国外のモードラバーや、デザイナーがこぞって足を運ぶほど、世界有数の質とセンスを誇る東京のヴィンテージショップ。個性あふれる店の魅力や、これからの古着のあり方について深掘りする。
それぞれ異なるジャンルを取り扱う3人のショップオーナーが最新のヴィンテージ事情や今後の展望について、徹底トーク!
アメリカで古着のバイヤーからキャリアをスタート。2016年には実店舗を構えた。マルタン・マルジェラや、フィービー・ファイロが手がけたセリーヌの取り扱いをいち早く始めた。
アンティークからメゾンの稀少なアイテムまで、ファッションをこよなく愛する人から熱い支持を得るショップオーナー。ヴィンテージを再構築したリメイクアイテムも人気を集める。
南青山のセレクトショップL’ECHOPPEのバイヤーとして活躍後、2022年にBOUTIQUEをオープン。ほかには、ウィメンズブランドJ.B. ATTIREのディレクターとしての顔も持つ。
BAY Apt. 安立大助さんを象徴するアイテム
「自分が影響を受けたデザイナー、マルタン・マルジェラとフィービー・ファイロのコレクションは永遠に語り継がれてほしいと思っています。それをコレクションするだけでなく、着続けて次の世代にバトンタッチしてほしいです」
EVA fashion art 宮崎聖子さんを象徴するアイテム
「キラキラとまばゆい輝きを放ち、思わず手に取ってしまうようなアイテムが好きです。現代ではなかなか作ることが難しい装飾のある服や、クラシックとモードが両立した服にも惹かれます。時代が変わっても、揺るぎない魅力があるのではないでしょうか?」
BOUTIQUE 金子恵治さんを象徴するアイテム
「一見地味だけど、ストーリーを知ると魅力的に見えてくる。そんな服や小物を買いつけるようにしています。でもその付加価値は買い物の最後にこっそりと伝える。まずは服の魅力をご自身の尺度で捉えてもらえたらうれしいです」
ネットで買える時代だからこそリアルショップの魅力を再確認
宮崎さん(以下M) こうしてオーナー同士で交流することってめったにないので、とても不思議です。お二人はもともと面識があったんですか?
金子さん(以下K) 実は何度かBAY Apt.さんにお伺いしたことがありまして。客として遊びに行っていたので、ちょっと照れますね。
安立さん(以下A) 僕からするとファッション業界の第一線で活躍されている先輩なので、逆にすごくワクワクしています(笑)。BOUTIQUEを始めたのはいつ頃からですか?
K 1年半前ぐらいですかね。
A SNSでほとんど投稿していないので、ミステリアスな印象があります。何か意図があるのですか?
K 何が置いてあるか、足を運んで初めて知る楽しさを知ってほしいんです。敷居の高いお店でありたい。ドアを開ける前にドキドキするお店って、最近少なくなったと思うんです。
M それがリアルショップの醍醐味ですよね。EVA fashion artは今年で20周年。時代に合わせ、セレクトをアップデートしたり、お店のあり方は変えつつ、軸はブレないようにしています。
A 20年……! すごいですね。
M お二人のようにオープンして数年の頃を思い返すと、お店づくりが楽しくてワクワクしていたな、といろいろとうらやましく感じます。
最近のヴィンテージショップのスタイルや、運営方法に変化を感じることはありますか?
A コロナ禍以前、以後で変わったと思います。まずリアル店舗を持たず、オンラインのみで運営するショップが増えたこと。これが一番大きいかな。
K そして、たまにポップアップショップを開く流れが根づきましたよね。
M 気軽に始められるのはすごくよい機会ではあるけれど……。
M・K・A 接客できないのがもったいない!
K 本当にこれに尽きますよね。ネットで簡単にポチッと買うのと、アイテムの歴史や背景をスタッフに教えてもらって、この場でしか出合えない! って運命を感じて購入するのとでは、愛着がまったく違う。
A 僕も店を構える前はポップアップショップを開いていましたが、直接対話をしないと、お客さまが何を求めているか読み取りにくいことがわかったんです。もともとは古着のバイイングをしていて、接客経験がなかったため、直接話すことが楽しくて仕方ないです。
K 以前、安立さんが接客されている姿をお見かけしたとき、うれしそうな顔をしていたのが印象的でした。これぞ実店舗を持つ魅力の一つですよね。
M 愛を持って買いつけたものがどうお客さまに渡るのか、直接見られるのは幸せですよね。そういえば、私が最初にBAY Apt.を知ったきっかけは立地なんです。“新木場にお店を構えるんだ!”って驚きました。場所を選んだ決め手はなんだったんでしょうか。
A ゆっくり買い物を楽しんでいただきたいし、服がよく見える空間をつくりたくて。結果、ご家族連れやワンちゃん連れもたくさんいらっしゃる空間になって、本当によかったです。
“アーカイブス”という言葉を安売りせず、慎重に扱う
デニムやメゾンブランドのヴィンテージは、投資対象としての価値を見出されることも。これについて、皆さんはどう思われますか?
