新社会人前夜の思い出

1年の最後といえば大晦日ですが、毎年ダラダラしてしまって、なんだかシャキッとした気持ちにはなれませんね。だいたい正月休み中だし、元旦っていっても食べて飲んで寝てるだけだし、明日から1年間がんばるぞーって気にはまったくなれない。その点では3月31日の方が、気持ちが引き締まるような気がします。手帳だって、4月始まりがメジャーだし(最近はみんなスマホだからそんなの関係ないか)。会社勤めをしていると、フレッシュな新入社員だって入ってくるし。

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毎年この日になると、自分の入社日前日のことを思い出します。地元を離れるのが名残惜しくて、住む場所こそ整っていましたが、入社式の直前までなかなか身を移すことができませんでした。
とうとう迎えた331日の夜。ああ、明日からは社会人1年目のシタッパになるんだな。毎朝決まった時間にちゃんと起きて、誰よりも早く出社して。自由気ままな学生生活とはまったく違う景色が待ち受けているんだな……。
不安、希望、緊張、哀愁、熱意。狭苦しい部屋に寝そべりながら仰ぐ、まだ全然見慣れない真っ白な天井のキャンバスには、色とりどりの我が感情の渦がグルグルと複雑に混じり合って、やがて灰色になり、暗闇に溶け込んでいったのでした。

そんな懐かしい気持ちに浸りながらも、今となってはすっかり中堅となったワタクシ。あの時のすべてがマッサラだった頃とは、立場も環境も、そして身につけるものも、ずいぶんと変わりました。それでもたったひとつ、いやふたつだけ、当時と変わらず今でも肌身離さず持ち歩いているものがあります。それが、このACMEのカードケースとキーリング。

引っ越しを手伝いにきてくれた母が、新社会人のお祝いにプレゼントしてくれたものです。カラフルでポップな四葉のクローバーが並ぶテキスタイルパターンは、ハーマンミラー社のテキスタイル部門のディレクターとして活躍した、アレキサンダー・ジラルドの代表的デザイン「クワトロフォイル」。
「あんた、こういうカラフルなん好きやろ?」 荷解きを終えた後、母はそう言って、帰り際に突然渡してくれました。あれ以来、ずっと使い続けています。30代の中年の域に突入した今、自分にはいささか可愛い過ぎる気がして、名刺交換の時に小っ恥ずかしく思うこともあります。しかも名刺は10枚程度しか入らないので、外出時はこれだけだと心もとなく、常に財布に何枚か忍ばせているのも事実です。でも、これだけは変えられないんですよね。

スチール製のカードケースは裏の鏡面が傷だらけですし、キーリングは気づかないうちにワイヤー部分のキャップがなくなってしまいましたが、これらを持ち運ぶ鞄だけは年々変わっていきます。初めは地味な黒のリクルートバッグだったのが、いつしかセリーヌの黒いカバにまで成り上がりました。我ながらすさまじい進歩です。はたして肝心の自分自身は、ここまで成長できているのだろうか。はなはだ疑問ではありますが、明日からまた、いつもよりちょっとだけ新しい気持ちで、仕事に励む所存です。

“エディターHAYASHI”

エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと長いベースソロが好物。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

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