2019.06.14

【NEW LUXURY】ハイブランドがサステイナブル活動に本気だ。Fashion saves the earth

2015年に国連サミットで採択された、2030年までの国際目標である、持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」。これは海や陸の豊かさを守る、ジェンダー平等の実現など、17の目標で構成されている。目標達成に向けてサステイナブルな動きが活発化するファッション界からハイブランドの活動にフォーカス。ラグジュアリーの価値観が変わりつつある今、どのブランドの服を買うのか、サステイナブルな一枚を選ぶのかは、私たち次第。その自由な選択に責任を持つことが、未来のラグジュアリーにつながっている。

グッチ

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"ROBE D’HOMME POUR FEMME"のレタードが入ったスパングルのロングドレスは、ジェンダー平等をストレートに表現。手にしているのはZINEの『CHIME』。ドレス¥1,550,000・ティアラ¥236,000・靴¥105,000/グッチ ジャパン(グッチ) タイツ/スタイリスト私物

ジェンダーの平等はブランドとしての新しい指針

ジェンダーの平等や自分らしさの自由な選択について精力的に発信しているグッチ。2013年に立ち上げた「CHIME FOR CHANGE」は、世界中の少女と女性のために上げられた声を集結するグローバルプロジェクト。この計画はサルマ・ハエックやビヨンセらが共同発起人となり、ジェンダー平等を実現目標にしたキャンペーンとして飛躍した。今年1月には『CHIME』というZINEを創刊。NYのアクティビストでライターのアダム・イーライが編集し、賛同するアーティストたちが寄稿。ジェンダーの平等を訴求している。またグループ内でもジェンダーの格差を正すよう努力を続け、シニアマネジャーの59%が女性に。グローバルなファッション企業の中で、ジェンダーにかかわらず人間が生きやすい社会や環境づくりの旗振り役として、これからも期待大だ。

バーバリー

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クラシックなインバネスコートも光沢感のあるエコナイロンでモダンに。なめらかな肌ざわりで、トレンチのようにベルトがついている。コート¥135,000・ドレス¥220,000・ブラトップ¥60,000・ショーツ¥50,000・靴¥135,000(すべて予定価格)/バーバリー・ジャパン(バーバリー)

よりいっそう着る喜びが増すサステイナブル素材の服

バーバリーは昨秋、在庫を廃棄処分しないことをリリースし話題を集めた。それ以前から再利用や修理で生かしていく方針は固めていたが、昨年5月にはファッションのリサイクルプログラム「Make Fashion Circular Initiative」のコアパートナーになるなど、現在も取り組みは拡大中だ。さらにサステイナブル素材として、世界で64万トンといわれる廃棄された漁網や再生ナイロンで作られたエコナイロン「ECONYL®」をプレフォールコレクションに使用。これによって、ナイロン糸製造の過程で必要な原油使用量と二酸化炭素排出量を減らすことができるという。エコナイロンとトラッドスタイルを組み合わせてモダンに昇華したリカルド・ティッシのデザイン。このサステイナブル素材は新しいモードをつくり、まとう者の楽しみまでも広げていく。

ショパール

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氷のキューブが着想源のアイスキューブ コレクション。フェアマインド認証のエシカルゴールド。(上から)シンプルな直線型。ネックレス〈K18WG〉¥210,000・グラフィックで動きのあるフォルム。〈K18RG、K18WG〉¥460,000/ショパール ジャパン プレス(ショパール)

すべて追跡可能なエシカルゴールドにスイッチ

昨夏にジュエリーや時計に使うゴールドをすべてエシカルゴールドに切り替えたショパール。エシカルゴールドとは、流通経路が生産から消費・廃棄段階まで追跡可能(トレーサブル)なゴールドのこと。ゴールドの採掘の現状は、現場で働く採掘者が劣悪な環境で労働を強いられたり、不当に値切られたりと、複雑な問題が山積み。その状況を改善しようと、採掘者などルートが明確なエシカルゴールドを採用している。2013年には「公正な採掘のための連盟(ARM)」と提携。採掘者に資金や技術を提供することで、採掘者のフェアマインド認証(ARMが定める基準をクリアし公正に採掘された鉱物だけに認められるもの)取得に対する責任を担っている。これまでにもショパールの支援でコロンビアとボリビアの鉱山がフェアマインド認証を取得。ペルーの採掘者にも支援を行い、教育や福祉面でのサポートも実施予定だ。たくさんの人々の手を経て届く質のいいゴールドには、関わった人へのやさしさも光となって輝いている。

クレージュ

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ポップなモチーフが浮遊感を誘う。アーカイブコレクションから着想しモダンにアップデートしたコットンケープとパンツ。スナップボタンつきで、自由なイメージを表現している。ケープ¥173,500(参考価格)・パンツ¥104,000・靴(参考商品)/エドストローム オフィス(クレージュ)

メゾンの象徴的な素材、プラスチックからの脱却

2018年にクレージュは、アーティスティックディレクターにヨランダ・ゾーベルが就任。彼女が真っ先に取り組んだのは、メゾンの代名詞のようなプラスチックの使用をやめること。ブランドが創設された1960年代は、テクスチャー加工したビニールなどプラスチックは未来的な素材だったが、2019年ではサステイナブルな素材のほうがクレージュの未来を描くことができる、と考えた。今後はビニール素材に替わる新素材の開発を計画している。昨秋には"プラスチックの終わり"がテーマのカプセルコレクションを発表。明るいイメージはそのままに、耐久性のあるコットンやオーガニックリネンと、ポストプラスチックな素材で、新しいメゾンの歴史を刻み始めている。

ステラ マッカートニー

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動くたびに裾がスウィングする可憐なドレス。100%のサステイナブルビスコースで、タイダイプリントが開放的。ドレス¥210,000/ステラ マッカートニー カスタマーサービス(ステラ マッカートニー)

