アントワープとウィーン。“アントワープの6人”とヘルムート・ラング。ウィーンに行ってみて、意外な関係性を発見。

2つの展覧会、「アントワープ6」と「ヘルムート・ラング」

アントワープとウィーン。“アントワープの6人”とヘルムート・ラング。ウィーンに行ってみて、意外な関係性を発見。

INDEX

“アントワープの6人”、学校からロンドン遠征まで

アントワープの名門アートスクール、王立芸術アカデミーのファッション部門を1982年に卒業した6人は、4年後に一緒にロンドンに行ってコレクションを発表し、”アントワープの6人”と呼ばれて脚光を浴びた。その40周年を機に、MoMuアントワープファッション美術館で始まったのが、「アントワープ6」展だ。6人とはドリス・ヴァン・ノッテン、アン・ドゥムルメステールをはじめ、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクダーク・ヴァン・セーヌ、ダーク・ビッケンバーグ、そしてマリーナ・イー。ロンドン遠征をオーガナイズしたのは、当時ドリスや地元のファッションイベントでアートディレクションをしていて、同年にセレクトショップ「ルイ」をオープンした、ヒールト・ブルルートだ。彼らとジュエリーでコラボレーションしていた、ウータース&ヘンドリックスのカトリン・ウータースとカレン・ヘンドリックスも同行。6人は作る服のタイプは違うものの、野心を共にし、結束してロンドンに向かったのだ。展示会では人通りが少ないエリアのブースを与えられ、初日は閑古鳥が鳴いた。しかしすぐに自分たちで作って配布したフライヤーが功を奏し、訪れるバイヤーやプレスの数は右肩上がりに。今でこそ5人は次第にそれぞれの道を歩んでいるが(マリーナは昨年病気で他界)、コミュニティ・パワーの草分けとして、ファッション史上「アントワープ6」の名前は揺るぎないものとなった。

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「アントワープ6」展の導入部に展示されている写真の一つ。ビートルズの「アビーロード」アルバムジャケット風に構成したカットでは左からアン、ダーク・ヴァン・セーヌ、マリーナ・イー、ドリス、ウォルター、ダーク・ビッケンバーグ。The Antwerp Six at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2026, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

「アントワープ6」展の見どころと、市内での関連展示

本展では彼らの足跡を貴重な写真、ビデオ、資料で時系列に見せるほか、世界で起こっていた出来事も併記。そして6人それぞれの代表作のコーナーは、各自が違う方法のインスタレーションに仕立てた。また最後のパートでは、6人のショーのインビテーションの総括がみられる。2日間にわたって開かれたオープニングには“アントワープの6人”のデザイナーたちのほか、彼らより若い世代のアントワープ・ファッションの顔であるピーター・ミュリエやラフ・シモンズら、そして世界中からプレスや関係者たちが詰めかけ、大変な人出となった。またマリーナ・イーへのオマージュとして、時期を同じくして市内のアートギャラリーが彼女の展覧会の幕を開けたほか、アントワープ6と同じく40周年を迎えた「ルイ」も、マリーナの絵と服をウィンドウに。そしてウータース&ヘンドリックスの旗艦店では、アーカイブズからのコラボレーション・ピースが展示された。

「The Antwerp 6」展は2027年1月17日まで
MoMu-Fashion Museum Antwerp
Nationalstraat 28 2000 Antwerpen, Belgium

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ダーク・ヴァン・セーヌのインスタレーションは、かつてロンドンで開いたショーをユーモラスに再現。Dirk Van Saene in The Antwerp Six at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2026, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

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ビデオとルックで構成した、ドリス ヴァン ノッテンのインスタレーション。Dries Van Noten in The Antwerp Six at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2026, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

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アン ドゥムルメステールのインスタレーションは、オールブラック。Ann Demeulemeester in The Antwerp Six at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2026, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

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ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクのインスタレーションは、デザイナーの顔写真をはめ込んだスクリーンで、本人が絶えずしゃべっているように見える設定。Walter Van Beirendonck in The Antwerp Six at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2026, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

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マリーナ・イーのインスタレーションでは、彼女のスタジオを再現。Marina Yee in The Antwerp Six at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2026, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

