ファッションは、社会にどんな貢献ができるのか? そのアプローチもより深く、多岐にわたり発展している今、問題意識に目覚め、変化を起こそうと活動している人たちこそ、ネオ・ハイライフの主役だ
WOKEした彼らの今、これから - Tiffany Godoyさん
よりよい社会の実現のために、ファッションに何ができるのか。今こそ、改めて考える必要があります。最初の大きなきっかけになったのは、2006年のアル・ゴアのドキュメンタリー映画『不都合な真実』。2013年にはバングラデシュでの縫製工場崩壊事故があり、ファストファッションの台頭の陰で犠牲を強いられる社会的弱者の存在に光が当たりました。2015年にはパリ協定が採択され、世界中の国が気候変動に立ち向かうことに。そんな中で起こった今回のパンデミック。膨張し続けてきたラグジュアリーファッション界が、いったん立ち止まるきっかけになりました。またBLM運動が起こり、マイノリティの立場にいる人々を中心に、自分たちのコミュニティにパワーを与えたいという思いがひときわ強くなっています。
それでは、そんな今の時代を反映した活動をしている人々を紹介しましょう。まずはデュラン・ランティンク(1)。オランダ出身の彼は、ラグジュアリーブランドのアイテムをリメイクして作品にしています。ダウン症の人々のコミュニティとコラボして、彼の服を着てもらいそれを撮影するなど、ユニークな活動もしています。
歴史あるファッションの街・パリにも、新しいことをしている人々がいます。セヴァリ(2)は、知的なアップサイクリング・クチュールとでも呼べそうな一点物のアイテムを作っています。私の友人であるスタイリストのヴァニール・ヴェローズ(@vanilleverloes)は、ハイブランドのキッズウェアの古着をリメイクしています。彼女の生み出すアイテムは、野暮ったさのあるほっこり感ではなく、センシュアルでモードな雰囲気が色濃く感じられるもの。
1 既存アイテムをリメイクしているデュラン・ランティンク。リサイクルになるだけでなく、その作品にはクチュール的な面白さが生まれる Instagram: @duranlantinkyo
2 同じくアップサイクルな服を作るセヴァリ。新しいジェンダーレスな美しさを表現している
LAでは、ストリート系ブランドが地域のコミュニティをサポートする動きが目立っています。その代表格がアドバイザリー・ボード・クリスタルズ(3)。サウスセントラルのスラム街の子どもたちとコラボレーションするプロジェクトを立ち上げるなど、ユニークな社会活動を続々と行なっています。
進化し続けるサステイナブルな素材使いは、フットウェアブランドでますます顕著に。ビーガンシューズブランド、ロンバートのマット・ロンバートは、さらにサステイナブルに特化した新しいシューズブランド、ヴィロンを立ち上げました(4)。
ゲイやクィア、トランスコミュニティと接近するビッグブランドも。カルバン・クラインは、キャンペーンでLGBTQ+の人々とコラボレーション(5)。私の友人もこの広告に出演しましたが、SNSでの誹謗中傷に対してブランドがフルサポートしてくれたそう。マイノリティの味方でいようという強い意志を感じます。
3 ユニークなコラボレーションを繰り出すアドバイザリー・ボード・クリスタルズ。ストリートファッション界の注目ブランドだ Instagram: @advisoryboardcrystals
4 ビーガンシューズブランドのヴィロン。リサイクルキャンバスや、りんごやコーンなど植物由来のビーガンレザーを使用
5 カルバン・クラインの「#proudinmycalvins」キャンペーン。同ブランドは、複数のLGBTQ+支援団体の活動をサポートしている
情報発信の内容にも、変化が現れています。フューチャー・ダスト(6)は、オンラインメディア「ハイスノバイエティ」のエディターだったアレック・リーチによるプロジェクトで、サステイナブルファッションに特化して情報を発信しています。もともとストリートカルチャー界の最前線にいたアレックですが、ファッション業界のサイクルの速さに疑問を持ち、インスタグラムアカウントを開設。また、もともとヴィンテージアイテムのウェブサイトであるバイロネスク(7)は、最近はフューチャーアーカイブと称して、これから資産価値が上昇しそうな新作アイテムを紹介。これは、ファッションを投資として捉える新しい価値観を象徴しています。
6 フューチャー・ダストのインスタグラム Instagram: @future__dust
7 バイロネスクが投稿した、リック オウエンスの最新シューズ Instagram: @byronesquevintage
さて、今後はどうなっていくでしょうか? 私は3つの流れに注目しています。
ひとつは、Eウェイスト(電子ごみ)の問題。使用ずみ電子機器のパーツの廃棄にまつわる問題が、大きくなっています。2つ目がリ・コマース。古着などの中古品をオンラインで売買することを指しますが、このビジネス規模はますます大きくなっていくでしょう。そして最後に、コストパフォーマンスにおけるマインドの変化があります。特に若い世代を中心に、高価なブランドアイテムを持つことに否定的な意識が高まっています。大きな契機になりそうなのが、中国のカスタマーの意識の変化。今は新しいもの、新しいトレンドをよしとする彼らの嗜好が、経済成長の鈍化を受けてヴィンテージアイテムやアーカイブファッションに流れるとしたら。そのとき、既存のファッション界を支えてきたマスブランドは、今までの戦略を本格的に問われることになるでしょう。
いずれにしろ、今やファッションブランドは、それぞれがひとりのインフルエンサーのようなもの。ブランドが何を志向し、どんな活動をしているのか。それがますます重要になっていくのは間違いありません。
Profile
ティファニー・ゴドイ●ファッションジャーナリスト。現在はパリを拠点にし、世界各国のメディアに寄稿。本誌では「ティファニー・ゴドイの考服論」を連載中。最近はバーチャルファッションやゲーミングファッションに関心が。
