世界のペインターはどんなスタイルで過ごしているのだろう。本特集では、NY、LA、パリから4名のアーティストが登場。彼女たちのアートが生まれる場所と、自身の絵と世界観が重なり合う洗練された私服スタイルを紹介する
Karin Haas 静謐な美を追求する
カリン・ハースの1日は、夫と愛犬と向かうセントラルパークへの散歩から始まる。「早朝の街の静けさに身をゆだね、朝日の光でビルの色が徐々に変わる様子に着想を得ます」。地層のようなレイヤーを淡い色みで描く彼女の作品には、絶妙なバランスの心地よさがある。「作品に込めているのはフィーリング。穏やかな場で目を休める感覚を、見る人に伝えたくて」。マンハッタンにある自宅兼スタジオも同様に、静謐な空間。「シンプルで考え抜かれたスタイルが好き」と語るように、旅先で見つけたジュエリー、タイムレスな名作家具、着心地のよい洋服と、彼女が選ぶものひとつひとつに洗練された審美眼が光る。
Profile
NY在住。建築や大理石などの幾何学的なパターンをテーマにコンテンポラリーな作風で注目を集める。彼女の作品はLAのJF CHEN、プリントはSlowdown Studioから購入ができる。Instagram(以下同): @karin_haas
Torin Ashtun 鮮やかな色の対比で感情を描きたい
「情熱的に生きると決めたので、喜びも悲しみもすべてが着想源」と話すトリン・アシュトン。15歳からフリーランスでモデルを始めた。
「子どもの頃から絵を描いていたけど、作品を見せることを躊躇していました」。ところが2年半前、SNSに作品を投稿すると創作意欲に火がつき、今では本格的にペイント活動に取り組んでいる。私服スタイルは「快適でフレキシブル」。
LA近郊ロングビーチにある120㎡のロフトは自宅、スタジオ、ギャラリーに変化する。16鉢の観葉植物と、インセンスの香りで空間を満たすのがリラックス法。「現実逃避ではなく最高の現実を描きたい」と語る彼女の才能は、開花したばかり。
Profile
カリフォルニア出身。モデルとしてadidasの広告や雑誌の表紙に登場。2018年からペインター活動を開始。インスタグラムでは自身の絵画を収めたセルフポートレートが人気だ。作品はtorinashtun.comから購入できる。@torinashtun
Tiffany Bouelle ポエティックな色ブルーに魅せられて
スタイルの原点は祖父。日本人の母を持つティファニー・ブエルは、毎夏、大学教授であり詩人でもある祖父を訪ねていた。「作品に多用する青は福岡県柳川市の藍染工場、フランス人の父の瞳、海、そして祖父が愛用するリネンの服からきています。私にとって日常であり詩的な色」
ドゴール広場近くの自宅兼アトリエでは、気分に合わせキッチンで創作をすることも。「道具はブラシ、木製のボウルと布、あとはバゲットがあれば」と笑う。私服のテーマはクロワッサンと豆腐が融合したトムボーイ。「ファッションは美しい鎧であり、芸術」。柔軟な発想に満ちた彼女の活躍から目が離せない。
Profile
パリ在住。スタイリストとして経歴を積んだ後、アーティストに転身。SEPTEMの服をはじめ、照明、パッケージなどのデザインも手がける。今年8月には自身のオンラインショップ(tiffanybouelle.com)をオープン。@tiffanybouelle
Shayna Klee 空想を具現化する"アートの魔法使い"
パリ14区にある元修道院にスタジオを構え創作活動に励むシェイナ・クレー。「ここは、ステンドグラスが美しい古代の建物に現代アートシーンが混在する魔法の場所」。1年のつもりでアメリカから渡仏し、気がつけば8年がたつ。5年前には「The Purple Palace」名義でYouTubeを開設。赤裸々なパリでの私生活、フェミニストの問題など、多様なトピックを語りながら、キャンバスにペイントし、創作過程も公開。独自の世界観には熱狂的なファンも多い。彼女が今最も興味があるのは、「現実と創造の世界が対比する演劇と、ペイントの垣根を越えた作品」。カテゴリーの枠を超え、自由に表現する彼女のファンタジックな世界は見る者を魅了する
Profile
フロリダ育ち、パリ在住。アーティスト、映像作家として「ポップカルチャーとアイデンティティ」をテーマに活動。4月には自伝的詩集『The Purple Palace & other poems』を出版。作品はshaynaklee.comから購入できる。@_purple_palace
SOURCE:SPUR 2021年11月号「"絵になる"私服とアトリエを。世界のペインター・スナップ」
photography: James LaLonde (Karin Haas), Jeanne Perrotte (Tiffany Bouelle) coordination & text: Mari Fukuda