神戸で一番おいしい紅茶でひらめいた
今日は神戸・元町の地元っ子に愛される喫茶店「自鳴琴(おるごーる)」で情報収集の日。老若男女が集う純喫茶では、ミステリ小説片手にシックなスタイルで挑めば、聞き込みも弾む。トラディショナルなウィンドウペンチェックのケープに同柄のミニスカートを合わせ、60年代ムード満点でまといたい。ダブルカシミヤの上質なテクスチュアが知的なムードを加える。
『セイロン亭の謎』平岩弓枝著
神戸の山手にある古い洋館。そこは元町の人気紅茶店のオーナー一族が住む屋敷だった。館で女性社長、高見沢隆子が殺害されたのを皮切りに、関係者の周囲で不可解な事件が起こる。一族の後継者の学友であるルポライターの矢部悠は、事件の背景に興味を持つ。中国語で書かれた謎のメッセージが意味するものは? 高見沢家の洋館に隠された謎とは? セイロンティーやアッサムティー、紅茶から立ち上る香りの向こうに見えてくるのは、昭和初期まで遡る茶葉の輸出入の歴史。そこから高見沢一族の複雑な相関関係が浮かび上がる。紅茶が悲劇を呼び、裏切りを招き、欲望をかき立て、悲しい恋を生む。1990年代の神戸の描写も面白い。(文春文庫/803円)
黒か白か、それが問題だ
情報収集から浮かび上がってきた容疑者はひとり。彼は犯人なのか、そうでないのか……? ひらめきが確信に至るこの瞬間こそ、慎重を要する。創業100周年のカフェ「フロインドリーブ」は教会を改築した厳かな空間。熟考するティータイムはいつもこの場所で。ビッグボウのブラックドレスは体のシルエットを美しく見せてくれるミニ丈。高鳴る胸の鼓動とリンクするように、白いボウが揺れる。
『黙約 上・下』ドナ・タート著 吉浦澄子訳
カリフォルニア生まれの貧しい青年、リチャードが編入した東海岸の小さな私立大学。蔦に覆われたレンガの壁が取り囲むそこは、リチャードの夢見た世界だった。しかし彼が専攻を希望していた古代ギリシャ語クラスは少数精鋭、富裕層のエリートにしか許されない教室。ようやく入り込んだそのクラスはまったくの異次元だった。モロー教授が選抜した学生たちは特権意識を持ち、古代ギリシャの世界に耽溺するあまり道を踏みはずしていく。ドストエフスキーの世界を根底に、ギリシャ語やラテン語を駆使する若者たちを描いたこの小説は、寄宿舎学校、古典文学趣味などが合わさったサブカルチャー「ダーク・アカデミア」の元祖と呼ばれている。(新潮文庫/上巻825円・下巻869円)
視線を釘づけにする、その後ろ姿
「追っていたはずが、誰かに追われている?」。背後に視線を感じた気がした。前から見た姿はすらりとしたペンシルスカートだけれど、バックスタイルに特徴あり。ジャカード織りの大きなリボンベルトが揺れる後ろ姿が、視線を惹きつけたのかもしれない。プラダらしいスポーティなニットとの絶妙なバランスが、ミステリアスな人物像を描き出す。
『幻の女』〔新訳版〕ウイリアム・アイリッシュ著 黒原敏行訳
「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」。唯一無二の名フレーズで始まるサスペンス。妻を殺害した罪で、死刑執行が迫っている男。彼のアリバイを証明してくれるのは、事件の夜を一緒に過ごした女性。しかし、その女性の正体はわからず、彼が思い出せるのは彼女の不思議な帽子だけ。さらにその夜に彼を見かけた目撃者たちはこぞってそんな女性は存在しなかったという! パフュームの残り香のような、顔の見えない後ろ姿のような女性の影が、緊迫した物語のあちらこちらに漂っている。幻の女性を追って街をさまよっている気持ちに。二転三転する後半の展開には目がくらむかのよう。(ハヤカワ・ミステリ文庫/1,078円)
重ねて、隠して、ますます事件は袋小路に
犯人の目星がついたと思ったのもつかの間、事件は振り出しに。誰よりもパッションを心に秘めて捜査する探偵はもどかしい気持ちを抱えながら、高度なトリックを楽しんでいる。複雑なレイヤリングスタイルに身を包み、襟を正して。しっとりとした光沢感がある厚手のブラウスと、ボトムと色を合わせたボウトップスの二枚をレイヤリング。優雅さをたたえたボリューム感が生まれる。
『赤い館の秘密』【新訳版】A・A・ミルン著 山田順子訳
