【山崎まどか】『ブラック・スワンズ』と、おととい書店で買った6冊の本

大寒波が到来し、世のニュースはうんざりすることや途方にくれることばかり。こういうときは雨宿りをするように書店を訪れます。目があった一冊、好きなひとの新刊、惹かれるタイトル、美しい装丁……。そんな感じで選んで、6冊の本をレジに差し出しました。

積読エディターが2月頭に買った本(未読です)

東京堂書店 紙の本 文芸書
それにしても本って安いですよね。これだけ買って合計¥16,830。電源もいらないし服よりずっと長持ちするのに!

神保町にある東京堂書店は、¥15,000以上のお買い上げで無料配送してくれるサービスがあり助かります。帰り道に読むため一冊だけ抜き出して、お会計をして1日半後に、我が家に小包が届きました。

今日ご紹介するのは、そういうわけでまだ読んでいない本です。ブックレビューではなくお買い物報告。文中の著者名、みなさん大好きな方々なのですが、敬意をもってすべて敬称略です。

必読の短編集、『ブラック・スワンズ』

山﨑まどか イヴ・バビッツ 短編集 アメリカ文学
『ブラック・スワンズ』イヴ・バビッツ著 山崎まどか訳 ¥2,800/左右社

SPURでもおなじみ我らが山崎まどか、待望の新訳! 我が家の書棚で「女子校」と呼んでいるコーナーに置いてみました。サリー・ルーニー、ぐいぐい読んだなあ……ミランダ・ジュライ先輩も睨みを聞かせています。レナ・ダナムはおでかけ中。

ある時代、ある街で、輝いていた(り濁ったり曇ったりする)女たちの回想録が大好きなのですが、この短編集はズバリの予感。常盤新平の洗練を思わせる、乾いた文体も心地いいのです。あとがきに触れられていた著者イヴ・バビッツの晩年の様子に、ああ、そうなのか……と思うことありつつ。週末はまず、彼女の書く世界に没頭したいと思います。

そうそう、ブラック・スワンズのスワンといえば、SPUR2024年5月号の「東京のスワンたち」もすぐさま連想されました。担当スタッフたちにエピソードを聞きながら、読書会もしたくなる1冊ですね。

AIと韓国文学のことを、頼れる人の言葉で

円城塔 読売文学賞 小説 斎藤真理子 韓国文学 評論 単行本
(右)『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』円城塔著 ¥2,000/文藝春秋 (左)『補新版 韓国文学の中心にあるもの』斎藤真理子著 ¥1,800/イースト・プレス

こちらの2冊は、今自分が知りたいことにアクセスしたくて買った近刊本。

(右)『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』円城塔著

読売文学賞を受賞した話題作『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』を遅まきながら手に取りました。もう4刷になっている! 個人的に「サイエンスのことは円城塔の物語で食べるのがいちばん」と思っている(そして社会のことは桐野夏生だと思っている)ので、読み逃してはなりません。ちなみに「勉強のため」に読むつもりはなく、物語世界に入り込みたい! だがその時間はあるのか自分!

(左)『補新版 韓国文学の中心にあるもの』斎藤真理子著 

斎藤真理子、おそるべき仕事量! と数年前に驚愕した覚えがあります。ハン・ガン、パク・ミンギュら、韓国の現代文学はほぼこの人の訳を通じて出会いました。光州事件、セウォル号など、韓国の現代史と文学の関係性についての目次にわくわく。読後は読みたい本が増えていそうです。