M 収集品としてヴィンテージを好む方は昔から多かったのですが、よりいっそう盛り上がっていますよね。
A 特に1990〜2000年代のデザイナーズブランドの人気が高い。これらのアイテムを“アーカイブス”と謳うお店も増えてきています。この単語って凄まじい説得力があるんですよね。メゾンがよく使うし、いかにも“大切に保管しなくてはならない稀少価値が高いもの”という印象を与える。もちろん正しい側面もありますが、よくも悪くも、その影響が強く働きすぎる場面があると思うんです。最近目立っている、過剰に高額な値つけもそれが原因の一つと考えられます。
K 簡単に言えるけど、安易に使うと危険な言葉ですよね。
A まったく同意です。だから自分はなるべく“アーカイブス”という言葉は使わないように心がけています。
M 汚れや傷がない、完璧な状態を求められているのも、個人的には悲しい。それで価値が落ちたり、買いつけをやめようと思ったりしたくなくて。だからEVA fashion artでは15年ほど前から、オリジナルのリメイクアイテムを作っています。
一点ものの魅力があってこそ、 ヴィンテージには付加価値がつく
K 早い段階から、ヴィンテージのリメイクをされていましたね。
M もともと古着店って“オリジナルに忠実かどうか”が重要だったんです。でも、そこから漏れてしまったものにも可愛くて、魅力的な要素がたくさんある。それを紡いで、新しい形に生まれ変わらせることが好きなんです。
A 僕の店では、ほつれなど直せるところは直し、正直にお伝えしています。傷や汚れがあるだけで、素敵な服や小物を見捨てるなんてできない。
K 僕も隠さずに伝えるタイプ。でも逆に、そのほうがユニークに見えることってありませんか? たとえばリーバイスの501XX。わざと裾をスリムに加工した跡が残っていたら、付加価値として紹介します。僕のお客さんはそれを面白がってくれる方が多くて、むしろ人気なくらい(笑)。
M どのアイテムにもストーリーがあり、それぞれの魅力がありますよね。
K 僕は服が持つ物語性を伝えることを武器にすることが多いんです。もともとセレクトショップのバイヤーだったので、ある意味すべての服をフラットな視点で見ているからかもしれません。
A 最近はこれがはやっている、これが売れるというブランドやアイテムに集中しすぎて、お店の自慢大会になってしまうことも。金子さんの話を聞いて、トレンドに振り回されず、売り手側が強い意志を持って、ブレずにいるべき時代に突入していると思いました。
日本は世界でも有数のヴィンテージ大国として海外でも知られています。訪日観光客が多く訪れたり、デザイナーがヒントを得るためにリサーチで店舗を回ったりもしていますよね。
M コロナが落ち着いて、再びこの流れが戻ったと思います。日本はヴィンテージウェアの量も多いし、とにかく質がいいと言われていますね。
K 円安の影響もあり、海外の方に買い占められているケースを多く聞きます。国を問わず、どのお客さまも平等ですが、このままだと日本に良質なヴィンテージがなくなってしまうという危機感も持たなければいけません。
A 少し前までヴィンテージショップにあったものが、数十年後には美術館に飾られていて、手が届かなくなる可能性も。それは絶対に避けたいですね。
M まったく同意です。だからこそ、よいショップがどんどん増えてほしいと思いますね。高いものばかりではなく、ヴィンテージが好きになるファーストステップとなる安価なアイテムも置く。まずはきっかけづくりから!
ヴィンテージとの距離が遠くならないため、工夫が必要
今後もヴィンテージショップを続けていくために必要なことは?
M 独自の編集力を発揮しているショップは生き残ると思います。BOUTIQUEも、BAY Apt.もそう。たとえばラックに掛かっている服の並びや、棚の見せ方、すべてがちゃんと演出されているのはさすがです!
