海外から訪れた人に、その素晴らしさを体感し、自国でも伝えてほしいファッションプロダクトは何だろう。私たち自身も改めて向き合いたい日本の美意識が息づく銘品を集めた。
01 マメ クロゴウチのドレス
デザイナーの黒河内真衣子が、日本人の暮らしに古くから関わる竹籠に魅せられ生み出した、春夏コレクション。伝統的な技法で表現する、竹ひごのような繊細な柄が特徴だ。羽二重のシルク生地に、簾絞りや竜巻絞り、杢目段違い絞りといった多様な有松の絞り染めが施されている。袖口のミントグリーンは竹林、全体のブラウンのグラデーションは囲炉裏の煙に炙られ変色した煤竹が着想源。
02 カナコ サカイのコート
不規則なブルーの濃淡が美しいトレンチコート。この色合いは、京都の職人による手作業での染色の賜物だ。"SUMINAGASHI"というシリーズ名の通り、かつて平安王朝の貴族たちが楽しんだという墨流しから着想を得ている。実際には、水槽の中に染料を垂らし、筆で柄を描く"墨流し染め"に加え、生地に刷毛で直接柄を描く"ぼかし染め"を組み合わせて仕上げる。一点一点表情が異なるアートピースのようなコートだ。
03 プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケのスカート
1970年代から国内の職人や工場と強く連携してものづくりを続けた故三宅一生。彼が’88年頃からプリーツの開発に着手し、6年の歳月をかけて最適な糸や素材を探し求めた結果、誕生したのが同ブランドだ。今年、その歴史は30周年を迎える。最新色のイエローのスカートは、サイドの深いスリットが現代的。コンパクトに畳めて手入れも簡単なので、旅のお供やギフトにぴったり。
04 ノワール ケイ ニノミヤのシャツ
二宮啓が手がけるコム デ ギャルソンブランドから、アイコニックかつシンプルな一枚を。透ける素材を多用した、クチュールライクなものづくりが特徴だ。コットン仕立ての白シャツも、胸下からウエストにかけてのチュールの切り替えに、このブランドらしさが光る。2023年春夏のランウェイで提案されたように、シャツの上に、デザイン性の強いユニークなアイテムの重ね着を楽しむのもおすすめ。
05 ワイズのオーバーオール
珍しい染めの表現が目を引くオーバーオール。日本のクラフツマンシップとワイズの感性が組み合わさり、生まれたモダンなワークウェアだ。全体に用いているのは、白地のコットンにポリエステルの白糸でピンストライプを描いた生地。両膝下部分のみ、藍色で後染め加工を施している。その際、性質上染まらないポリエステルの細い線だけが白く残り、ストライプ柄として浮かび上がる仕掛けがモードなフックとなる。
06 サカイのパンツ
数々の代表作を生み出したプリーツの技法をアップデートした最新作。身につけると裾のプリーツがシューズを覆うように広がるフレアパンツだ。2023年春夏のパリ・コレクションのランウェイでは、さまざまなテキスタイルで表情を変えてこのシルエットが登場。正面のフラワープリントは、ウエストから裾にかけて花のサイズが大きく変化し、背面はブラックのリブニット仕様。大胆なデザインとストレスフリーなはき心地を両立する。
07 エイトンのフーディ
シグネチャーアイテムの新色は"KYOTO INDIGO"。沖縄産の琉球藍を、京都にて手作業で本藍染色している。さらに松の煤を使った染めを施し、日没後の海のような深いブルーグリーンに。ジャージ素材は、和歌山で太番手の糸を通常のスウェットの倍程度の密度で編み上げている。耐久性を高めた生地に、さらにしっかりと洗いをかけ、洗濯の際にフーディを乾燥機にかけても縮み知らずという秀逸さ。
08 コウタ グシケンのニット
これまで発表してきたウェアはすべてジャパンメイドという、気鋭ニットブランド。昨年、デザイナーの具志堅幸太が京都で行なった、糸を使った作品展に着想を得て生まれたのが今季のコレクション。この長毛ニットは国内の手編み職人の力を借りて完成した。「出来上がりを見てなぜかロンドンを思い出した」という、セントラル・セント・マーチンズ出身のデザイナーらしいルーツも感じるアイテムだ。
09 WMVのブラウス
ポップなタッチで描かれた雌雄の鶴は、古い着物がインスピレーション源。強撚レーヨンのちりめん生地が適度な厚みとドライな肌ざわりを生んでいる。ドレープが活きるドロップショルダーのポンチョ型デザイン。後ろに落ちるような襟のシルエットは、襟を抜いた着物を連想させる。生地づくりから縫製まですべてを日本で行なっている姿勢から、このブランドの確かな信念が感じられる。
10 シオタのデニム
