真夏の食卓は【ガザ・キッチン】【ウンム・アーザルのキッチン】で覚えた家庭料理のレシピで

この夏、2冊の本に出会いました。

1冊めは、『ウンム・アーザルのキッチン』文/菅瀬晶子・絵/平沢朋子(福音館書店)

もう1冊は、『ガザ・キッチン パレスチナ料理を巡る旅』著/ライラー・エル=ハッダードとマギー・シュミット・翻訳監修/藤井光・監修/岡真理(オレンジページ)

どちらも、現在、戦火に蹂躙されている土地の料理について書かれています。読んでいて心打たれ、様々な想いがあふれる本なのですが、同時に、書いてあるレシピを作ってみると、どれも本当に美味しくて爽やか。それがまた胸に沁みるのです。夏の食卓を彩る一皿を、ご紹介させてください。

ハイファの街とガザ地区で暮らすアラブ人たちが伝える、ふるさとの味

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(右)『ガザ・キッチン』¥4950 (左)たくさんのふしぎ|2024年6月号『ウンム・アーザルのキッチン』¥890

『ウンム・アーザルのキッチン』の主人公ウンム・アーザル(アーザルのお母さん)は、イスラエルのハイファに住むアラブ人でキリスト教徒の女性です。作者の菅瀬晶子さん(パレスチナ研究者)が2000〜10年代に彼女と交流し、彼女が働いている修道院や家族のためにつくる料理と生活について書き、30ページほどのあたたかい「絵本」にしました。科学雑誌、たくさんのふしぎ|2024年6月号として刊行されています。

『ガザ・キッチン』は、2010年代のパレスチナ・ガザ地区に住む人々から聞いた家庭料理についての本。語り手は家庭の女性たち、農家、漁師、市場や菓子工房で働く人々。スパイス、だし汁、食材の話から、料理レシピに至っては100種以上を掲載。そしてなんといっても人々の顔、市場の風景、食材や料理の写真が美しい1冊です。330ページに及ぶフルカラーの大著で、2016年『The Gaza Kitchen』として出版され、世界的ベストセラーに。

ミントの香る「サラタ・ハドラー・マフルーマ」と「スイカと白チーズ」を我流アレンジで

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刻んだ野菜とハーブを混ぜて、にんにくペーストを入れ、さらに混ぜます。工程はほぼ、切って混ぜるだけ。

早速、リピートしているレシピを『ガザ・キッチン』から。「サラタ・ハドラー・マフルーマ 刻み野菜のグリーンサラダ」。ミントとにんにく、青唐辛子の風味が実に清涼なサラダです。

材料は
トマト、きゅうり、青ねぎ、黄色とオレンジのパプリカ、青唐辛子、紫キャベツ、ミントの葉、パセリ

ドレッシングは
にんにくペースト(にんにく1かけと塩小さじ1/4をすり合わせ、レモンの皮のみじん切りを入れたもの)それにレモン汁、オリーブオイル、塩と粗びき黒こしょう

レシピは簡単。野菜をすべて1〜1.5cm角に切り、粗みじんにしたミントとパセリと一緒にボウルに入れる。そして、にんにくペーストと一緒に混ぜ合わせ、最後にレモン汁、オリーブオイル、黒胡椒をまわしかけて、完成。

紫キャベツだけなかった(嘘、あったけど高かった)のですが、それ以外は近所で買える夏野菜たち。青ネギとパセリは刻んでおいた冷凍品を使い、にんにくは楽してチューブにんにくを使ってしまいました。本当はトマトは青くて硬いほうがよいそうです。そんな我流レシピでも、べっくらうまい! ミントとパセリとにんにくレモンってこんなに合うのか……食欲がない時がない、という自分なので説得力はないが、夏バテして食欲のない方でもペロリかと思われます。

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『ウンム・アーザルのキッチン』からご紹介するのは、もっと簡単。ずばりスイカです。暑い夏の日の夕方、ウンム・アーザルが筆者の菅瀬さんと一緒に裏庭で涼む場面で出てきたもの。アラブ人は白チーズとスイカを一緒に食べるのが好きで、ウンム・アーザルは4人の子どもを育てる間「こればっかり」だったそうです。その理由は本を読んでいただきたいのですが、普遍的な"お母さんの心"に触れてほろりとします。

私は東京で、三浦産のスイカをホワイトチーズのオリーブ漬とともに。「おいしいでしょ? 甘くてさっぱりしたスイカに、ミルクの味が濃くてしょっぱいチーズは、よく合うもの」とウンム・アーザル。その通りですね。夏の昼下がりにぴったりです。体の中をみずみずしい風が通り抜けてゆくようです。

 

 

料理をつくり食べることで実感する、彼の地で失われた日常と、私たちのこと

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2冊の本は、淡々と料理にまつわる一人一人の「普通の暮らし」を映し出します。穏やかに、毎日のごはんをつくり、食べる。たったそれだけの日常に、たくさんの色が、表情が、生があふれています。そこに書かれたレシピをなぞり、試行錯誤しながらつくり食べるのは、旅をすることにも似ています。そして、こと食べる行為に関しては、世界のどこでも、どの国であろうと変わらない。遠くの地に住む人、遠い土地から来た人と自分をつなぐ確かな共通点です。


日差しが強く乾燥した彼の地の料理は、火を使わず、すぐできて、おいしい。野菜の水分と塩気とオリーブ油、そしてハーブの使い方に、体を癒し力を得るための知恵が感じられ、実に理にかなっている。料理はとても身近な科学実験でもあるなあと思います。


そして味わうたび、悲しく悔しく、強い拒否感を抱くのは、今、ガザとハイファで行われている虐殺と破壊のことです。日々の食べ物を奪い、普通の暮らしをする人々の命を奪うことに私は強く反対します。そしてその根底にある、人を分け隔てる差別思想、科学と歴史的事実を否定する心にも私は強く反対します。世界中の誰もがどこにいても、安心してごはんを食べられる日常をこそ、支持します。投票の前には、このメニューをもりもり食べて水分補給して、よくよく考えて出かけようと思っています。

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エディターKUBOTA

幾星霜をこえて編集部に出戻ってまいりました。活字を読むこと、脂と塩気、2匹の保護猫、平和と雑談を愛します。

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