K まったくそんなこと考えていなかったです(笑)。お店って、自分のこだわりを詰め込める最高の空間ですよね。BOUTIQUEは僕のクローゼットみたいなもの。好きな服や小物に囲まれた場所でもあります。月に10日程度しか開けていないので、それなら自由に表現してみよう、と思っています。
A 僕も意図していなかったかもしれないです。逆に無骨すぎないかと心配していたのでよかった……。
K ファッション好きの方は、くすぐられる見せ方だと思います。
A とにかくお客さまに見やすいように、服をラックに掛けすぎないようにしています。その一点に限るかも。
M みっちり服を詰め込むと、一着あたりのスペースが狭すぎて、逆効果なことも。BAY Apt.の余白のある配置
は、まさにニッチでリッチ!
K お客さんのことを考えながらも、おのおのの好きなものに忠実に、そして軸を持ってセレクトをする。それぞれが一番魅力的に見える方法を模索していきたいですね。正解への道筋は一つではないと思うので。
急速に増加するヴィンテージショップ。セレクトやスタッフの個性が際立つ6店舗から、今のファッションの潮流を知る。
YAURAN@世田谷
古着とモードで育った二人が提案する秘密の園
老舗の古着店で経験を積んだ稲葉大輔さんと、インディペンデントなブランドが揃うセレクトショップで働いていた深沢謙太さんが昨年9月にオープンした「ヨウラン」。ここにはヴィンテージ通がうなる1950年代のミリタリーから、メゾンのルックに差し込みたい個性的なアイテムまで幅広いテイストのピースが揃う。それぞれの感性が融合し、独自の空間がつくられている。二人のこだわりが詰まった店内だが、ラックづくりには特に力を入れている。「隣り合わせになった服の年代や国、テイストなどをあえてバラバラにすることで、お互いの魅力を引き立たせるようにしています」と深沢さん。開店時はメンズを中心としたラインナップだったが、現在ではウィメンズコーナーを設置。買いつけたアイテムを並べたその日にラックごと売り切れるほどの人気ぶりだ。特に春夏に向けては柄ものが充実。民族柄からエキゾチックなフラワープリントまで、新しい服に出合えるチャンス。
東急世田谷線世田谷駅を降りてすぐ。買い物を楽しんだあとは、ショップ近くの「カフェ アンジェリーナ」でブレイク。
●東京都世田谷区世田谷1の15の11 大語ビル2F
◯営13時〜20時 不定休
Instagram: @_yauran_
the elephant@原宿
セレクトとヴィンテージ、垣根を越えた空間がここに
ERLやMARINA YEEなどを扱う「ジ エレファント」は、ファッション好きな若者がコミュニケーションを取るための集いの場。奥へと足を進めると、そこにはキュレーションされたヴィンテージスペースが。1990年代のコム デ ギャルソンや初期のラフ シモンズ、懐かしのNUMB
ER (N)INEまで、壁面の棚やラックにずらりと並ぶ。ノーブランドであっても、装飾や柄使いなどひとクセあるものは積極的に仕入れる。高品質かつ、商品のバリエーションが多いのは、買いつけに行く国が多いから。パリなど海外のコレクション時期にバイイングへ赴くことが多いため、最新のモードの流れを汲んで探し出すことができるのが強み。セレクトとヴィンテージ、両方が同じ空間にあるのは、最新のトレンドだけを追いかけるのではなく、さまざまなピースを組み合わせ、自分らしさを見つけてほしいという店からのメッセージだ。
原宿のファイヤー通りを抜けた奥道のひっそりした静かなエリアに店を構える。
●東京都渋谷区神宮前2の31の2 factory_01 B1
☎03−6455−4710
◯営13時〜20時 不定休
Instagram: @theelephantttt
ÉLÉMENTS@表参道
コレクションピースが揃う隠れ家的ファッションサロン
表参道のショッピングエリアから少し離れた、静かなマンションの一室で営業している「エレメンツ」。紫色のカーペットとシルバーの壁紙が引き立つ店内では、コーナーごとに置いている服や小物のカテゴリーが異なる。たとえばイタリアのブランドで固めたラックや、1980年代以降のアウトドアアイテムがまとめられている浴室など。その中でもミュウミュウのメンズの取り扱いが多く、日本屈指の品揃えを誇る。特に1999年春夏、秋冬シーズンで登場したアイテムの取り扱いが充実。人気のメッシュとレザーを組み合わせたアウターコレクションなど豊富なカラーパレットがラインナップ。ほかにもプラダや初期のアンダーカバー、ラッドミュージシャンなどを豊富に揃えている。個性が強いアイテムが多いため、時間をかけてゆっくり買い物を楽しみたい。中にはほぼ一日滞在する人もいるという、魅力があるヴィンテージショップだ。
今年の2月27日に3周年を迎えたばかり。表参道の中心地から少し逸れた裏道に店舗を構える。
●東京都港区南青山6の1の21 ピロティ南青山403
◯営14時〜19時 ㊡木曜
Instagram: @elements0109
VOSS@原宿
Y2Kのその先へ。次なる流行は2010年代にあり!?