尊くて、ずっと私に必要な荒川洋治の文章

荒川洋治 エッセイ 随筆
(右)『ぼくの文章読本』荒川洋治 著 ¥2,475/河出書房新社 (左)『過去を持つ人』荒川洋治 著 ¥2,700/河出書房新社

ここからは、新しく買った本と、その本を買うきっかけになったうちの本とのユニットでご紹介します。

(右)『ぼくの文章読本』2024年刊・(左)『過去を持つ人』2016年刊

水を飲むように読んでいたい文章の書き手、現代詩作家の荒川洋治。本を読むのに私は「学び」も「気づき」も全くいらないノーサンキューと思っているのですが、まさに、な本。なにも書かれていないところが得難く素晴らしいのです。筆者がただただ書く言葉をただただ読む悦びに満ちている。いなくなってしまうと水源を失うことになるので、どうか書き続けてと祈っています。新刊の帯にはSPURの連載陣、武田砂鉄の言葉も。「ずっと尊い」に激しく頷きました。ちなみに左の『過去を持つ人』には、2013年、SPURで「クローズアップ現代詩」という特集を組んだ時に書き下ろしていただいた素晴らしい一文が収められています。

いとうせいこうVS古典芸能。面白くないわけがなく

いとうせいこう 能 現代語訳 文芸書
(右)『能十番―新しい能の読み方―』 いとうせいこう、ジェイ・ルービン著 ¥3,685/新潮社  (左)『能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 』岡田利規、伊藤比呂美、いとうせいこう、桜庭一樹、三浦しをん、いしいしんじ、松井今朝子 訳 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10)¥3,850/河出書房新社

(右)『能十番―新しい能の読み方―』2024年刊・(左)『能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 』池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10 2016年刊

これね、左の「日本文学全集10」のラインナップを見てください。私は当時叫びましたよ、「フェスか!」と。能・狂言、説経節、浄瑠璃の名作をこのメンバーで現代語訳。文才の渋滞。ぎゅうぎゅうに組んであるから読みづら! 面白! 読みづら! と思ったものです。この本のいとうせいこう訳「曽根崎心中」は、ラップMC門左衛門(あとがきより)みたいな「序」が素晴らしかった! そして長年「謡」を習ってきたという作者が、今度は能へ。新刊『能十番―新しい能の読み方―』 は、なんと全頁袋綴じという豪華美装本! ジェイ・ルービンの英訳と、原文と、巻末には柴田元幸との鼎談なども掲載。「日本文学全集10」では演劇人の岡田利規が訳していた「邯鄲」の読み比べなんかも楽しそうです。

私を小泉八雲オタにさせた論考。朝ドラスタートまでに再読

【山崎まどか】『ブラック・スワンズ』と、の画像_6
(右) 『ラフカディオ・ハーンの耳、語る女たち――声のざわめき』 西成彦著 ¥2,700/洛北出版  (左)『ラフカディオ・ハーンの耳』 西成彦著 ¥2,500/岩波書店(絶版)

(右)『ラフカディオ・ハーンの耳、語る女たち――声のざわめき』 2024年刊・(左)『ラフカディオ・ハーンの耳』 1993年刊

ラフカディオ・ハーン、小泉八雲は、今年9月からのNHK連続テレビ小説『ばけばけ』で取り上げられる人物です。実は私、数十年来の八雲オタ。その最初期に読んでハマったのが左の初版『ラフカディオ・ハーンの耳』。ギリシア人の母とアイルランド軍人の父のもとに生まれ、10代で片目を失明。ニューオリンズ、マルティニーク、そして松江へと漂泊したこの作家は、妻セツの語る「雪おんな」「耳なし芳一」を聞いて「怪談 KWAIDAN」にまとめます。彼にとって、耳から入る音、物語とは。ゴンブローヴィッチの翻訳も手がけてきた西成彦による論考の増補新版が、嘘でしょ31年ぶりに刊行! 

以上が積読者(つんどくもの)の買い物報告。読み切れるのかはいささか不明ですが、本が家に増える幸福感は何物にも代えがたく、すでにしてたっぷり得ているのです。

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エディターKUBOTA

幾星霜をこえて編集部に出戻ってまいりました。活字を読むこと、脂と塩気、2匹の保護猫、平和と雑談を愛します。

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