祖父から莫大な財産を受け継ぎ、たった7歳で世界屈指のビリオネアになったバーバラ・ハットンは、夢のように美しいフェアリーのクリップを持っていた。全身にダイヤモンドをきらめかせ、小さな魔法の杖を振って、いまにも奇跡を起こしそうなフェアリー。バーバラが1941年にビバリーヒルズのヴァン クリーフ&アーペルで買い求めたジュエリーだ。

ヴァン クリーフ&アーペルは1940年代からフェアリーのクリップを作っていて、銀幕のスターやソーシャライトたちの間で絶大な人気を誇っていた。バーバラもいち早くフェアリーを手に入れて、羨望のまなざしを一身に浴びていた。なにせ彼女は大のヴァン クリーフ&アーペル好きで、ベッドで身体を休めているときも、このメゾンの豪奢なティアラをつけていたという逸話が残っているほど。けれど、あふれるほどの富に恵まれながらいつも心にさみしさを抱いていた彼女は、フェアリーが幸福を運んできてくれることを願っていたのかもしれない。

フェアリーのスタイルは、バーバラの時代から基本的に変わっていない。顔の部分には、大粒のローズカットダイヤモンド。背中には蝶やカゲロウ、トンボの透けるような羽。シェイクスピアの『真夏の夜の夢』に出てくる妖精たちのように華やかで、どこかミステリアスな魅力もたたえている。

でも、そのままでは終わらない。フェアリーの最新作は、手足がバレリーナのようにのびやかになって、ダイヤモンドのセッティングやプレシャスストーンの配色も、一段と細やか。進化を続ける現代のフェアリーは、おとぎ話の絵本からそのまま抜け出してきたかのような生き生きとした姿だ。

いつもヴァン クリーフ&アーペルは、愛や夢、希望といった幸福なエモーションをジュエリーに注ぎ込む。胸にあふれる言葉にならない気持ちも、最高級のダイヤモンドやプレシャスストーンで巧みに表現してしまう。このフェアリーたちも、眺めているだけで心が躍り、幸せな気持ちになってくる。
きっとバーバラは知っていたのだろう。ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーは、ただの贅沢品じゃない。ひととき幸福な夢を見せてくれる、魔法のジュエリーなのだと。
text: Keiko Homma