2000年代ブームに影響され、ヒステリックグラマーやカルバン クラインがリバイバル中の現在。「VOSS」ではその先を行く、2010年代のブランドを猛プッシュ! たとえば、当時のモード界を席巻したヴェトモンや、両サイドの羽根モチーフが懐かしいジェレミー スコットとアディダスのコラボレーションアイテムなど、ついこの間まで登場していたプロダクトも展開。しかし、その頃の着こなしをそのまま再現するのではなく、スタイリングは2024年らしくアップデートするのが「VOSS」流。昨年のオープン当初はデザイナーズブランドのアーカイブスを取り扱う店として始めていたが、単純に"モノ"だけを売るのではなく、"スタイル"を含めて提案することに意味を見出した。ひとクセもふたクセもある個性豊かな服は、一見すると難しそうだが、日々のコーディネートに華を添える、いいアクセントになりそう。
奥まっている場所ながら、上質な古着店が点在するエリア。一部セレクトも展開。
●東京都渋谷区神宮前2の16の20 jingu
mae Flat1 A ☎080−5014−8342
◯営13時〜20時 不定休
Instagram: @voss_tokyo
REM@目黒本町
モットーはリアルな服を置くこと。全身のスタイリングで提案する
「私のショップでは、実際に着やすいものしか買いつけないようにしているんです。極端にいうと、この中にあるトップスとパンツはどれを組み合わせても素敵ですよ」とスタッフの里村さん。店内には抜きん出て奇抜な服は置いておらず、シーズンレスなスウェットや、重ね着しやすいボトムス、パリの蚤の市で見つけたシルバージュエリーなどが並んでいる。では、このお店の個性は何か? それはスタイリングの提案方法にある。「REM」のInstagramでは、色や柄、着丈やサイズ感をうまくミックスし、ルックごと購入したくなるようなスタイリングを紹介。ショップでもスタイリングした状態でハンガーに掛け、実際にどのように着たらいいのかを見せる。取り扱うアイテムは純粋に"着たい服か"を見極めて選ばれた、1960〜2000年代のアメリカやヨーロッパのもの。この幅の広さが魅力となる。
電車やバスで行くのもよいけれど、学芸大学駅や武蔵小山駅から歩くと、カフェや雑貨店など発見もある。
●東京都目黒区目黒本町4の13の10
◯営13時〜21時 不定休
Instagram: @if.rem
OHWER@豪徳寺
コミュニケーションを楽しみながら一点ものが見つかる場
1月にオープンした「オーワ」は、昨年3月に独立した大和由佳さんが一人でスタート。パーソナルな空間の中に置かれたヴィンテージは、まるで彼女のクローゼットをのぞき見しているよう。オーバーオールやチェックシャツなどのアメカジを象徴するアイテムと、デザイナーズブランドの独創的なウェアを掛け合わせた見せ方が得意。アディダスのスキーウェアや、GORE-TEXを採用したセットアップなど、機能的なメンズウェアが部分的に差し込まれているのも、この店の魅力だ。実店舗が誕生したのは今年だが、オンラインやポップアップショップでの運営は昨年から。全国各地をイベントで回りながら、オフラインの店舗への憧れが募っていったという。「やっぱりお客さまと会話を楽しみながら、買い物をしてもらう場所が必要でした。拠点を生かして、買いつけやショップのあり方を模索し、よくしていきたい」
豪徳寺駅から徒歩1分。窓際に飾られた花々が目印。ポップアップショップは今後も不定期で行う予定。
●東京都世田谷区豪徳寺1の44の1 マツヤビル3F
◯営13時〜20時 不定休
Instagram: @ohwer_