「Who am I」何者でもないけど、何者にでもなれる

私はいったい誰なんだろう。何者にもなれない凡庸な自分を愛せず、悩む日もある。そんなときは極端なシルエットの服をまとって体を拡張したり、ボディペイントしてみたり、ファッションで自己解放し、実験する旅へ出よう。そこにはまだ見ぬ情熱的な「私」が待っている。

服で生まれ変わる私

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ファッションによる現実逃避を提案した2021年春夏のロエベ。イギリスのアーティスト、アンセア・ハミルトンが描いた壁紙のプリントをコットンポプリンにのせたセットアップは、プリーツとタックを多用。両袖、両足の股下が球体のように膨らむファンタジックなシルエットを構築した。空気を含んだ体と服の間のスペースは、現実からエスケープできる場所。体の形を大胆に変化させ、「新しい私」に出合おう。
トップス¥497,000(参考価格)、ネックレス¥85,000、パンツ・靴(ともに参考商品)/ロエベ ジャパン クライアント サービス(ロエベ) タイツ/スタイリスト私物

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まるで重力に逆らうかのように。オーガンジーのトップスには、たっぷりとフェザーが縫いつけられ、浮遊しそうな軽やかさを演出。同じく羽根をたっぷり飾ったヘッドバンドで空飛ぶ気分に。
トップス¥410,000、ヘッドバンド(参考商品)/エミリオ・プッチ ジャパン(エミリオ・プッチ) ネックレス¥8,000/OTOE

気持ちよく、自己解放

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重量感のあるニットにイギリスの家の壁紙から着想を得たペイズリー柄をプリントしたメンズのドレス。ノースリーブの本体に、スリーブのプルオーバーを重ねるデザインだ。過剰に長い袖が摩訶不思議なシルエットを形成。まるでサーカスの道化師になったような気分でまとえば自身の枠組みから放たれて自由になれる。
メンズの2ピースドレス¥155,000(参考価格)、靴¥78,000/三喜商事(JW アンダーソン) ヘッドピース¥24,000、フープピアス¥7,000/ジャンティーク 9連ネックレス¥1,364、ビーズロングネックレス各¥182/元祖仲屋むげん堂 参番組 タイツ¥2,500/ぽこ・あ・ぽこ

美の価値は自分で決める

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「ポヴェリーナ」と名付けられたシリーズのドレスは、ガーメントを解体し、異なるいくつかの服のパーツを継ぎ合わせて、新たなピースにアップサイクルするという考え方に基づき作られている。シフォンベルベットドレスは、前身頃部分をカットアウトし、ドット柄チュールを配した。スカーフと襟が融合し、ユニークなアクセサリーに。肌は自分の好きな色にペイントして。今までの美の価値を壊し、自分自身で再構築していくという気概を持って着こなしたい。
ドレス¥469,000(参考価格)、襟つきスカーフ¥123,000、リング(左手)¥54,000、(右手)¥42,000/メゾン マルジェラ トウキョウ(メゾン マルジェラ)

感情を揺さぶる色彩

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「精神のすみか」を’21年春夏のテーマに掲げたカイダン エディションズ。内面世界における自分遊びを表現した。ダブルフェイスのウールを用いたシャープなテーラリングのジャケット。そこに感情を揺さぶるケミカルカラーをのせて意表を突く。素肌に一枚で着て、体との化学反応を実験してみる。顔には花のペイントを施し、服を超えて全身をキャンバスにファッションを楽しんで。
ジャケット¥192,000、パンツ¥112,000(ともに予定価格)/THE WALL SHOWROOM(カイダン エディションズ)  イヤリング¥6,000/ジャンティーク

環境が変わる旅、自分を探求する旅

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今いる環境に溶け合わせるようにして、自身の姿を変化させる。そんな世界観を表現したマリーン セル。ボディラインを表出させるセカンドスキンのスーツに、アップサイクル絨毯を用いたベストを合わせた。ここではないどこか異世界を感じさせつつ、懐かしさとぬくもりの漂うスタイルが生まれた。
ベスト¥70,000、中に着たトップス¥36,200、レギンス¥42,000、ショーツ¥14,200、ジュエリー(参考商品)/MATT.(マリーン セル) 靴¥180,000/JIMMY CHOO(ジミー チュウ × マリーン セル)

Sayaのそばにある惑星のような球体は、セラミックアーティスト橋本知成の作品。手びねりで作り上げる空洞の球体に、複数の酸化金属を混ぜ合わせた釉薬を吹きつけ、本焼きする。その後作品を窯に入れ、蕎麦殻を投入。それが燃える炎や煙の効果で、偏光のような独特の光沢が生まれるという。「制作工程の中で、無心になったり煩わしくなったり、わくわくしたりと感情が揺れ動く。時間をかけて内面に向き合い、自己の探求をする感覚です」と橋本は語る。

左の詩は今回のテーマに合わせてSayaが書き下ろした。「装いは、ときとして自分を取り囲む社会と環境を映し出し、またときとして自分の内面を映し出す。服は2通りの意味での鏡なのです」とSaya。この詩は中央の線で鏡のように対になっており「私が私であることと、その私を見つめるあなたも、あなた自身をまるごと受け止められるように」という願いが込められている。

見え隠れする本心

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身を守るために繭を作るハチと、同じく危険から体を防御する養蜂家の服装から着想を得たケンゾーの’21年春夏。帽子から垂れたレースがニットドレスまでを覆う仕立てだ。ポジティブなイエローに守られつつ、レースの編み目からそっと外の様子をうかがってみる。どんなときもありのままの素顔をさらけ出す必要はない。ときには服に隠れて、自分の本心をしまったっていい。
帽子つきドレス¥131,000(参考価格)/ケンゾーパリ ジャパン(ケンゾー) イヤリング¥10,800/TORO バングル¥14,400/ル・シャルム・ドゥ・フィーフィー・エ・ファーファー(エー・ジェーン)

編み込まれた情熱

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既存のTシャツ約30枚をカットして糸にし、手編みでドレスに再構築。日本のブランド、pillingsのピースは、着るとよろけてしまいそうなほどの重量感。デザイナーの村上亮太は、「民族衣装の手仕事の工程に着想を得ました。無駄に見えることでも、その過程に祈りが込められたり、意味が加わったりする。そこに価値があると思うのです」と語る。傘も同様にシャツをテープ状にカットして編み込んで作製。「傘から機能を完全に抜いてしまいたかった」と語るとおり日光も雨も防げない。しかしここに込められた祈りは確かなオーラとなって持つ人、着る人の体を包み込むのだ。
ドレス¥166,000、傘¥88,000(ともに参考価格)/pillings

Saya Bellamy
モデル。日本とカナダにルーツを持つ。「自分は何者であるか」という問いに向き合いながら、ペイントや詩をインスタグラム(@sayapaintsnwrites)で発表し、世界中にファンを持つ。本企画のテーマ「Who am I」に賛同しモデルを務めるとともにp.29の詩も書き下ろした。


SOURCE:SPUR 2021年3月号「Who am I」
photography: Yuji Watanabe 〈Perle〉 styling: Fusae Hamada hair: Yusuke Morioka 〈eight peace〉 make-up: YUKA HIRAC 〈D-CORD〉 model & poem : Saya Bellamy flower: Alexander Jyulian ceramic art: Tomonari Hashimoto 

FEATURE
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