岡山県は海外のメゾンも生産を依頼するデニムの聖地。世界トップ水準の高品質なデニムは、この地で長らく続く縫製工場・生地製造販売会社から生まれたブランド、シオタのお家芸だ。スリムシルエットの5ポケット型は1940年代のアメリカンジーンズのスタイルに倣ったもので、ムラ糸と超長綿のスビンコットンを使い分け、旧式のシャトル織機で生産している。ヴィンテージフリークも納得の独特の風合いだ。
11 ラストフレームのニットバッグ / 12 ブンザブロウの絞りバッグ
(右) ポリエステル糸を撚り合わせて編み、もっちりとした肉感に仕上げたラップバッグ。レトロモダンな市松模様はインターシャ編み。この表現のために国内に数台しかないという特殊な機械を稼働している。縦には伸びにくいので型崩れしづらく実用的。和装の帯のようなハンドル部分のデザインも手伝って、どこか"用の美"の精神が感じられる逸品。
(左) 100年以上の歴史を持つ京都・烏丸の老舗呉服店から生まれたブランドの十八番が、着物の染めにも用いる"絞り"という手法。ポコポコとした独特のフォルムはビー玉を型に入れて絞った形状が基になっている。発色はあくまでコンテンポラリーというバランスが何とも粋。二重構造のため形が崩れにくく、日本製のポリエステル素材で水洗いできる。
13 エンダースキーマのレザートート / 14 アエタのレザーバスケット
(右) 2枚のカウレザーから成るごくシンプルなトートバッグは、設立時から今も変わらず浅草を拠点とし、"ニュークラフト"を掲げてものづくりを続けるこのブランドの定番モデル。3つのサイズがある中で、もっとも大きいこの"ラージ"はA4サイズの書類やPCも収まる汎用型。東京・合羽橋にある直営店ではハンドル部分に刻印が施せるというオプションも。
(左) 世界各地で出会った景色や人から着想を得てクリエーションに落とし込む。"逢えた"の言葉に由来するブランド名は、そんな姿勢を表している。このバッグは地中海の島で触れた天然素材のマルシェカゴをベースに、素材をレザーに置き換えたもの。使う季節やテイストが限定されがちなカゴバッグをシーズンレスに楽しめるようアレンジしたのも、日本ブランドならではのアプローチ。
15 アンチショルドのウェッジサンダル
浅草を中心とした工房の協力の下、上質な製靴を行うアンチショルド。代表作の"マルタ"というウェッジサンダルシリーズより、ホースレザーにチェック柄をのせたキャッチーな一足をセレクト。フットベッドもホースレザー、ライニングはピッグ、ソールはカウと、部位によって違う素材を使用。日本の職人の審美眼が素材選びに活きている。
16 タオのビーチサンダル
タオが日本人作家と初の共作。アーティストSHUN SUDOの代表作"ボタンフラワー"のグラフィックにドットを融合したプリントが目を引く。スクエア型の板からサンダルを繰り抜く仕様もユニークだ。足型から鼻緒の製作までをすべて手作りで行うTSUKUMO社製。1950年代に日本で生まれたビーチサンダルの製法を改良し続けている企業との協業で、履き心地も期待できる。
17 オニツカタイガーのレザーサンダル
海外のモード好きからも人気を博するオニツカタイガーは、70年以上の歴史がある日本発のファッションブランド。今シーズン、直球で和を感じさせる雪駄タイプは特にアイコニックだ。ソールの構造はスニーカーに近く、クラシックながらも快適な履き心地を実現。裁断、縫製、ソールの加工、成型などの製靴工程はすべて国内で行われている。
18 フォートのウッドつきサンダル
ブランドの真骨頂でもあるウッド×レザー のコンビネーション。目を引くラウンドモチーフのパーツは積層したプライウッドで、日本の家具職人との協業により制作したもの。呼吸する天然素材の組み合わせと曲線的なシルエットで、肩の力は抜きつつも洗練された佇まいに。繊細なバランスやエッジの美しさが損なわれていないのも、デザイナーがこだわる日本生産の現場の技術があればこそ。
19 アンブッシュ®のチョーカー
ブランドの核となるジュエリーは、日本ならではの繊細なものづくりの精神に共感し、すべてジャパンメイド。ハート形の南京錠モチーフを連ねた、ほんのりパンクなチョーカーは、オールジェンダー向け。留め具となっている金色のピースが、アクセントとしてきいている。デザイナーのYOONは、ディオール オムのジュエリーデザインを手がけていることでも広く知られる。
20 ボロロのリング
天然のアメシストの美しさをそのまま手もとに添えるようなイメージで作られたミニマルデザイン。石と地金を貼り合わせてから同時に磨く伝統技法によって、リング全体のなめらかな一体感が生まれている。手がけるのは、詫間宝石彫刻。日本で唯一、特殊工芸品と認定される甲州水晶細工の歴史をつなぐ伝統工芸士集団だ。彼らとの出会いにより、ボロロの自由なアイデアや斬新なセッティングがかなえられている。
