キス&クライから見える光景 / Shizuka Arakawa
Profile
荒川静香さん
プロフィギュアスケーター
1981年、神奈川県出身。日本スケート連盟副会長、プロフィギュアスケーター、解説者。幼少時代を過ごした仙台で5歳の頃にスケートに出合う。2004年3月に早稲田大学を卒業後も現役を続け、2006年のトリノ五輪ではアジア人女性で初の金メダルを獲得。その後、プロに転向し、各方面で活躍中。
「キス&クライ物語」のクライマックスを飾るのは、プロフィギュアスケーターの荒川静香さん。2006年に行われたトリノ五輪の女子シングルでは、アジア人選手として五輪史上初の金メダルを獲得するという偉業を果たしたオリンピアンだ。荒川さんは現役時代、観客席やテレビの前で見守る私たちとは、また違った印象をキス&クライに抱いていた。
「滑り終えた選手にとっては休憩所のようなもの。演技の際にすべてを出し尽くしているので、ここに座る頃には思考もままならないぐらいなんです。それよりも、アスリートを支える周囲の方々のほうが緊張しているのではないでしょうか。コーチは手に汗を握り、点数が出る最後の最後まで隣で見守ってくれていたので、滑った私よりも汗をかいていたなんてこともありました」
トリノ五輪のフリースケーティング「トゥーランドット」を滑り終えたあとの記憶は鮮明に残っている。
「私のチームは和やかでしたね。ショートプログラムを3位で終え、フリースケーティングはグループの最初のほうの滑走。あとの選手の滑りによって順位が確定するという状況でしたし、何よりも自分の出来がどうだったのかをキス&クライで振り返っていました」
2021年の世界選手権、ロシアのエリザベータ・トゥクタミシェワ選手がキス&クライで流した涙は印象に残る名場面だと荒川さん。
「同世代や若い選手が五輪で結果を残して引退していくなか、スケートを愛し、頑張り続けたのでしょう。いろいろな悔しい思いが彼女をここまで強くしたのだと思いました。スケートって面白いもので、経験を重ねた選手たちからは感情がにじみ出て、リアリティのある表現が生まれるもの。浅田真央さんを見ていてもそうですが、華やかな15、16歳のときよりも、引退する間際の演技は深みもあり、もっと見ていたいと思わせてくれる魅力がありました。キャリアを重ねれば重ねるほど熟成されていく、フィギュアスケートの面白さにも、ぜひ注目してくださいね」
※この特集中、以下の表記は略号になります。WG(ホワイトゴールド)
SOURCE:SPUR 2022年3月号「KISS&CRY物語」
photography: Saki Omi 〈io〉 styling: Tomoko Iijima hair: Koichi Nishimura 〈VOW-VOW〉 make-up: Asami Taguchi 〈Home Agency〉 model: Dinara, Emily, Elliott, Ksenia, Ora, Francesca, Hector, Senping flower direction: VOGEL edit: Michino Ogura