2019.12.28

服、そして文化や暮らしを創る男、デザイナーブルネロ・クチネリの愛するもの

着心地がよく、機能的。洗練されているけれど、さりげない。そんなブルネロ・クチネリの服はシリコンバレーの起業家をはじめ、セレブリティからも愛されている。自身の仕事を通じて世の中を照らす努力を惜しまないブルネロ・クチネリ。彼の愛するもの、ことからその人となりの片鱗を知る


 ブルネロ・クチネリ(66歳)は、イタリア・ウンブリアの農村部カステルリゴネで育った。子どもの頃から、服に強いこだわりを持っていたそうだ。「7歳のとき、母からクリスマスに贈られた緑色のビロードのズボンを、裏庭に埋めてしまった。緑色は今も昔も苦手でね」。工業学校を中退し、1978年に自らの名を冠したレディスのニットブランドを立ち上げた。ベネトンのような刺激的な色使いで、素材は高級カシミヤとシェットランドウールを用いた。

画像: BRUNELLO CUCINELLI(ブルネロ・クチネリ) 「ソロメオの村を散歩する愛犬ヴィオラと私。この写真の色のトーンは最高。ラブラドールのヴィオラの白い毛が、ほどよく薄汚れた色になっている。私の装いは、スニーカーもデニムも、すべて自分がデザインしたもの。コートは23年前から愛用している」 COURTESY OF BRUNELLO CUCINELLI

BRUNELLO CUCINELLI(ブルネロ・クチネリ)
「ソロメオの村を散歩する愛犬ヴィオラと私。この写真の色のトーンは最高。ラブラドールのヴィオラの白い毛が、ほどよく薄汚れた色になっている。私の装いは、スニーカーもデニムも、すべて自分がデザインしたもの。コートは23年前から愛用している」
COURTESY OF BRUNELLO CUCINELLI

 現在では、メンズとレディスのプレタポルテ、靴、バッグ、インテリア雑貨に加え、今秋から子ども服も手がける。人口500人のソロメオ村に工場を持ち、約1,000人の社員を抱えている。ペルージャから14キロ、彼の地元からは24キロ離れたこの村を、クチネリは長い年月をかけて復興させた。道路を舗装し直し、ぶどう畑を造り、16世紀様式の劇場を建て、職人技術学校を創設した。メゾンの世界観“スポーティシック”は、そんな彼の哲学を象徴している。ドレープを寄せたカーディガン、クルーネックのセーター、ソフトテーラードのパンツ、カシミヤ製のコレクター・グッズ(サッカーボールなど)は、どれもソロメオの風景を彷彿とさせる、シックなアースカラーだ。

 洗練されてはいるがさりげないクチネリの服は、シリコンバレーの起業家たちにも愛されてきた。故スティーブ・ジョブズは黒のハイネックセーター、マーク・ザッカーバーグはグレーのTシャツなどを愛用した。クチネリ本人は、クラシックなスタイルを貫く。「良書のごとく時代を超越するもの、手もとに置いて使い続けるものだけを、作っていきたい」

画像1: COURTESY OF BRUNELLO CUCINELLI

COURTESY OF BRUNELLO CUCINELLI

「大切な友人である彫刻家のステファノ・ジャンノーニは、ローマのコルディナヴァ通りに工房を持ち、ミケランジェロの様式で彫像を制作している。この写真に収まっているのはマルクス・アウレリウスやハドリアヌス、ペリクレス、ディオニュソスなどの大理石の彫像。私の自宅にもいくつかある。彼の作品の大理石の胸像を、人にプレゼントしたこともある」

画像: WEICHIA HUANG

WEICHIA HUANG

「ジャケットを着るときは(ほぼ毎日だが)、ポケットチーフを合わせる。これはマストだ。男性は個性を演出できるアイテムが限られている。もしあなたがレストランで男性を見かけたら、目に留めるのはその人のジャケットと時計、ポケットチーフくらいだろう。私は、チーフも同じものばかり使い続けている」(続きを読む)

SOURCE:「Profile in Style ― Brunello CucinelliBy T JAPAN New York Times Style Magazine:JAPAN BY LINDSAY TALBOT, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA NOVEMBER 18, 2019

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