【名品時計物語】カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」。物語は空飛ぶ伊達男から始まった!

タイムレスな輝きを放つ名作時計には、秘密がある。比類なきデザイン、素材への飽くなき探求、そして卓越したクラフツマンシップ。どれもが重要なエレメントだが、もうひとつ欠かせないものがある。それは名作時計の背景にある、心に残る物語だ。関わった人々の思いにふれると、その時計をもっと好きになる。新連載「名品時計物語」では、現在も素敵な物語を紡ぎ続ける時計を集めてお届けしよう。

初回は20世紀初頭に誕生して以来、不動の人気を誇る「サントス ドゥ カルティエ」

タイムレスな輝きを放つ名作時計には、秘密がある。比類なきデザイン、素材への飽くなき探求、そして卓越したクラフツマンシップ。どれもが重要なエレメントだが、もうひとつ欠かせないものがある。それは名作時計の背景にある、心に残る物語だ。関わった人々の思いにふれると、その時計をもっと好きになる。新連載「名品時計物語」では、現在も素敵な物語を紡ぎ続ける時計を集めてお届けしよう。

初回は20世紀初頭に誕生して以来、不動の人気を誇る「サントス ドゥ カルティエ」

「サントス ドゥ カルティエ」とは

【名品時計物語】カルティエ「サントス ドの画像_1
© Cartier

「サントス ドゥ カルティエ」は、ルイ・カルティエが友人の飛行士アルベルト・サントス=デュモンのために創作した、世界初の実用的腕時計がファーストモデルだ。機能性とデザインがみごとに融合した伝説の時計は、ふたりの友情から誕生し、物語は今も語り継がれる。そのコレクションに今季加わった、女性にも似合うスモールモデル3型から目が離せない。

ハイエンドなジュエリー&ウォッチで有名な「カルティエ」

カルティエは1847年にフランス・パリでジュエラーとして創業し、現在では高級ジュエリーとウォッチをはじめ、ラグジュアリーメゾンとして世界的に知られる。20世紀初頭の「サントス」 ウォッチ発表をきっかけにウォッチメーカーとしても注目を集める存在となり、現在の礎を築いた。メゾンのヒストリーを見てみよう。創業者はルイ=フランソワ・カルティエ。’89年、3代目のルイ・カルティエがメゾンの経営に加わり、’99年にブティックを現在のラぺ通り13番地に移転。同時にいち早くプラチナを用いたガーランドスタイルのジュエリーを発表し、モダンジュエリーの先駆けとなる。1904年、英国王エドワード7世によって公式の王室御用達ジュエラーに認定され、ブティックには世界中の王侯貴族や富裕層が訪れるようになった。そんな頃ルイ・カルティエは、パリ社交界のセレブリティで伊達男として知られた飛行士アルベルト・サントス=デュモンに出会い、親交を深めていった。

カルティエの名を高めた腕時計「サントス ドゥ カルティエ」。その名称の由来とは?

カルティエ Cartier アルベルト・サントス=デュモン
サントス=デュモンは、幾つもの飛行機を自ら設計し製作した。そのうちのひとつ、15型飛行機に試乗する姿 Archives Cartier © Cartier

印象的な時計の名称は、19世紀末から20世紀初頭にパリで活躍したブラジル人飛行士、アルベルト・サントス=デュモンに由来している。近代航空科学のパイオニアであった彼は、パリを拠点に空を飛ぶ夢の実現に向けて邁進。飛行士として1897年に気球での初飛行を成功させる。その後は自ら設計した飛行船で、数々のレースに出場していた。そんな彼のために、ルイ・カルティエが考案し1904年に贈った世界初の実用的腕時計。それをもとにして1911年に発表されたのが、現在まで高い人気を誇る「サントス ドゥ カルティエ」コレクションの始まりだ。1978年には、今やアイコンとなったメタルブレスレットのモデルが誕生。またバリエーションとして、2019年にファーストモデルへのオマージュとして発表された「サントス デュモン」ウォッチがある。

先駆者どうしの友情から生まれた「サントス ドゥ カルティエ」の歴史を紐解く

時計 ウォッチ サントス ドゥ カルティエ 歴史
© Cartier © Valentin Abad

19世紀末から第一次大戦勃発ころまでの間、ベルエポックと呼ばれ繁栄を極めていた時代のパリでは、懐中時計がトレンド。上流階級の男性は、チェーンのついた懐中時計をジャケット下のジレのポケットに納めていた。

いっぽうサントスが空を飛ぶ時の服装は、機能性を重んじる個性的なものだった。より自由な動きを求めてキャスケットを逆さにかぶり、防護用のゴーグルを装着。舵と連結させたケーブルを通した、オーダーメイドのジャケットを着用した。従来のルールよりも、身体の動きやすさを重視する独自のスタイルは、スピードアップする新時代の気分をいち早く反映していた。

そんな彼にも、逃れられない悩みがあった。懐中時計だ。1900年、飛行船でエッフェル塔を周回したサントスは、マキシム ド パリで同席した友人ルイ・カルティエに、操縦中にジレのポケットから懐中時計を取り出して時間を確認するのが、非常に困難なことを打ち明けた。それを聞いたルイは、3年をかけて腕に着けることを前提とした時計を創作し、彼に贈った。共に時代を先取りする先見性の持ち主で、才能を認め合ったふたりの友情が、世界初の実用的腕時計の誕生につながった。1907年、飛行機の前身の初飛行に挑戦したサントスの腕には、リストウォッチがつけられていた。空飛ぶ男の腕時計はパリジャンの間で大きな話題となり、1911年にその時計をベースにした「サントス ドゥ カルティエ」が発売された。

