2021.07.13

美しいものづくりに今こそエールを! つながるジャパンメイド

手仕事ならではの柔軟さと温かさ、あるいは驚くべき緻密さと精巧さ。日本が誇る伝統の技と先端技術は、ファッションの表現を豊かにしてきた。装うことのあり方が大きく見直されたこの一年。独自のクリエーションを行う日本人デザイナーと、協同する職人たちをインタビュー。豊かなパートナーシップから生まれたスペシャルな服やジュエリーを堪能したい

MiyukiKitahara × ニットデザイナー 早川靖子

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早川靖子氏の監修のもと、ミユキキタハラのネイビーのニットを編む、ニッターの近あづき氏。家庭機で編まれた平編みのニットを、タッピと呼ばれる道具を用いて編み地を整える作業風景を撮影した。昭和30年代に全盛期を迎えた家庭機は、当時は一家に一台というほど一般的なものだった。手編みの棒針編みと同じ組織を編むことができ、自動機(コンピューター制御編み機)では得られない独特の風合いも大きな魅力のひとつだ。

 

確かな手芸の技術がデザインの独創性を支える

デザイナーのキタハラミユキ氏は、当時勤めていたフェイクトーキョーと繊維商社の現・スタイレム瀧定大阪との協同プロジェクトとして、2016年にドナ メイベルというレーベルを設立。前シーズンから、ブランド名をミユキキタハラに変更した。

「服の必要性が問われていたときでした。外出自粛で『着るものは最小限でいい』と。でも私は、たまにしか出かけられないからこそ思いきり楽しみたい。人の気分は着るもので変わり、それが行動や人生にもつながると思うから」

彼女が2021-,22AWで発表したニットは、2016年のデビューコレクションで展開したニットを変形させたもの。アパレル業界で長く活躍するニットデザイナーの早川靖子氏が製作に携わる。デビュー当初からのつき合いだ。

「過去のサンプルを見返していて、改めて『素敵だな』と。当時はメタルパーツをつけていましたが、ニット自体が主役になる形でもう一度作りたいと思いました。早川さんの経験と知識、創造性を尊重してくださる姿勢は、服作りにおいて貴重です」

「若手のデザイナーを応援したい」と話す早川氏は、これまで、アパレルと手芸をつなぐ橋渡し役となってきた。

「まずはデザイナーと打ち合わせをし、糸や編み方を決定します。デッサンを元に製図に起こし、編み地サンプルを作る。その上で他のニッターとともに、家庭用編み機(家庭機)や手編みで編んでもらうという工程になっています」

キタハラ氏は早川氏のディレクションに心から信頼を寄せる。

「家庭機は自動機に比べて表現の幅が広く、凝った創作がかないます。また、デザインだけでなくクォリティも大切。早川さんのもとで時間をかけて丁寧に編まれたニットはスペシャルなのです」

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ニット¥57,000・トップス¥18,500/ミユキキタハラ タイツ¥1,430/タビオ

ECの利用頻度とともに、目にする機会が増えた段ボールや梱包材が、2021-’22AWのインスピレーション源。ストイックさと柔らかさが共存する重厚なニットは深いVネックが特徴。一度ラウンドネックに仕立てたものをカットすることで、梱包材や緩衝材のふわふわとした質感を表現した。
「普通ではありえないぐらい硬く編む」と早川氏が話すのが、袖と裾のリブ部分の特徴的なゴム編み。デザイナーのクリエーションへのこだわりを、職人の技術が具現化させた。

MIKAGE SHIN × 薗部染工

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ブラウス¥72,600・ボウタイ¥13,200・パンツ¥42,900/ミカゲシン

ジェンダーフリーのコレクションを提案するミカゲシン。ニュートラルなグレーとイエローを使用した墨流しは、理想の色を出すのに3度も染め直した。ステイホーム期間を経て「服の寿命を伸ばすことが最もサステイナブル」だと感じ、洗濯機で丸洗いできるポリエステルを使用。

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「墨流し染」ならではの可変的な美しさに惹かれて

「現実が暗かった時代ほど、人々はカラフルなアートやカルチャーを生み出してきました。想像力は人類に勇気と希望を与える生命力の源です」と、デザイナー進美影氏は、コロナ禍に発表した2021-,22AWコレクションについて語る。テーマは“The Process”。変化にまつわるアートや文学をヒントに、混沌とした状態から新しいものが生まれる予感を表現。哲学者ニーチェの手記をコラージュし、京都の墨流し染という伝統技法を用いてオリジナルのテキスタイルを完成させた。

「墨流しの染料は水面上に色を重ねても混ざらず、とどまらない。不思議な流動性と可変的な美しさに、コレクションのテーマと一致するものを感じました」

今回、染めを手がけたのは京都の薗部染工。初代、薗部正典が平安時代の貴族の遊びとして始まった墨流しに魅了され、着物の染めに取り入れようとしたのが起源だという。染色の工程について工房は「墨流しは、使用する水の硬さによって“水流し”と“糊流し”に分けられています。ミカゲシンのブラウスは両方の手法を用いました。水面に浮かべる特殊染料や水を操る加減など、すべて手作業で職人の感覚です」と説明する。

「墨流しには素敵な可能性がたくさん眠っているので、私どものコレクションテーマに合わせて、一緒にものづくりさせていただけたら」と語る進氏。コラボレーションは今後も続く。

YOHEI OHNO × アゲハラベルベット

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ドレス¥93,500・トップス¥25,300/ヨウヘイ オオノ ブーツ¥69,300/KATIM

薄手のベルベット地にキルティング加工を施すことでカジュアルさを表現。ベルベットには珍しいライトベージュという選択も軽やかだ。この素材ならではの光沢と膨らんだスリーブが魅力のロングドレスは、インナーにハイネックを重ねてデイリーに着こなしたい。

