モードとアートの交差点「テイルズ・アンド・テラーズ」 MIU MIUが描くこれからのフェミニニティ

モードとアートを交錯させ、女性たちの意識向上を促すミュウミュウ。10月半ばにパリで開かれた没入型イベント「Tales & Tellers」は短編映画の一連をライブ・パフォーマンスで再現する演出で、アートを通じてフェミニニティについて考える機会となった。

モードとアートを交錯させ、女性たちの意識向上を促すミュウミュウ。10月半ばにパリで開かれた没入型イベント「Tales & Tellers」は短編映画の一連をライブ・パフォーマンスで再現する演出で、アートを通じてフェミニニティについて考える機会となった。

「Tales & Tellers」を構成する、「女性たちの物語」とは?

MIU MIU
短編映画のシーンから抜粋・再解釈したコーナーが混在した会場

「Tales & Tellers」の出発点は、2011年にミウッチャ・プラダのイニシアチブによりスタートした短編映画シリーズ「Women’s Tales(女性たちの物語)」。年2本、ブランド側が選ぶ女性監督に、女性ならではの側面を描くフィルム製作を委ねるプロジェクトだ。女性の主役がミュウミュウの該当シーズンの服を纏いはするものの、長さや台詞の有無の制約はなく、構想から編集までが自由。だからゾエ・カサヴェテスによる映像と音楽のみのビデオ・クリップ風から、クロエ・セヴィニーの〝お笑い〟、コンテンポラリー・アーティストで’22 年にはショーのモデルも務めたミランダ・ジュライの社会学的視点まで、作風はさまざまだ。また3年前からは、パリ・ファッションウイークでのランウェイ会場の演出にあたり、女性アーティストとのコラボレーションも恒例になっている。それらの集大成として、10月半ばにアートフェア「アート・バーゼル・パリ」の一環として披露されたのが「Tales & Tellers」だ。インスタレーションにパフォーマンスを加えたイベントは常に進行形なため、ビジターはタイミングや参加の仕方によって異なるそれぞれの体験を楽しみ、フェミニニティに向き合った。

個々の物語を通じて、女性としての世界を見る目を養う

MIU MIU
イエナ宮の講堂では、虚栄心や女性らしさの多様性に関するトークが

「Tales & Tellers」を構想したのは、複数の表現方法をクロスオーバーしたキュレーションで定評のある、ゴシュカ・マクガ。彼女はミュウミュウの’25年春夏コレクションのゲスト・アーティストで、10月1日に開かれたショーの会場では「Tales & Tellers」の伏線として、新聞形式の印刷物やフィルムを発表した。彼女のアイデアを形にしたエルヴィラ・ディアンガニ・オセは、開口一番こう語った。

「ここでの体験は、まるでメタヴァース。実際に見てはじめて、驚きを感じるでしょう」。会場はミュウミュウの毎回のショーと同じく、オーギュスト・ペレによる1937年の建造物、パリ16区のイエナ宮。高い天井、連なる大窓、そして立ち並ぶコンクリート円柱のパースペクティブを舞台としての展開は、サイト・スペシフィック(特定の場所の特性を活かした設定)と言えるだろう。オープンスペースでは、「女性たちの物語」シリーズを成す28の短編映画に合わせ、同じ数だけのコーナーを設置。それぞれのコーナーでは、主役が象徴的なシーンを演じていた。シルバーのステンレスをセットの共通点としつつコーナーにより異なる演出では、それぞれにスマートフォン、タブレット、ラップトップ、大型モニターのいずれかを添え、絶えず短編映画を上映。小冊子と、各コーナーに記されたヒロインの名前や役柄(〝母〟〝シンガー〟など)を参照すると、どのコーナーがどの映画なのか解読可能に。時には突然すべてのパフォーマーが列を成してバックステージへと消え、しばらくするとまた練り歩きながら会場に現れる。そんな環境の中を徘徊するビジターたちは、気がついたらプレゼンテーションの一部に。またフィルムの〝再現〟にはランウェイのインスタレーションを手がけた7人のアーティストとのコラボレーションも加わり、実際には合計35のコーナーが展開された。

MIU MIU
「Women’s Tales」#1、ゾエ・カサヴェテスによる映画の1シーン

「ここでは短編映画に見入ったり、パフォーマーの語りに耳を傾けたり、一日中過ごすことも可能です。時間の制約から解き放たれたら、できることはたくさんあります。『The Truthless Times』(ゴシュカによる新聞)を読みふけり、今の世界について考えるのもいいでしょう。二次元コードをスマートフォンで読み取ると、紙面の背後にある60もの記事が現れますから。とにかく大切なのは個々の体験です」。エルヴィラは続けた。「『Tales & Tellers』は価値観をシェアする女性たちのコミュニティが一体となっての、いわばストーリーテリングです。ミュウミュウの偉業は、ジャンルの境をなくしたこと。ミウッチャが提唱するアートとファッションのつながりをコンセプトとしてとらえたゴシュカは、とても専門的な見解と美意識でもって、社会や政治における女性の役割を語っています。またミウッチャが言うように、ファッションは虚栄心と無関係ではありませんが、型にはまった考えの中で虚栄心が増長しないよう、私たち女性は考え直すのです」。「Tales & Tellers」が際立たせるのは、女性としての楽しさや強さ、そしてもろさ転じての美しさなのだ。

MIU MIU
新聞を配るのはゴシュカの短編映画『The Truthless Times』の登場人物

「ここでは自身のストーリーを通じて世界中に目を向けてほしいと思っています。ビジターが自分自身を見つけられたら、私たちの仕事の成果があったということですね」。エルヴィラはこう言って微笑んだ。

1993年のローンチ時には、ブランド名がミウッチャの愛称という事実も絡み、プラダの妹的な印象が強かったミュウミュウ。ここ2、3年で急激に躍進を遂げたのは、少女が急速に大人の女性になる段階に似ているかもしれない。長年のファンにとってはともに成長してきた親友、一方若い世代には自分たちの手をひいてくれる、お姉さん的存在。そんなミュウミュウとともに今後も日々女性としての自分に向き合っていきたい。あるときは軽やかに、あるときはシリアスに。

Elvira Dyangani Oseプロフィール画像
Elvira Dyangani Ose

エルヴィラ・ディアンガニ・オセ●ギニア系スペイン人。アート史を学んだ後ロンドンやニューヨークでキュレーターとしての経験を積み、現在はバルセロナ現代美術館館長。ロンドンでは大学の講師とテート・モダン諮問委員を兼任。プラダ財団のソート・カウンシルのメンバーも長年務める。

Goshka Macugaプロフィール画像
Goshka Macuga

ゴシュカ・マクガ●ポーランド出身。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズでアートを学び、現在もロンドン在住。史料の収集・研究により政治や社会の現況に問題を提起し、ジャンルをミックスし、他のアーティストたちも巻き込んだコンセプチュアルなインスタレーションで知られる。

INFORMATION

ホリデーシーズンにぴったりなミニバッグが登場!

INFORMATIONの画像_5

ミュウミュウの過去のアーカイブスタイルから着想を得た「アバンチュール」シリーズより、待望のミニサイズが新登場。ヴィンテージライクなナッパレザーと、上品でエレガントなシルエットが際立つ。特徴的なベルトのディテールに加えてユニークなバッグチャームを添え、オリジナリティ溢れるデコレーションを楽しみたい。

アバンチュール ミニ ナッパレザー バッグ(ストラップ付)<H13.2×W21×D8cm>¥ 456,500(予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ)

ミュウミュウ クライアントサービス
https://www.miumiu.com/jp/ja
0120-45-1993