のどかなイギリスの田園風景の真ん中に建つ"赤い館"と呼ばれる屋敷。そこに滞在している友人ビルに会うために主人公のギリンガムがやってくると、屋敷の中から銃声が! そこで見つかったのは、当主マークの兄であるロバートの遺体。鍵のかかった部屋にロバートと一緒に入ったはずのマークの姿は忽然と消えていた。トラブルメーカーの兄と地元の名士である弟の間には何か確執があったらしい。屋敷で起こった殺人に興味津々のギリンガムは、ビルをワトソン役にこの事件の捜査を始める。『くまのプーさん』で有名な劇作家による、明るく楽しい本格派推理小説。ミステリが大好きだった彼の父親に捧げられている。(創元推理文庫/1,034円)
スコーン片手に、張り込みの日々
元英国銀行だったというデザインギャラリースペース「VAGUE」。幾重にも連なる回廊は、まさに今回の難事件を象徴するよう。待ち伏せしながら、犯人に続くヒントをひとつひとつ解いていこう。色や素材を繊細に重ねていったミュウミュウのレイヤリングこそ、そんなシーンにぴったり。レトロシックな水色のニットと、ボアのピンクコートのコンビネーションは、素敵なひらめきを与えてくれるはず。
『黄色い部屋の謎』【新訳版】ガストン・ルルー著 平岡 敦訳
『オペラ座の怪人』で知られる作者の密室トリックの元祖とも呼ばれる作品。舞台はフランスの古城を改造した物理学者スタンガースン博士の屋敷。研究室の隣にある"黄色い部屋"で何者かが博士の娘であるマチルドを殺そうとする事件が発生する。悲鳴を聞き博士とマチルドの婚約者が鍵のかかったドアを破ると、そこにいたのは血まみれの彼女だけだった。犯行現場は抜け道のない完全な密室。この謎にパリ警察のお抱え探偵と、18歳の新聞記者で数々の難事件を解決してきたルールタビーユが挑む。名探偵同士の推理合戦も見どころだ。タバコを吸う生意気なルールタビーユだが、ブリオッシュが好物という可愛らしい面も。(創元推理文庫/1,012円)
寝ても覚めても、考えるのは事件のことばかり
犯人を追って、たどり着いたのはがらんとした屋上。また見失ってしまった。ウルトラシックなロングコートとパジャマライクなセットアップをノンシャランに重ねた彼女は途方に暮れていた。翻弄される日々だが、安心して眠れるときが戻ってくることを夢見て、いつも心地よいワードローブをまとっていたい。
『四人の女』【新版】パット・マガー著 吉野美恵子訳
新聞の人気コラムニストが高級アパートメントの14階にある自分の部屋に、4人の女性を招待した。売れない時期に出会った前妻と、美しい女優である現夫人、仕事仲間の愛人、そして今の妻と離婚が成立し次第、結婚予定の若く裕福な婚約者。彼は自宅のバルコニーに細工をしてある。冒頭の文章で、誰かがそこから転落して死亡することはすでに明かされている。彼が憎んで殺そうとしている女性は誰か? 犯人ではなく被害者や探偵を当てる、ひねった設定の作品で知られるパット・マガー。この作品はほろ苦い恋愛小説にもなっている。1940年代のニューヨークの街の華やかさと誠実に生きられなかった男の悲しみが胸に残る。(創元推理文庫/1,100円)
異国情緒漂う神戸のミステリは突然に
路地をひとつ曲がると、きらびやかな街に迷い込んだ。中国の文化が色濃く残る南京町。予測不可能な輝きを生み出すビジューニットでドレスアップした探偵は、ついに犯人と対峙する。無事に事件解決にたどり着き、物語が完結する日は来るのだろうか。
『応家の人々』日影丈吉著
昭和14年、日本統治下の台湾。久我中尉はある事件の捜査を上官に命じられる。台南の名家出身の美女、応氏珊希の周辺で不可解な死が頻発しているというのだ。最初の夫は海難事故で死亡、次の夫は何者かに殺害されて、さらには彼女を原因とした毒殺事件が起こる。彼女は男たちを破滅させるファム・ファタールなのか? それとも背後に世界情勢と関係する陰謀があるのか? 主人公は美女の謎の行方を追って台南へ向かい、台湾最南端の屏東まで旅をする。マンゴーの並木道やさとうきび畑の風景、そして女性の体から漂う香り。古い街並みや暑気の中に立ち上る陽炎のような女の面影。エキゾチックで耽美な気分に浸れる作品。(中公文庫/990円)