やわらかなアティチュードに惹かれて。このメンズブランドが着たい

脱マッチョイズムともいうべき、可愛さを感じさせるメンズブランドがモード界を牽引している。ジェンダーイメージを拡張するクリエーションの潮流を知るとともに、リアルにまといたいブランドにフォーカスする。

EGONlab

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ジャケット€840・スカート€470・パンツ€420/イーゴンラボ ヴィンテージのインナー¥10,780/TORO パームカフ(シルバー)¥90,200・(ゴールド)¥103,400(ともに参考価格)/THE WALL SHOWROOM(ラッツェル アンド ウォルフ)

イーゴンラボは、若手ブランドの登竜門として知られるANDAMファッション・アワードで2021年にピエール・ベルジェ賞に選出された注目株。シグネチャーのスーチングはクラシックな男性服でありながら、シャープなカッティングとシェイプされたウエストがひねりを加える。パンツに重ねたプリーツスカートは、ボーダーレスな感性とも共鳴。"Rules are made to be broken"というコンセプトのもと、アヴァンギャルドなスタイルを提案する。

※この特集内、€1=約140円です(9月1日現在)。

MASU

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ニット¥37,400・シャツ¥39,600・パンツ¥85,800・チャップス¥41,800・マフラー¥33,000/MASU

2017年に設立した日本の新進ブランドである、MASU。繊細なディテールや造形を通して、新たな人物像を提示してきた。「特定の記号に他者を当てはめたり、決めつけることはしないようにしています。大切なのは自分自身という存在を認識して誇ること」と語るのは、デザイナーの後藤愼平。ベースは彼を少年時代から魅了し続けるアメリカンヴィンテージ。それに美しさとユーモアをプラスしたクリエーションに、彼の想いは如実に表れている。カウボーイやバイカーが着用するパンツカバーのチャップスを日常に落とし込み、その奥にはレースカットが施された深紅のスエードパンツをのぞかせた。異なるイメージのレイヤードで装いに奥行きをもたらしたい。

MARGN

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ベスト¥24,500・パンツ¥29,700/マージン インナー¥15,950/エイチ ビューティ&ユース(ヴァニティ ナップ) ブレスレット¥155,000/エドストローム オフィス(シャルロット シェネ)

マスイユウさんも「海外でファッションを学んではいないのに、モードなデザイン性の高さがいい」と評するマージンは、Ranjit YadavとSaurabh Mauryaのデザイナーデュオが2020年にスタート。着想源とするのは、工芸品に囲まれながらインドの田舎町で過ごした幼少期。現地の女性スタッフが作る手編みのニットウェアを中心に、農家や学生が着る衣服をルーツとしたアイテムを発表。ジェンダーとアイデンティティに対する価値観に疑問を投げかける。デザイナー自身が"HUMAN WEAR"と定義するコレクションは、性差を超えてすべての人の心身にフィットするはずだ。

マスイユウが考察する、メンズモードの現在地

ソフトテーラリングもフリルもスカートも。「好きなものを好きなように着る!」が、今の時代の合言葉。

ウィメンズウェアの要素を引用するブランドが増えている

昨今のメンズコレクションを見ていると、ソフトテーラリングに代表されるやわらかいクリエーションを強調するブランドが増えましたね。あのディオール(1)ですら、ムッシュ ディオールのニュールックにインスパイアされたジャケットを今季初めて披露したくらい。フェンディ(2)が今季の秋冬コレクションで裾をバッサリとカットしたクロップドジャケットを提案したように、肌の露出度も高くなっています。これまでウィメンズウェアで用いられることが主だったレースやオーガンジーのような素材を多くのメンズブランドが積極的に使うようにも。服そのものがフェミニンなムードに向かっているというよりは、一部にウィメンズに由来するディテールを取り入れることで、表現のあり方を広げている印象です。

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1 メンズ アーティスティック ディレクターのキム・ジョーンズは今季、構築的なシルエットの「バー」ジャケットを初めて男性用に落とし込んだ 2 メンズシーンでは珍しかったクロップドジャケットを発表

このムーブメントの源泉はロンドンカルチャーにあり

さかのぼれば、JWアンダーソン(3)はこの潮流の基礎をつくったデザイナーといえます。ワイドパンツに大きなリボンをつけたり、ショーツにフリルをあしらったり。2013年時点ですでにウィメンズコレクションもローンチしていて、双方で共通のシルエットを採用することもありました。ただ彼がつくり上げる世界観がほかと決定的に違っていたのは"女装"ではなかったところ。彼はメンズウェアという枠組みの中で絶妙なバランスを保っていたんです。マーティン・ローズ(4)もキーパーソンのひとりで、彼女も早くから性別はもちろん肌の色や体型、年齢というボーダーを超えた提案をしていましたよね。近年だとステファン・クック(5)やチャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ(6)にも同じ流れを感じます。もともとスコットランドの伝統衣装として愛されたキルトスカートが後にパンクカルチャーと結びついたように、古くからアンチテーゼの精神があったイギリス、特にロンドンで経験を積んだ彼らが現在のスタイルにたどり着いたのは、必然のように思えますね。

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3 2013年時点でメンズコレクションにフリルのディテールを取り入れていた 4 インクルージョンなクリエーションは今季も健在 5 ジョン ガリアーノやクレイグ グリーンで経験を積んだステファン・クックとそのパートナーが手がけるロンドンブランド 6 インスピレーション源は、2000年代初頭のロンドンのクラブナイト 

今マークすべきブランドとは?