「サントス ドゥ カルティエ」のデザインと機能性の密接な関係

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1912年にカルティエ パリによって販売された記録が残る「サントス」ウォッチ Vincent Wulveryck, Collection Cartier © Cartier

ラウンド型の懐中時計が主流だった時代に、スクエア型のリストウォッチはきわめて独創的だった。このモデルの発想の出発点は、機上で操縦中のサントスに必要な、動きを損なわないディテールと高い視認性。実用性が最も重視される中で、丸みを持たせたスクエアケースや目に見えるビス(鋲)、ケースと一体化したラグなどが単なるデザインにとどまらず、空中という過酷な状況にも耐えうる機能を備えていることに注目したい。腕時計の装着には、ストラップとバックルで本体を手首に固定するという、当時としては画期的な方法が編み出された。それらすべてが機能的なモダンデザインに集約され、この時計をオンリーワンの存在にしている。

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「サントス」ウォッチのデザイン画。ケースとラグが一体化し、ストラップを固定している Archives Cartier © Cartier

このモデルはダンディなサントスにふさわしく、スポーティでありながらエレガントだ。曲線が効果的に配されて流れるようなラインを描くケースと、そこにアクセントを添える、機械的な鉄鋼構造を導入した都会の建築に想を得たビス。ローマ数字のインデックスには、来るべきアールデコの予感が漂う。シンプルさ、革新性、実用性という普遍的な3条件を備えたファーストモデルのエッセンスが、時を超えて受け継がれ、現代の私たちの心をゆさぶる。

今「サントス ドゥ カルティエ」に注目が集まる理由

カルティエの名品時計の中でも、特に長い歴史を持つ「サントス ドゥ カルティエ」。今までのモデルはすべてサイズが大きく、機械式ムーブメントを搭載している。しかし2025年のWatches&Wondersで、新作としてクォーツムーブメントのスモールモデル3型が発表された。このモデルは女性にも着用しやすいサイズで、さらにクォーツムーブメントならではの扱いやすさも魅力。

新作はエフォートレスなファッショントレンドにフィットする、シンプルでユニセックスなデザイン。ジャケットからドレスまで、幅広くマッチする。またブレスレットモデルが誕生した1970年代の気分で、Tシャツやデニムに合わせたカジュアルな着けこなしも似合う。もうひとつ、「サントス ドゥ カルティエ」コレクションのすべての時計に、簡単に交換できるレザーストラップがセットされているのも嬉しいポイント。目的に合わせてブレスレットとストラップ、2つの表情を使いわけることができる。このように自然体で自分らしく自由な装い方を楽しめるから、人気はさらに高まりそうだ。

スモールモデル3型が新登場

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「サントス ドゥ カルティエ」スモールモデル〈YG、ケース34.5×27mm、クォーツ〉¥4,884,000 Antoine Pividori © Cartier

リューズにサファイアをあしらった、イエローゴールドモデル。昼は付属のアリゲーターストラップで洗練されたオフィススタイルに、夜はブレスレットでパーティへ!

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「サントス ドゥ カルティエ」スモールモデル〈YG、SS、ケース34.5×27mm、クォーツ〉¥1,584,000 Antoine Pividori © Cartier

べゼルに配されたイエローゴールドがスパイシーな、スティールとのコンビネーションモデル。異素材の組合せが華やかな表情を生む。付属のダークブルーのストラップは、カーフスキン製。

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「サントス ドゥ カルティエ」スモールモデル〈SS、ケース34.5×27mm、クォーツ〉¥962,500 Antoine Pividori © Cartier

シルバーサンレイダイヤルにブルースティール製の剣型針が映える、知的な印象のスティールモデル。自身で簡単に交換できる、カーフスキンのストラップを付属。

今こそ注目したい。信頼の3モデル

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「サントス ドゥ カルティエ」ウォッチ ミディアムモデル〈YG、ケース41.9×35.1mm、自動巻き〉¥5,636,400 Vincent Wulveryck© Cartier

陽に焼けた肌に似合いそうな、イエローゴールド製。マニュファクチュールによる機械式ムーブメントを搭載した、10気圧防水の本格派だ。アリゲーターストラップを付属。

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「サントス ドゥ カルティエ」ウォッチ ミディアムモデル〈PG、ケース41.9×35.1mm、自動巻き〉¥2,732,400 Amélie Garreau © Cartier

ピンクゴールドのケースとダークグレーのアリゲーターストラップの組合せがスタイリッシュな1本。マニュファクチュールによる機械式ムーブメントを搭載。カーフスキンストラップを付属。

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「サントス ドゥ カルティエ」ウォッチ ラージモデル〈SS、YG、ケース47.5×39.8mm、自動巻き〉¥1,980,000 Vincent Wulveryck© Cartier

機械式ムーブメント搭載のラージモデルは、パートナーにすすめたい。「クィックスイッチ」交換可能システムにより、付属のカーフスキンストラップへ簡単に交換できる。

「サントス ドゥ カルティエ」の自由なスタイリング集

スクエアフェイスの端正な佇まいが、洗練された着こなしに知性としなやかな強さを添えてくれる「サントス ドゥ カルティエ」。ジャケットでスタイリッシュに、スカートで上品に、シアートップスで今っぽく。モダンな装いと好相性。