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やさしく包み込む日常使いのベルベット

コロナ禍の影響でフォーマルな生地の需要が減少。ヨウヘイ オオノのデザイナー、大野陽平氏はラグジュアリーな生地を日常に取り入れたいという思いから、ベルベットのアイテムを発表した。形にしたのは、「無機質な空間の中に、クラシカルで温かみのある絨毯やソファを置くようなイメージ」。とりわけ目を引くのは、キルティング加工が施された、美しい光沢のドレス。

「ベルベットを初めて使用したのは前回の秋冬コレクション。それをどこかでご覧になって、アゲハラベルベットさんが声をかけてくださいました」

ベルベット製織に特化した同社は、1934年創業のテキスタイルメーカーだ。製織・染色・仕上げをすべて福井県の自社工場で行い、業界では珍しい一貫製造販売体制を築き上げている。

「使用している生地は、サステイナブル素材のレーヨンと、キュプラから構成されているレーヨンベルベットです。細い糸を使って高密度で織り上げるので、高い技術が必要です。今回のような淡色は色合わせが難しかった。本来はフォーマルに使われることが多い素材に、大野さんは新しい価値を引き出してくれました」と、代表の揚原邦弘氏。今後の展望を尋ねると「欧州の文化の象徴であるベルベットですが、いつか日本ならではの生地を作って、世界に評価されたら面白いですね」と語ってくれた。

AKIKOAOKI × 内田染工場

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ニット¥64,900・デニムパンツ¥53,900/AKIKOAOKI

さながら現代アートのようなダイナミックな染めは、従来のタイダイ染の概念を遥かに超越。熟練した職人が三度の染めによって一点一点仕上げる、繊細かつ力強い風合いは、手仕事ならではのもの。デニムパンツとのシンプルなスタイリングで、普段の装いに個性と刺激を投入したい。

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伝統と先端技術が生む"バグ"を求めて

鮮やかなピンクにイエロー、吸い込まれるような深みのあるネイビー。「抽象的で、ケミカルとプリミティブが共存している印象にしたかった」とデザイナーの青木明子氏は説明する。

彼女のニットを豪快なイメージに染め上げたのは、東京都文京区にある内田染工場。青木氏がブランドを立ち上げたときからのつき合いだ。今年、創112年を迎える老舗の染工場は、3代目の内田光治氏が代表を務める。今回の染色を担当するにあたり、「青木さんからイメージをいただいた際に、彼女が求めているものを解釈して職人たちに伝えました。デビュー当初からご一緒しているので、何がしたいか感覚で理解できたのだと思います」と話す。

「染めの技法において、新しい技術は容易には生まれません。デザイナーのアイデアと、実現したいという強い思いがあるから、従来の技法であっても新鮮に感じられる美しさが生まれます。それこそがこの仕事の醍醐味ですね」

色出しの精度と速度を上げるシステムや、環境に配慮した機械の導入。職人の手仕事と先端技術の両輪で、新しい染色のあり方を追求する内田染工場。
「日本の伝統の技と先端技術は両者ともクォリティが高い。その相乗効果によって想像を超えた新しいバグが生み出されることは素晴らしいと思います」
そう語る青木氏と染工場が手がける、次なる共作にも期待したい。

bororo × 詫間宝石彫刻

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ピアス〈K18ホワイトゴールド、シルバー、デュモルティエライト イン クォーツ〉¥209,000・リング〈ルチルクォーツ、シルバー〉¥137,500/エスケーパーズ オンライン(ボロロ) トップス¥24,200/UTS PR(ジェーン スミス)

まるで元からひとつだったように、完璧に一体化した石と地金。600年以上継承されてきた伝統技術が、コンテンポラリージュエリーの可能性を切り開く。

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類いまれな技術が引き出すジュエリーの個性

「天然石の美しさをそのまま身につける」。これが、ジュエリーブランド・ボロロのコンセプトだ。デザイナーの赤地明子氏は会社員を辞め、2005年にNYに渡り宝石学の勉強を始める。卒業後は世界一周の旅に出て、各国の産地に足を運んだ。

「アフリカで買った原石を、スリランカの研磨名人に削ってもらいましたが、均一になった石は個性が失われていると感じたんです。それを機に、宝石の個性をできるだけ生かしたジュエリーを作りたいと思うようになりました」

シグネチャーであるロックシリーズは“天然石の宇宙をのぞく”がテーマ。
「シームレスな一体感のある仕上がりがデザインの肝なので、さわっても継ぎ目がわからないぐらい一体感を出してほしいと、山梨在住の貴石彫刻家、詫間康二さんに相談しました」

甲州水晶貴石細工の伝統工芸士である詫間氏は、石彫と金属加工の技術を兼備する。「同摺り」と呼ばれる石と金属を同時に削る技法を使って「立体同摺り」を考案。その技術によってこのロックシリーズが具現化された。

コロナ禍で海外への買いつけが途絶え、新しい原石が手に入らない状況が続く中、心がけるのは「石を無駄なく加工すること」。「ボロロのジュエリーを通して、多くの人にものづくりの背景にある“続いている文化”を知ってもらいたい」と詫間氏は語ってくれた。

SOURCE:SPUR 2021年8月号「美しいものづくりに今こそエールを! つながる ジャパンメイド」
photography: Yuki Kumagai, Kazutoshi Hasegawa (Agehara Velvet), Misa Sugiyama (Sonobe Senko) styling: Maiko Kimura hair & make-up: Momiji Saito 〈eek〉 model: IA edit: Kaeko Shabana cooperation: Koganecho Area Management Center

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