持続可能に管理された森から木を調達してビスコースに

2001年のブランドスタート時から地球環境に配慮した物作りを行い、その第一人者として語られてきたステラ・マッカートニー。ここ数年は特にスタートアップの開発者と組んで、エシカルな服作りを着実に実現している。そのひとつがサステイナブルなビスコース(レーヨン)だ。木材の繊維から作られるビスコースは、生産のために年間1億5000万本もの木が伐採されている。それを減らすため、持続可能に保護管理され、認証を受けた森林からのみ木を調達。そのパルプはドイツでビスコース繊維になり、イタリアで生地化。生産をヨーロッパで行うので、輸送の面でも二酸化炭素の排出量を抑え結果的に森林を守ることに。一枚のドレスでおしゃれをすることが、実はきれいな空気の維持につながっているのだ。

 

Special interview with Stella McCartney

「ステラ・マッカートニーさん、ファッションで地球は救えますか?」

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photography: Mary McCartney

「救える」と信じる、モード界におけるこの分野の先駆者に、改めて取り組みについて聞いた。彼女が考える地球の未来を私たちも一緒に思い描けたなら、幸せな明日に少し近づくはず。


素材や染色、全方位的なサステイナビリティ化を

 地球環境保護についての自身の哲学をブランドでも追究してきたステラ・マッカートニー。持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」と照らし合わせても、彼女が行なっている活動と重なることが多く、積極的に関わっていることが見て取れる。しかし、本人はまだまだ道は遠いと語る。

「いつもサステイナブルにできないかと心を砕いていて、もっとモダンな展開方法を模索しているけれど、そう簡単なことではありません。EP&L(環境損益を数値化した計算書)レポートを毎年提出して改善に努めていますが、私たちも完璧じゃないんです」

 サステイナビリティはすべての根幹で、それなしでは何を得ることも、生きることすらできない、と話すステラ。全方位的にサステイナブルな取り組みを進めているが、今最も注目を集めているのは素材の開発だ。たとえばサステイナブルビスコースについて、そのクォリティに自信を示している。

「私たちはキャノピーという非営利の森林保護団体と提携して、ビスコースになる木材をFSC(森林管理協議会)認証を受けている、スウェーデンの持続性を管理した森から産出されるように取り計らっています。納得のいく生地が完成するまでには2年かかりました。けれど今では、サステイナブルビスコースを使っている業界唯一のメゾンであることを誇りに思っています」

 取り組みがパワーアップしたのは、2012年に社に参加し、現在は持続可能性・倫理的トレード部門のトップにいるクレア・バーグキャンプによるところも大きい。ステラとクレアはアメリカのバイオテック企業ボルトスレッド社と提携し、新素材を研究開発。マイセリウム(菌糸体)で作られたレザーの代用をするバイオ素材「マイロ」(アイコンバッグ“ファラベラ”での商品化を目指している)や、クモの糸から着想したエシカルなマイクロシルクなどを採用。ほかにも世界のテック系スタートアップを探し出して協力関係を築き、時間をかけて商品化してきた。

「いつも新素材やテクノロジーの開発、イノベーションに取り組んでいて、やりがいを感じています。これまでの素材の代わりになるものが生まれそうという情報が入るとわくわくしますね」

 また、素材開発以上に地球環境にダメージを与える工程である染色については、どのように考えているのだろう。

「“カラリフィックス”という、染色工程の新しいあり方を編み出した会社と提携しました。それは有害性の低い化学染料や薬品を使い、従来の10分の1の水で染色できるプロセスなんです。このテクノロジーは、産業界をはじめ、世の中をもガラッと変えるものになるんじゃないかと考えています」

一番サステイナブルなのはみんなが着たいものを作ること

 再生カシミヤ、オーガニックコットン、再生ナイロン、ファーフリーファー。すでにこれらのサステイナブル素材はコレクションに定着。今は素材からデザインを着想することも少なくない。しかしあくまで服が先にあり、具現化するためにそれらが必要なのだ。

「私ができる最もサステイナブルなことは、デザイナーとして誰もが欲しいと感じ、捨てたくないものをデザインすること。美しいものを作りたいから、サステイナビリティのためにスタイルを妥協したくはありません」

 持続可能な生活を営むことが当たり前の環境で育てられたから、細胞の中にまで刷り込まれている、というステラ。彼女が展開するビジネスにサステイナビリティを求めるのは自然なことだ。「SDGs」の目標達成が叫ばれるようになった昨今、グローバルなラグジュアリーブランドが積極的に関わるようになったことに対して、彼女は大歓迎の姿勢を見せる。

「素晴らしいこと。そういう企業が増えるほどうれしい。もうこの業界も真剣に、酷い悪循環が地球に及ぼす衝撃について考えるべきでしょう。今だってプラスチックはほんの少量、ファッション業界に絞ってもほとんどリサイクルされていません。やるべきことはたくさんあります。サステイナビリティの話題になると罪悪感や恐怖心を抱く人がいますが、率直な対話をしなくては。この“変化”は実現可能であると私は信じています。この業界に携わる人々がより努力して地球を汚さない方策が定められてこそ、ファッションの未来があるのではないでしょうか」

Profile
1971年生まれ。イギリス出身。母の影響で幼い頃からベジタリアン、アニマルフレンドリーの信条を持つ。セント・マーチンズ卒業後、1997年に25歳でクロエのクリエイティブディレクターに就任。2001年に自らのブランドを設立。


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SOURCE:SPUR 2019年7月号「Fashion saves the earth」
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima hair: HORI 〈bNm〉 make-up: Masayo Tsuda 〈mod’s hair〉 model: Annie edit: Akane Watanuki 

FEATURE