フィギュアスケートの競技会で、点数が出るまでの合間に選手とコーチが待機する場所「キス&クライ」。さまざまな感情が交錯するシーンは見ている私たちの胸を打つ。架空の大会を舞台に、モードに身を包んだ彼らの勇姿を見守ってみると……?
※この特集中、以下の表記は略号になります。WG(ホワイトゴールド)
異次元の得点をたたき出した、コズミック・ガール
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ネオプレン素材のバルーンドレスに身を包んだのは実力派のディナラ選手。スタイリッシュな宇宙を舞台にバスケットボールを楽しむポップなプリントは、彼女の演目の世界観を表現しているかのよう。高難度の構成で驚きのスコアをたたき出した宇宙一のクイーンに、今まさに優勝のクリスタルトロフィーが贈られようとしている!
シルバーメダリストは、多彩なテクニックを組み合わせた彼女に決定!
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若手有望株のエミリー選手はヒップホップに乗せたリズミカルなダンスで観客を魅了! 思いのほか高得点が出たことに喜びを隠せない。勝利色、赤のベルベットのセットアップに身を包んだコーチもこの表情に! ブランド創設100周年を迎え、フェスティブなムードのグッチで揃えた師弟の華やかさも、勝因のひとつ。
氷上のオペラのごとく、悲劇のヒロインを演じて
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向かうところ敵なし。スケート大国が誇る"ミス・パーフェクト"クセニア選手。このコンペティションでは小さなミスを連発し、トップの座を明け渡してしまうのか……? 勝負服はノットやリボンを配したジャンプスーツにプリーツスカートをレイヤードしたスタイル。その優美な仕立ては壮大なストーリーのヒロイン像にぴったり。
大物コーチ同士で情報交換に勤しむ
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キス&クライでは、あの名物コーチたちのゴージャスないでたちも注目の的。テレビカメラがまわっていないと思い、油断した彼女たちの様子は世界中のファンが目撃。エレガンスを体現するボディコンシャスなドレスに身を包み、エコファーやシルクサテンのボンバージャケットなど、ビッグシルエットとの対比を楽しむ。
コーチも思わず号泣。男子シングルの新世界王者に輝く!
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スケート大国の名コーチ、フランチェスカに師事して2年。アジアが誇る新世代のヘクターはついに強敵を破りトップに躍り出る。ラッフルをあしらったブラウスに薔薇が咲き乱れるパンツを組み合わせたロマンティックなスタイルに世界も熱狂! 待ちに待ったスター誕生の瞬間に、コーチも思わず立ち上がった。
自国開催で悲願を果たせ! ブラック&ホワイトのドレスで挑む
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彼女の演技をたたえるべく、ファンたちは愛らしいパンダをアイスリンクに投げ込む……。スター選手センピンは大好きなキャラクターに囲まれてホッとひと息。大事な試合には緊張感のあるモノトーンでのぞむのが彼女流だ。自己ベストに感極まる涙、その可憐な横顔をダイヤモンドが連なるピアスが彩っている。
異彩を放つ二人がカップル競技を牽引する
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氷上のランウェイとも呼びたくなるほど、アイスダンスのコスチュームは個性的。装いを自由なスピリットで楽しむ二人は、スパングル&マーブリングのサイケデリックなスタイルでキス&クライに現れる。既成概念にとらわれないジャンプスーツやニットパンツを選ぶ彼ら。カップル競技の未来はジェンダーの垣根も軽々と越えていく。
キス&クライから見える光景 / Shizuka Arakawa
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Profile
荒川静香さん
プロフィギュアスケーター
1981年、神奈川県出身。日本スケート連盟副会長、プロフィギュアスケーター、解説者。幼少時代を過ごした仙台で5歳の頃にスケートに出合う。2004年3月に早稲田大学を卒業後も現役を続け、2006年のトリノ五輪ではアジア人女性で初の金メダルを獲得。その後、プロに転向し、各方面で活躍中。
「キス&クライ物語」のクライマックスを飾るのは、プロフィギュアスケーターの荒川静香さん。2006年に行われたトリノ五輪の女子シングルでは、アジア人選手として五輪史上初の金メダルを獲得するという偉業を果たしたオリンピアンだ。荒川さんは現役時代、観客席やテレビの前で見守る私たちとは、また違った印象をキス&クライに抱いていた。
「滑り終えた選手にとっては休憩所のようなもの。演技の際にすべてを出し尽くしているので、ここに座る頃には思考もままならないぐらいなんです。それよりも、アスリートを支える周囲の方々のほうが緊張しているのではないでしょうか。コーチは手に汗を握り、点数が出る最後の最後まで隣で見守ってくれていたので、滑った私よりも汗をかいていたなんてこともありました」
トリノ五輪のフリースケーティング「トゥーランドット」を滑り終えたあとの記憶は鮮明に残っている。
「私のチームは和やかでしたね。ショートプログラムを3位で終え、フリースケーティングはグループの最初のほうの滑走。あとの選手の滑りによって順位が確定するという状況でしたし、何よりも自分の出来がどうだったのかをキス&クライで振り返っていました」
2021年の世界選手権、ロシアのエリザベータ・トゥクタミシェワ選手がキス&クライで流した涙は印象に残る名場面だと荒川さん。
「同世代や若い選手が五輪で結果を残して引退していくなか、スケートを愛し、頑張り続けたのでしょう。いろいろな悔しい思いが彼女をここまで強くしたのだと思いました。スケートって面白いもので、経験を重ねた選手たちからは感情がにじみ出て、リアリティのある表現が生まれるもの。浅田真央さんを見ていてもそうですが、華やかな15、16歳のときよりも、引退する間際の演技は深みもあり、もっと見ていたいと思わせてくれる魅力がありました。キャリアを重ねれば重ねるほど熟成されていく、フィギュアスケートの面白さにも、ぜひ注目してくださいね」
※この特集中、以下の表記は略号になります。WG(ホワイトゴールド)
SOURCE:SPUR 2022年3月号「KISS&CRY物語」
photography: Saki Omi 〈io〉 styling: Tomoko Iijima hair: Koichi Nishimura 〈VOW-VOW〉 make-up: Asami Taguchi 〈Home Agency〉 model: Dinara, Emily, Elliott, Ksenia, Ora, Francesca, Hector, Senping flower direction: VOGEL edit: Michino Ogura