21 エミカ コムロのブローチ
彫金や七宝技法を主に用いる作家、小室えみ香による一作。国産の釉薬と道具にこだわり、制作を続けている。ブローチは自身のドローイングを元に作る一点もの。彼女が心惹かれた稲穂の美しさを表現した。二色性の釉薬によって、蛍光灯の下では緑色に、白熱灯の下ではマスタード色に輝く。奥行きのある色合いと揺れるような形で、稲の実りの美しさを見せている。
22 シハラのリング
正八面体のラフダイヤモンドが、シャープな長方形のシグネットリングにセットされている。ダイヤの全貌がリングの上下からのぞく斬新な作り。石の表情も、クリアで実にモダンだ。シハラのジュエリーのグラフィカルな形状は、すべて日本の職人技術によりハンドメイドで生み出されている。好みの形やサイズのルースダイヤを選べる、セミオーダーモデル。
23 シリシリのバングル
有機的なカーブを描くバングルに、ブルーグレーの色彩で輝く螺鈿。漆器などでよく見られる、貝殻の真珠色に光る部分を使った装飾技法だ。日本では奈良時代に中国から輸入され、江戸時代に流行したとされている。SIRI SIRIでは蒔絵作家により、一枚の貝で螺鈿を表現。薄さ0.1㎜以下の貝シートの背面に調色した国産の青漆を使用している。伝統技術とモダンな感性が織りなす、繊細で上品な逸品。
24 ブブンのピアス
ガラス工芸の技術をベースに、山梨の工房で一つひとつ手仕事で制作されたガラスの粒を連ねたピアス。2017年から発表を続ける"organ(=器官)"シリーズの最新作だ。人の体の新しい器官のように、静かにそっと寄り添うデザインが特徴。小さな組織が集まって体が構成されているように、ピアスも小さな粒を集合させ大きなピースに見せている。糸で編み上げて弾力性を生み、簡単に割れないような配慮も。
25 アンダーカバーのポーチ
毎シーズン趣向を凝らしたモチーフがフィーチャーされる転写プリントのPVCポーチは、デザイナーの高橋盾の遊び心とパンクスピリットを両方感じられる人気のシリーズ。レモンティーが注がれたカップとソーサーは、どこか昭和レトロなムードも漂う。マチなしでかさばらないから、懐にさっと小粋に忍ばせて、さながら小津映画のようにクラシックな洒落者を気取りたい。
26 ブルーブルージャパンのネクタイ
白いシルクタイはふっくらとしたニット生地なのでカジュアルにつけやすく、日の丸印を軽妙洒脱に魅せてくれる。生産は糸の染めから編みまで、すべてが国内。日出づる国をモダンに表現した、生粋のメイドインジャパンと呼べるアイテム。裏側に"ARIGATO"のネームが入るのもお決まりの仕様だ。ほかに、ブランド名の通り日本古来の本藍染めにこだわるアイテムも多く出している。
27 ババコのソックス
細く柔らかいラメ糸を使ったハイゲージソックス。品のよい光沢と、さりげない透け感がハイセンス。優れた技術を持った日本国内の工場で素材の繊細さを活かして作られている。指の部分は足袋型になっていて、つま先の上の部分は目をしっかりと揃えながらハンドリンキングで仕上げるというこだわりよう。見た目のなめらかさはもちろん、足あたりのよさも格別だ。
28 キジマ タカユキのハット
代官山のアトリエにて手作業でのものづくりを貫く、言わずと知れた人気ハッター。ブリムとクラウンがなだらかにつながるバケットハットは、太めの紐状のラフィアとスイス製のレーヨンを使って作られたもの。職人が一つひとつ、専用のブレードミシンを踏んで編み上げているため、質の高さは折り紙つき。濃淡のグリーンのバイカラーも春夏の日差しによく映える。
29 イエローズプラスのアイウェア
イエローズプラスの製品はすべて日本製。メガネ産業の重要エリア、福井県鯖江の職人たちとの協業によって、デザイナーが描いたフォルムをミリ単位まで正確に表現している。今また新鮮な、大ぶりのスクエアタイプのメタルフレームは、2種類のチタン素材を組み合わせ、剛性としなやかさを両立。さりげない彫金による柄の細工とテンプルにあしらったブルーがモダン。
30 CFCLのボディスーツ
ニット生産に特化した日本の工場で、特殊なホールガーメント編機を使って作る無縫製のボディスーツ。糸まで国産で、リサイクルポリエステルを主原料にしたサステイナブルなこだわりもCFCLらしい。布帛とは違い、ほとんどゴミを出さないコンピュータープログラミングのニッティングは、ブランドが設立当初から積極的に採用する手法。シンプルなデザインに宿る、現代日本から世界を見据えたものづくりに注目。