x800.jpg)
第一部の第四幕では、緑のボールの大雨が降る。©️ Benoîte Fanton/OnP
![東京公演が決まった「PLAY」を、パリかの画像_4](https://img-spur.hpplus.jp/article/parts/image/83/83f14975-197a-4a82-ac64-7d9c01907e96-1200x801.jpg)
第一部の最後のシーン。©️ Benoîte Fanton/OnP
大人たちの遊びへの渇望を表現した「PLAY」第二部
幕間の後、遊び方を忘れてしまった大人たちの“プレイ”への渇望を表現した第二部が始まると、ダンサーたちは黒とグレーをまとって登場した。エクマンとの共同でXavier Ronze(グザヴィエ・ロンズ)が手がけた衣装は、シャツ、ジャケットやコート、プリーツスカートと言ったユニフォーム風。壁に時計が描かれたステージには黒の折り畳み椅子が点在し、まるで駅の喫煙室のようなガラス張りのスペースもあり、オフィスをイメージさせる。比較的小さなステージでは男女のダンサーが踊っている。エキゾチックな音をバックに、詩の朗読が聴こえてくる。「生き残れと言われれば、私は生き残ります……」。
![東京公演が決まった「PLAY」を、パリかの画像_5](https://img-spur.hpplus.jp/article/parts/image/39/39abead8-30c3-44d7-bd3b-3181472f266c-1500x1001.jpg)
第二部では、大人たちが童心に帰って遊び方を模索する。©️ Benoîte Fanton/OnP
続くシーンでは同じコスチュームのダンサーたちが個別に、Tom Visser (トム・ヴィッサー)によるライティングで線状に照らされたキューブの周りでしっとりとした踊りを繰り広げる。今度はメロディアスな美しいピアノ曲に合わせて。音楽が木琴に移行していくと白のキューブの一連は上昇し、ダンサーたちは消えていく遊び場を惜しむようにして上を見上げる。そして、照明がおちた。
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第二部、最後のシーン。©️ Benoîte Fanton/OnP
ダンサーたちが敬礼をし、観客たちが惜しみなく拍手をして誰もがフィナーレだと思っていた矢先。驚いたことに黒のドレスにゴールドのシークエンスのマントーを纏ったゴスペルシンガー、Calesta "Callie" Day(カリスタ・"キャリー"・デイ)が登場して歌い始めた。伴うのはシンセサイザーのパーカッションとサクソフォン、そして何よりも、会場からの歓声。どこからか降ってきた白の大きな風船の数々にちょっとでも触れよう、または写真に撮ろうと、オーケストラ席もバルコニー席も、会場が一体となって”遊び”に耽る。オーケストラボックスのダンサーたちは会場に向かってボールを投げたり、デュオを組んで踊り出したり。この“興奮の渦”はしばらく止むことがなかった。
「自分が劇場に行くときは、驚きたい。だから自分でも驚かせるものを作りたかったんです」とは、オペラ座公式のビデオ・インタビューで語っているエクマンの言葉。「仏教では生きる理由は幸せにある、と信じられているそうです。プレイ=遊ぶとは、まさにハピネス。伝播していく波動なんです」。コンテンポラリーダンスとして表現された彼のこんな考えは、もうすぐ日本でもシェアできる。
「PLAY」 アレクサンダー・エクマン / パリ・オペラ座は 新国立劇場・オペラパレスにて、7月25~ 27日。
チケット:2月15日10:00~ 、キョードー東京にて 最速先着先行販売。2月25日10:00~ 各プレイガイド 先行販売、3月22日10:00~ 一般発売
![東京公演が決まった「PLAY」を、パリかの画像_7](https://img-spur.hpplus.jp/article/parts/image/c4/c4b9b7df-5ebc-4929-b77c-92678306e4cf-3000x1964.jpg)
フィナーレ。白の舞台、白のキューブに黒とグレーの衣装のダンサーたちが勢揃いし、エクマンのグラフィックな美意識が顕著。
![東京公演が決まった「PLAY」を、パリかの画像_8](https://img-spur.hpplus.jp/article/parts/image/42/425cd2fc-e1a4-4ac9-a7e7-264b1bc6112a-1125x1500.jpg)
シャガールのフレスコ画が見下ろす中、客席を舞うバルーン。
![ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像](https://img-spur.hpplus.jp/article/parts/image/44/44ebdf72-7de1-4c92-9600-43db39ed9f78-640x640.jpg)
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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