人生で誰かの心をケアする局面が現れたら 雨の日の心理学/KADOKAWA ¥1600+税 とても良い本に出合いました。臨床心理士の東畑開人さんの新著『雨の日の心理学』。雨の日とは、簡単に言うと心の調子が悪いとき。晴れの日は反対に調子がいいときを表します。この本は、パートナーや親子、友人など、身近なだれかの心に雨が降っていることに気づいたとき、そっと傘を差し出せるようにという願いをこめて書かれています。その「傘」とは、心理学の知識。とはいっても本来は複雑であろうこの知識が、びっくりするくらい誰にでもわかりやすく、面白く、かみ砕いて書かれているのがすごいところ。私は1日でいっきに読んでしまいました。人は人とかかわって生きているので、人生では大切な誰かの心のケアをしたくなる(しなければならない)局面が訪れますよね。パートナーが仕事から帰ってきて悲しそうなとき、子供が「学校に行きたくない」と言ってきたとき、友人から「今ちょっとうつっぽくて会えない」と言われたとき、職場の同僚が暗い顔をしていて心配なとき……。そんな瞬間にどういう言葉を返したらいいだろうと悩むこと、ありませんか? 私の人生にも幾度となく訪れました。おせっかいなアドバイスをしてしまったり、聞くだけで何もできなかったという無力感を感じたり。 悩みを聞く技術と、おせっかいの技術 素敵な装丁 この本はそんな「こころのケア」に役立つ技術がたくさん詰まっています。たとえば、話を聞く際には何時から何時までという時間をあらかじめ決めておくこと、相手に話をする場所は決めてもらうこと、そしてこれは面白いなぁと思ったのですが、対面ではなく並んで座ること。ほかにも相槌の方法や、勇気を出して「その話、もうちょっと詳しく教えて」と踏み込んでみること、そしてその日にすべてを聞き出そうとせず、「また話そう」と未来への約束をしておくことなど、やさしさに満ちたティップスが理由とともに詳らかに書かれています。 きく技術だけでなく「おせっかいの技術」という項目も面白かったです。相手が弱っているときに、どの程度相手に関わっていくか。たとえば「からだの心配をする」や「関係者を増やす」というのは、自分がいざ相談をされる立場で視野が狭くなっていると、思いつかないアドバイスだなぁと思いました。 また、一つこれは知っていると知らないでは大違いだなと思ったのが、相手が心を開かずひきこもってしまったとき。「孤独は連鎖していく」とこの本は言います。心のシャッターを閉ざされると、ケアをしているこちら側もつらいもの。ただそんなときは「今は相手はつながりを断ち切ろうしている時期なんだ」と理解しておくことで、こちらも孤独を乗り越えることができるとのこと。そうすることで相手がまた「つながりたい」と思える瞬間を、じっくり待つことができます。これはケアをする側としてぜひ知っておきたいことだなと思いました。そして相手の心をわかろうとあきらめないことは大切だけれど、と同時に「わからない状態がデフォルト」だと知ることも重要と書かれています。そんなにいきなり晴れることはなかなかないと覚悟しておく。これも、心のケアをする上で非常に支えになる心構えだなぁと思いました。 自分の心のケアにも 東畑開人 「雨の日の心理学」 何よりこの本のすごいところは、誰かをケアするためだけではなく、自分の心が弱いときにも効果を発揮するということ。もし私が自分の友人として私自身をケアするなら、という目線で読めば、客観的な視点で冷静に悩みを分析し、自分を抱きしめてあげることができます。もちろん、素人にできることには限界があるので、無理せずカウンセラーを頼ることも重要です。今月のSPURでも「ひとりで悩まないで! 頼ろう『心の専門家』」という特集を組んでおり、カウンセリング体験記を掲載しているので、ぜひあわせてチェックしてみてくださいね。 Dear EARTH 未来へつなぐSDGs 誰ひとり取り残さない。読書バリアフリーを推進する、【オーテピア高知声と点字の図書館】へ - SDGs | SPUR ワタシつづけるSPUR 【カウンセリング体験談】ひとりで悩まないで! 頼ろう「心の専門家」 - ワタシつづけるSPUR | SPUR エディターITAGAKI ファッション、ビューティ担当。音楽担当になったので耳を鍛えてます。好きなものは、色石、茄子、牧歌的な風景。 記事一覧を見る