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ショーのインビテーションのコーナーより、ダーク・ヴァン・セーヌのウィンドウ。Dirk Van Saene invitations in The Antwerp Six at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2026, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

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マリーナ・イーの展覧会は、ギャラリー・ソフィー・ヴァン・ドゥ・ヴェルデにて、5月10日まで。服と共に絵、コラージュ、メモ帳などを展示。

Gallery Sofie Van de Velde Léon Stynenstraat 21 2000 Antwerpen, Belgium Photo: Courtesy of Ga;;ery Sofie Van de Velde

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マリーナ・イーは絵画やデッサン、コラージュなどの作品も多く遺した。Marina Yee, Untitled Photo: Courtesy of Gallery Sofie Van de Velde

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ウータース&ヘンドリックスの、“アントワープの6人”とのコラボレーション・ジュエリー。Wouters & Hendrix Photo: Courtesy of Wouters & Hendrix   Steenhouwersvest 52   2000 Antwerpen, Belgium

あの時代の興奮を、再び。「ヘルムート・ラング」展

「アントワープ6」の興奮も冷めやらない4月半ば、今度はヘルムート・ラングの展覧会を見に、ウィーンへ。この街に生まれ育ち、1977年から1984年までは地元でプレタポルテと共に注文服を作っていたラング。彼がパリでコレクションを発表するようになったのは1986年のこと。“アントワープの6人”のロンドン遠征と同じ年だ。ミニマルかつラディカルな彼の服作りは、ファッションにおける新しい時代の到来を示唆した。2年後には本展のタイトルにもなっているコンセプトSéance De Travail (ワークインプログレス、の意)で、従来のショーの常識を覆し、ランウェイと客席を同じ高さに設え、メンズとウィメンズを交錯。オーストリアのデュオ、クルーダー&ドーフマイスターによるエレクトロニカサウンドにのって、モデルが時にはソロで、時には3、4人のグループで淡々と歩くショーは、彼のシグネチャーとなった。その後もプレタポルテに加えてアクセサリー、ジーンズ、アンダーウェアと派生したコレクション、そして広告ビジュアルも、コンセプチュアルなアプローチで展開。まだデザイナーは服作りに専念していた時代に、今で言うア―ティスティック・ディレクター的なポジションを築いて行った。中でも人々の記憶に深く刻まれているのは、1997年にニューヨークに拠点を移した機に始めたタクシー車両屋根の広告と、現代アーティストのジェニー・ホルツァーとのコラボレーション、そして自身の服と同じくミニマルなフレグランスのラインなど。

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ニューヨークの動く広告塔、タクシーの屋根に配された広告。Helmut Lang, New York City Taxi Top, advertising, 1998–2004. MAK Helmut Lang Archive, LNI 649. Photo: MAK/Christian Mendez

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展示より、フレグランスのボトルとパッケージ。2025 / Chapter Media & Cultural Presence
HELMUT LANG. SÉANCE DE TRAVAIL 1986–2005 / Excerpts from the MAK Helmut Lang Archive MAK Exhibition Hall © kunst-dokumentation.com/MAK 

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水しぶきだけで表現した、フレグランスの広告ビジュアル。Helmut Lang, Helmut Lang Parfums supplement from The New York Timesnewspaper, photography by Larry Larimer (2001). MAK Helmut Lang Archive, LNI 572-2-3. Courtesy of hl-art.

本展はヘルムート・ラングからMAK(ウイーン応用美術館)に寄贈されたアーカイブズを一堂に集めて、彼の唯一無二のアイデンティティを浮き彫りにする演出だ。まずはタクシーの広告実物。そして写真と資料で構成した、パリ、ニューヨーク、ミュンヘン3店舗の紹介。次の広大な部屋では、ショーの動画を映し出す巨大なスクリーンと共に、ゲストたちの名前を記したショー会場が再現されている。そしてアクセサリーの数々をまるで標本のようにウィンドウに収めた部屋、雑誌の掲載ページ一連、アーティストとのコラボレーションを収めたビジュアル、バックステージでのポラロイドやビデオ、フレグランスのボトルと関連ビジュアル、と続く。無数のスクリーンが並ぶビデオルームでは、ヘルムート・ラング本人がウィーンの街案内をする日本のテレビ番組も見られる。彼がアートに専念するべく自身のブランドを去った5年後の2010年にはニューヨークの倉庫が火事に見舞われ、過去のコレクションの多くは灰となってしまったため、服自体は少ない。しかしモノクロームでまとめたミニマルかつ迫力のある会場構成のおかげで、彼の世界観はむしろ明確に語られているかもしれない。

