【カッシーナ】LC14タブレ スツール。ル・コルビュジエがデザインした「箱馬」

ル・コルビュジエがデザインしたLC 14 タブレ スツール。ただの木箱のように見えるが、ただものじゃなく使いやすい。昨年の自分の誕生日に購入して以来、私はこれを「コルビュジエの箱馬」と呼んで家の中で独占しています。おりしも、パナソニック汐留美術館で『ル・コルビュジエ──諸芸術の綜合 1930-1965』という展覧会が開催中。今回は、この家具にも道具にもアートにもなる箱馬についての愛をくどくどと語りたいと思います。

近代建築の巨匠がデザインした、シンプルすぎるほどの木箱

カッシーナ ル・コルビュジエ LC14 タブレスツール  インテリア オーク
LC14 Tabouret Maison du Bresil, Paris 1959 by Le Corbusier 。2025年1月現在、カッシーナでの販売価格は¥165,000。

近代建築の巨匠、ル・コルビュジエ。国立西洋美術館、サヴォア邸など名だたる名建築が代表作ですが、家具デザインも多く手がけました。スリングチェアやグランコンフォール ソファ、MOMA所蔵品になった寝椅子LC4シェーズロングもよく知られています。

彼のデザインしたミニマムな直方体の木製スツールが、LC 14  TABOURET(タブレ)。日本では「タブレ スツール」と呼ばれています。チェスナット材とオーク材を用い、角の部分をダヴテール(蟻ほぞ継ぎ)という手法で組んだすべらかな箱。持ち運びやすいように2面に取手の穴をあけただけの無駄のないフォルムが特徴です。

かたや箱馬=ハコウマ。聞き慣れない方も多いかもしれません。直方体の木箱のようなもので、撮影スタジオや舞台で使われています。何個か組み合わせてステージの土台に、大道具の支えや踏み台代わりに。なんならちょっと腰掛けてひと休みすることもある。6寸×1尺×1尺7寸(約18×30×51cm)くらいのサイズが多く、縦でも横でも天地無用。

20世紀を代表する建築家であり芸術家の創造したタブレ スツールと、仕事で身近に触れていた無骨な実用品である箱馬の共通点は何か。それは「削ぎ落とされたシンプルさと、それゆえの自由さ」ではないかと思います。あまりにも単純な形状をしているがゆえに、台にも、椅子にも、テーブルにもなる。オブジェとしても道具としても使いやすいのです。

 

座ったり物を置いたり踏み台にしたり。転がしておいても絵になる

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横置きのタブレ スツールを踏み台にして、脚立に上った我が家のモジャ猫。

タブレ スツールは現在、3つのモデルがカッシーナからリプロダクトされています。1952年、晩年のル・コルビュジエが妻への誕生日プレゼントとして「カバノン(休暇小屋)」用にデザインした「タブレ カバノン」。1955年、ナント・ルゼのユニテ・ダビタシオンの子供部屋に合わせてデザインした「タブレ ナント・ルゼ」。そして私が購入した「タブレ メゾン ドゥ ブラゼル(MAISON DU BRÉSIL)」。こちらは1959年、パリにあるブラジル学生会館のためにデザインされました。

各スツールの寸法には、ル・コルビュジエが人体の寸法と黄金比から作った建造物の基準寸法の数列「モデュロール」が用いられています。「タブレ メゾン ドゥ ブラゼル」のサイズは、33× 250×43cm。これがまた、歌舞伎や落語など伝統芸能の現場でも使われている箱馬の、尺貫法を用いた寸法のバランスと似ているんですよね。ヨーロッパでも日本でも、人にとって使い勝手のいい黄金比率というのはやはり似通ってくるものなのかなあ、と感じます。

写真のように横置きにすると、サイドテーブルや腰掛けにちょうどいい。私は平置きにして座ることも多いです。そうすると低座椅子のような塩梅になって、床やソファに座るのとも違うリラックスした心地良さがあります。縦に置くと高さが出て、打楽器の「カホン」のよう。スツールにも、ミニテーブルにも、ディスプレイにも使えます。それにしても、どこから見ても絵になる姿のよさは格別。木目の流れが美しく、フォルムが洗練されていて、転がしておいて眺めるだけでなんだか目が気持ちいい。家の中の調度品として、非常に良くできていると感心してしまいます。

ル・コルビュジエの絵画作品に注目した展覧会が開催中!

カッシーナ ル・コルビュジエ LC14 タブレスツール インテリア  美術館 
縦に置いて、小さなサイドテーブルとしても使えます。角のダヴテールが視覚的なアクセントに。

自分の家に「タブレ スツール」を迎えることは10年以上昔からの念願だったのですが、唯一の後悔は「なんでもっと早く買わなかったんだ」。おそらく現在販売されているル・コルビュジエの家具としては最もシンプルで、最も求めやすい価格のものではないでしょうか(数年間迷っているうちに価格もどんどん高騰してゆきました……)。できれば「タブレ カバノン」も購入して組み合わせても使いたい! 愛着は深まるばかりです。

そしてまた、ル・コルビュジエは革新的なアーティストでもありました。建築や家具だけでなく、ピュリスムを提唱し絵や彫刻など視覚芸術の分野でも多くの作品を残しています。彼が活動後期に手がけた絵画芸術に注目した展覧会がパナソニック汐留美術館で開催中。展覧会では、「居住空間のなかに置かれた諸芸術の綜合」をイメージして会場を構成しているのだそう。ずうずうしくも、彼の作品の「オーナー」を気取って、私も足を運ぼうと思っています。

   

パナソニック汐留美術館

ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965

住所:東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4F

会期:3月23日まで
開館時間:10:00~18:00(2月7日、3月7日、14日、21日、22日〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:水(ただし3月19日は開館) 
料金:一般1200円 / 65歳以上 1100円 / 大学生・高校生 700円 / 中学生以下無料
※土日祝は日時指定予約(平日は予約不要)。当日空きがあれば入館可能。混雑状況により入館方法が変更になる場合がある。

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エディターKUBOTA

幾星霜をこえて編集部に出戻ってまいりました。活字を読むこと、脂と塩気、2匹の保護猫、平和と雑談を愛します。

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