最近惹かれたのはアイレイ(7)。2022年度のLVMHプライズでセミファイナリストに選出されたLA発のブランドなのですが、透けるほどに繊細なオープンニットに見られる細やかな作り込みはどこか日本のクリエーションに通じるものを感じます。昨年のLVMHプライズでカール・ラガーフェルド賞を受賞したキッドスーパー(8)も面白いし、ソフトテーラリングを軸にロマンティックな色使いを得意とするフェデリコ・チナ(9)やマリアーノ(10)も好きなんですよね。そう考えると若いデザイナーたちの間では固定観念にとらわれない物作りの流れはより顕著。さらに次の世代を担うセントラル・セント・マーチンズの学生たちが当たり前のようにメンズモデルにドレスを着せていることを考慮すれば、このムーブメントが止まることはないと断言できます。

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7 ドーバー ストリート マーケット パリのショールームがサポートする新星 8 手がけるのはアーティストのコルム・ディレイン。ニューヨークのアンダーグラウンドヒップホップシーンで支持を集める 9 ソフトテーラリングはもちろん、プレゼンテーションでは女性モデルも多用するフェデリコ・チナ 10 サルトリア仕込みのテーラリングと、さりげない遊び心が光る

価値観の多様化とともに、ついにメインストリームへ

でも実際のところ、ファッションのボーダーレスな価値観は以前から存在していたのですよね。音楽シーンでニューロマンティック(11)が流行していた80年代には、装飾的な服やヘアメイクを皆思いのままに楽しんでいたし、2000年代前半のクラブムーブメントでは男性もドレスアップして繰り出していた。それこそ、フェティシズムなどある意味タブー的な要素をラグジュアリーシーンに持ち込むことで今の流れを牽引する存在になったスタイリストのロッタ・ヴォルコヴァ(12)も、僕らと同じ時代に遊んでいたんです。そういうシーンにおいては、もとからメンズもウィメンズも関係なく着るのは当たり前でしたが、あくまでもコアなファッショニスタだけの感覚だったと思います。でも今は、ダイバーシティやボディポジティブといった価値観の広がりに後押しされる形でかつてないほどのメインストリームとなり、ビッグメゾンまでもがその影響を受けている。より表現の幅が広がったメンズブランドを通して、自由に装いを楽しめたらいいですよね。

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11 80年代に一世を風靡したニューロマブームの中心といえば、デュラン・デュラン 12 ヴェトモンやミュウミュウといったトップブランドのスタイリングを手がけるロッタ・ヴォルコヴァも、クラブカルチャーの中で感性を育んだ

Profile
マスイユウさん
浜松市出身。ロンドンの伝説的なショップであるザ パイナル アイなどでバイヤーとして活躍後、ジャーナリストに。SPUR.JPではコラム「Yuは何しにこの国へ?」も連載中。

ときめく、メンズウェア

デザインからファブリック、ディテールにまで見られる、肩肘張らないアティチュードの表現。世界中のブランドから胸躍る一着をチョイス。

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I / S.S.DALEY

LVMHプライズ2022のグランプリを受賞した要注目ブランド。英国パブリックスクールの制服をベースに刺しゅうやプリーツ、カットアウトといったロマンティックな要素をブランド設立当初から取り入れてきた。マニッシュなツータックのワイドパンツをサテン素材で仕立て、ドレッシーに。

パンツ¥88,000/ブレス・バイ・デルタ(エス・エス・デイリー)

II / SHINYAKOZUKA

シンヤコヅカが掲げるのは、"すべての物事は明瞭である必要はない"というコンセプト。今シーズンのサブテーマのひとつである"FAVORITE ONE WAY"を反映したジャンプスーツは、ウエスト部分のジップをはずせばジャケットとパンツそれぞれ単体での着用が可能。装いに合わせてアレンジを。

ジャンプスーツ¥69,300/THE WALL PR(シンヤコヅカ)

III / fluss

襟の内側に愛らしいカラーコンビネーションの手編み模様が施されて。ベーシックなドライバーズニットは、女性もジャストサイズで着られるほどにコンパクトなシルエットが魅力。セントラル・セント・マーチンズのニット科を卒業したデザイナーのフレッシュな感性が、メンズウェアに新たな息吹を吹き込む。

ニット¥79,200/フルス

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IV / Stefan Cooke

モダンアートに影響を受けた色使いとラインを美しく見せるディテールワークで、伝統的な英国服を刷新するステファン・クック。がま口バッグは、設立初期から継続してリリースされるシグネチャー。小ぶりなボディとふたつのハンドルが描く曲線美にエレガンスが宿る。

バッグ〈H16×W23×D6.5〉¥144,100/アンフォロー 東京(ステファン・クック)

V / Séfr

もともとはスウェーデンのマルメに店を構えるヴィンテージショップとしてスタートしたセファ。そんなバックグラウンドを感じさせるノスタルジックな小花柄のシャツを、ニュートラルな色使いとクラシックなカットでスマートにアップデート。柔らかなビスコースシフォン生地から、素肌が繊細に透ける。

シャツ¥49,500/サカス ピーアール(セファ)

VI / SCHNAYDERMAN’S

シャツをブランドのシグネチャーとするシュナイダーマンからは、軽快なコットンポプリン生地を使用したリラックスシルエットの一枚を。クリーンなボディの上をゆらめく同色の"NON-BINARY MOTION STITCH"と名付けられた流線的なステッチデザインが、繊細な表情を演出する。

シャツ¥28,900/ストック(シュナイダーマン)