Helmut Lang  Séance De Travail1986-2005/ Excerpts from MAK Helmut Lang Archives 展は5 月3日まで。
Museum of Applied Arts
Stubenring 5 1010 Wien, Austria

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ユルゲン・テラーが撮影した、バックステージでのカーステン・オーウェン。Helmut Lang Collection Hommes Femmes Seance De Travail Defile # Hiver 97/98, Paris Photographer: Juergen Teller, Paris, 1997 Courtesy of hl-art

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展示のうち“アイデンティティ”のチャプターより、ニューヨークの壁広告とタクシー広告の実物。HELMUT LANG. SÉANCE DE TRAVAIL 1986–2005 / Excerpts from the MAK Helmut Lang Archive MAK Exhibition Hall © kunst-dokumentation.com/MAK 

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展示のうちSéance de Travailのチャプターより、再現されたショー会場。HELMUT LANG. SÉANCE DE TRAVAIL 1986–2005 / Excerpts from the MAK Helmut Lang Archive MAK Exhibition Hall © kunst-dokumentation.com/MAK 

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展示より、アンダーウエアやアクセサリーのコーナー。HELMUT LANG. SÉANCE DE TRAVAIL 1986–2005 / Excerpts from the MAK Helmut Lang Archive MAK Exhibition Hall © kunst-dokumentation.com/MAK 

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展示のうち”バックステージ”のコーナーより。HELMUT LANG. SÉANCE DE TRAVAIL 1986–2005 / Excerpts from the MAK Helmut Lang Archive
Helmut Lang, Astro Biker Jacket, New York, 1998  MAK Exhibition Hall © kunst-dokumentation.com/MAK 

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展示のうち”バックステージ”のコーナーより。HELMUT LANG. SÉANCE DE TRAVAIL 1986–2005 / Excerpts from the MAK Helmut Lang Archive
MAK Exhibition Hall © kunst-dokumentation.com/MAK 

コンセプトストアで、アントワープとウィーンの繋がりを発見。

アート関係者が薦めていたことからウィーンで寄ってみたコンセプトストア、ソンでは、驚くべきことに、アントワープを再発見。お目当てはマリーナ・イー(彼女の生前のコラボレーター、ラファエル・アドリアンセンにより、現在もブランドは続行)だったが、同じラックにはなんとヴェロニク・ブランキーノやA.F.ヴァンデヴォーストのアーカイブ・ピースが並んでいた。そしてアートにもあふれた店内で目についたのは、ジェームズ・リーヴが夜景を抽象的に捉えた写真だ。彼とのコラボレーションによるドリス ヴァン ノッテンのトップ(2012年春夏コレクションより)を持っているので、すぐに彼の作品だとわかった。当時、ギャラリースペースもあった同店ではこのシリーズの写真展と共に、ドリス本人を迎えてのコレクション・プレゼンテーションを催したそう。そして偶然にも予定されていたのは、ダーク・ヴァンセーヌのイベント。ブランドをクローズしてセラミックアーティストとなった彼は、自身が描いたユーモラスな絵をプリントした一点もののドレスの一連やプレタポルテのアーカイブズを持って、この日アントワープからやって来たのだ。ウィーンにいながらアントワープの“あの頃”に触れられるとは、なんとも感慨深い。80年代半ばに花開いた”アントワープの6人”から、90年代後半にモード界に君臨したヘルムート・ラングへと思いを馳せると、時代の流れが見えたきた。

Song

Pratarstrasse 11-13
1020 Wien, Austria

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ダーク・ヴァン・セーヌのインスタレーション。Photo: Minako Norimatsu

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ドリス ヴァン ノッテンをインスパイアしたジェームズ・リーヴの写真と、中国の若手アーティストによる紙の観葉植物 Photo: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/