WOKEな人の推す、WOKEなブランド
先進的なビジョンを具体化する DEEP
サステイナビリティに特化したクレア・アービングとジェームス・アービングによるコンサルティング・エージェントのDEEP。昨年、パンデミックのさなかに設立され、早くもファッション業界で注目される存在になっている。現在は、マリーン セルといった先進的なブランドと組んで、そのビジョンを生態系や自然科学の分野に反映させるプロジェクトを進めているほか、社会貢献・環境保護の視点から、さまざまなブランドのマーケティングやコンサルティングを行なっている。共同設立者のひとりであるクレアは、ナイキのマーケティング部門に勤務していたことも。その経験を生かし、DEEPを立ち上げたと語る。
「今こそ、生活のあらゆる面においてエコロジーと親密な関係を築くときです! 私たちの目標は、先進的なビジョンを、社会的・環境的にインパクトのある取り組みとして具体化すること。地球環境により理解のある社会、自然とつながるための一歩を踏み出せる社会にしていきたい。未来に向かって進む人々のために、美しい解決策を提示したいです」
DEEPのふたりに、注目すべきWOKEなブランドを挙げてもらった。ひとつは、ロードサイクリングブランドのMAAP(8)。
「2030年までにビジョンを達成させようと、持続可能性については最高レベルの取り組みをしているブランド。もちろん、アイテムのデザイン性の高さも世界トップクラスです!」とクレア&ジェームス。
もうひとつはアメリカの環境系スタートアップ、レインフォレスト コネクション(9)。
「世界中の、手つかずの自然が残された場所を守るため、音響モニター装置を開発。このデバイスは、設置された場所で捉えた音声や環境音をリアルタイムでクラウドに送信する仕組みになっています。種や生態系の長期的なマッピングが可能になる上、違法伐採や密猟が行われると、すぐにわかる。とても革新的でユニークです」
8 オーストラリアの自転車愛好家たちが立ち上げたMAAP。DEEPがアドバイザリーを担当
9 音をマッピングするというユニークな取り組みをするレインフォレスト コネクション
Profile
ディープ●ミラノを拠点とする、サステイナビリティに特化したコンサルティング・エージェント。昨年3月、クレア(左)&ジェームス・アービング(右)のふたりが共同で設立。ファッションブランドなどの顧客に、アドバイスを行う。
社会と対峙し、貢献するブランドに共感 - 長尾悠美さん
渋谷・松濤にある人気のブティック、シスター。鋭い感性でセレクトされたウェアはもちろん、雑貨や書籍も扱い、女性をエンパワーする企画を開催することでも知られている。代表の長尾悠美さんにその意図を聞いた。
「フェミニズムを当たり前と捉え、ジェンダーバイアスに左右されない社会を目指す活動をしています。今年3月には、国際女性デーに合わせてフェミニストプレスのエトセトラブックスとコラボレーション。オリジナルグッズを提供してもらい、代官山蔦屋書店で展示・販売し、売り上げの一部を利用して、フェミニズム関連の書籍を渋谷区の図書館へ寄贈しました」
長尾さんのイチ押しは2つのファッションブランド。コペルニ(10)は、ニカラグアの子どもたちにラップトップパソコンをプレゼントする活動に、売り上げの一部を寄付。「世界の状況と対話しながら貢献していく姿勢にはとても共感します」と長尾さん。
もうひとつは、来季からシスターでの取り扱いがスタートするというマテリエル(11)。
「環境に配慮した素材を選び、メインアイテムにはエコレザーを使用。持続可能な取り組みを積極的に行なっているブランドです」
10 コペルニの2021年プレ・スプリングコレクション。「フューチャー・オブ・ラブ」というコンセプトで製作され、アイテムの多くにハートのモチーフが
11 社員の98%が女性だという、ジョージア・トビリシ発のマテリエル。使用した生地は再利用して環境に配慮
Profile
ながお ゆみ●セレクトショップSister(シスター)代表。国内外のデザイナーズブランドからヴィンテージアイテムまで、鋭い感性でセレクト。ショップは2018年に松濤に移転しリニューアルオープン。
チームのメンバー構成にも多様性を - Rachael Wangさん
雑誌エディターとして10年ほど働き、スタイリスト兼コンサルタントとして独立したレイチェル・ワン。社会的公正さや持続可能性の観点から、ブランドの価値観が反映されたビジュアルづくりを得意としている。
「私が担当するプロジェクトでは、ここアメリカのダイバーシティを反映した、さまざまな人々をキャスティングするようにしています。子どもたちみんなに、自分と同じような人がメディアで活躍している姿を見てもらいたいんです。それに、チーム内の多様性は、最高に面白いアイデアを生み出す土台となります。これは私個人の意見ですが、似た者同士で集まっても、つまらないアイデアしか出てこないですからね」
サステイナブルな企業姿勢と品質の高さを兼ね備えた2ブランドを教えてもらった。
「ブラザー ベリーズ(12)は、伝統技術を用いた靴づくりを行うことで、アフリカの職人に安定した収入と雇用機会を生み出しています。ユングメイブン(13)は、私の大好きなTシャツブランド。ヴィンテージ感のある見た目や肌ざわりのアイテムは、オーガニックの麻やコットンでできていて、環境にも、農家にもやさしい仕組みになっています」
Profile
レイチェル・ワン●スタイリスト兼コンサルタント。エシカルでサステイナブルな提案をモットーとしている。『Allure』誌をはじめとするモード誌で10年ほどエディターとして働いたのち、独立した。
SOURCE:SPUR 2021年9月号「WOKEな彼ら」
text: Chiharu Itagaki translation: Azumi Hasegawa (DEEP, Rachael Wang)